口腔乾燥症(ドライマウス)は、唾液の分泌量が減少し、口腔内の湿潤度が低下する状態です。一日に分泌される唾液の量は通常1~1.5リットルとされていますが、この分泌量が明らかに減少することで様々な症状が現れます。
口腔乾燥症の主な症状には以下のようなものがあります。
症状の重症度は一般的に以下のように分類されます。
診断には以下のような検査方法が用いられます。
重症化すると、単なる不快感だけでなく、痛みによる会話や食事の困難、不眠などの全身症状へと進行する可能性があるため、早期の診断と対応が重要です。
口腔乾燥症の原因は多岐にわたり、様々な因子が関与しています。医療従事者として患者の治療計画を立てる際には、これらの原因を正確に把握することが重要です。
口腔乾燥症の最も頻度の高い原因は薬剤の副作用です。約400種類もの薬剤が唾液分泌を抑制する作用を持つとされています。
代表的な唾液分泌抑制作用のある薬剤。
これらの薬剤は、唾液腺に対する直接的な作用または自律神経系への影響を通じて唾液分泌を減少させます。複数の薬剤を併用している高齢者で特に問題になりやすい傾向があります。
以下のような全身疾患も口腔乾燥症の原因となります。
年齢を重ねることで口腔および顎の筋力低下、唾液腺の萎縮が進み、唾液分泌量が自然に減少します。65歳以上の高齢者の約30%が何らかの口腔乾燥症状を自覚しているというデータもあります。加齢による口腔乾燥は、他の因子と複合的に作用することが多いため、総合的な評価が必要です。
アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの鼻疾患により口呼吸を強いられる状態は、口腔内の水分蒸発を促進し、乾燥を招きます。また、エアコンによる室内の乾燥、マスク着用による口腔内環境の変化なども関連因子となります。
強いストレス状態では交感神経が優位となり、唾液分泌が抑制されます。不安やうつ状態などの精神状態も口腔乾燥に影響を与えることがあります。ときには客観的には唾液分泌量に異常がなくても、患者が口腔乾燥感を訴えるケースがあり、このような場合は心理的アプローチも考慮する必要があります。
口腔乾燥症の原因を特定するためには、詳細な問診と適切な検査が不可欠です。複数の因子が重なっていることも多いため、総合的な評価と個別化された対応が求められます。
口腔乾燥症の治療アプローチは、原因療法と対症療法の2つに大別されます。患者の状態や原因に応じた適切な治療選択が重要です。
原因療法は口腔乾燥症を引き起こしている根本的な要因を除去または改善することを目指します。
原因療法は根本的な問題を解決できる可能性がある一方、実施が困難なケースや効果発現まで時間を要するケースもあります。そのため、多くの場合は対症療法と併用して患者のQOL(生活の質)向上を図ることが現実的なアプローチとなります。
対症療法は唾液分泌量の増