化生とは、後天的におこる細胞の分化形質の異常で、分化成熟したある細胞が他の分化成熟した細胞の形態に変化する可逆的な現象です。この変化は、組織が継続的なストレス、刺激、または損傷に反応することで起こり、体が慢性的な刺激から身を守ろうとする適応メカニズムとして機能します。
化生は炎症、繰り返しの怪我、または継続的な感染症が原因となることが多く、食道、胃、膀胱、乳房、子宮頸部など体の多くの部位で発生する可能性があります。最近では、分化の異常ではなく細胞の移動の異常と捉える学者も多く、定義について議論が続いています。
化生の特徴:
ヘリコバクター・ピロリ菌感染
ピロリ菌感染は化生の最も重要な感染性要因の一つです。ピロリ菌に感染した状態が続くと、長期にわたり胃粘膜に炎症が起こり、これが加齢とともに萎縮性胃炎、腸上皮化生をもたらすと考えられています。
胃の粘膜に萎縮がおこると萎縮性胃炎の状態になり、その後腸粘膜に置き換わる腸上皮化生が発生します。近年では、こうした胃粘膜の萎縮と腸上皮化生の発現にピロリ菌が大きく関与していることがわかってきました。
環境的要因と化学的刺激
これらの環境要因は、該当組織に慢性的な炎症を引き起こし、細胞の分化異常を誘発します。
遺伝的素因
化生の発症には遺伝的要因が関与している可能性があり、胃がんやその他の消化器疾患の家族歴がある人はリスクが高まる傾向があります。年齢、性別、地理的位置なども重要なリスク要因となります。
自己免疫性疾患
自己免疫性萎縮性胃炎は、壁細胞が障害される遺伝性の自己免疫疾患であり、低酸症と内因子の産生低下が生じます。このような自己免疫疾患も胃粘膜の変化を引き起こし、腸上皮化生の発生リスクを高めます。
免疫系の関与
免疫系は自然免疫と獲得免疫の2つの部分で構成されており、慢性的な炎症状態では、炎症を引き起こす分子(サイトカインなど)が継続的に産生されます。重度の炎症や長期間にわたる慢性炎症は有害となり、化生の発生を促進する可能性があります。
腸上皮化生
最も重要な化生の一つで、胃の内壁細胞が腸の細胞に似た異常な変化を特徴とします。慢性的な酸逆流により食道(バレット食道)に、また継続的な炎症(慢性胃炎)により胃によく見られます。
腸上皮化生細胞は胃がん細胞になる危険性が高いことが証明されており、前がん病変であると結論付けられています。腸上皮化生細胞にはDNAメチル化異常の蓄積が加速するエピゲノム不安定性が存在することも示されています。
扁平上皮化生
喫煙者の気道では煙による刺激により、膀胱では慢性の感染や刺激により頻繁に発生します。代表的な例として、気管支の呼吸線毛上皮が重層扁平上皮に変化する現象があります。
胃穹窿部にみられる扁平上皮化生では、噴門部の胃粘膜が傷害された結果、再生過程で食道の扁平上皮が食道胃接合部を超えて下方に伸展すると考えられています。
その他の化生
従来の診断法の限界
化生の診断では、子宮頸部異型化生細胞の評価において判定者間の不一致が問題となっています。現在のベセスダシステムのカテゴリーを用いた評価では、異型を伴う化生細胞の判定者間でほとんど一致しないことが明らかとなっています。
新しい分子病理学的手法
化生の病理形態学ではなく分子レベルでの解決が望まれる概念の一つとされており、幹細胞工学を用いた研究が進んでいます。
エピゲノム解析の応用
腸上皮化生細胞に蓄積したDNAメチル化プロファイルを正確に測定することで、その特異的なエピゲノムフットプリントを解明する研究が行われています。これにより、化生細胞の発がんリスクをより正確に評価できる可能性があります。
臨床応用への展望
これらの先進的な診断手法により、化生の早期発見と適切な治療方針の決定が可能になることが期待されています。