膣トリコモナス症の最も特徴的な症状は、おりものの著明な変化です。患者から報告される典型的なおりものの特徴として、黄色から黄緑色を呈する泡沫状の分泌物が挙げられます。この泡沫状のおりものは他の感染症との重要な鑑別点となり、医療従事者が診断を進める際の重要な指標となります。
参考)https://goethe.clinic/std/issue/trichomonas/
おりものの臭いについても特徴的で、魚臭のような強い悪臭を伴うことが多く報告されています。この悪臭は患者の日常生活に大きな影響を与え、受診のきっかけとなることが多い症状です。量的にも明らかな増加が認められ、患者自身が異常を感じやすい変化となります。
参考)https://aoba-ladies.jp/chart/981/
症状の発現時期には個人差があり、感染後数日から1か月以上経過してから症状が出現することが多く、中には半年近く経ってから症状が現れるケースも報告されています。医療従事者は潜伏期間の長さを考慮し、患者の性的活動歴を詳細に聴取する必要があります。
参考)https://himeji-ladies.jp/course/venerealdisease/trichomonas/
重要な点として、約10-20%の患者は無症状であることが知られており、症状がないからといって感染していないとは言えません。この無症状例の存在は、パートナー検査の重要性を示しています。
参考)https://yoboukai.co.jp/std_26
膣トリコモナス症の診断には、顕微鏡検査が第一選択となります。新鮮な膣分泌物を採取し、生理食塩水で希釈した標本を位相差顕微鏡で観察します。活発に動くトリコモナス原虫が確認できれば陽性と判定されますが、顕微鏡検査のみでの診断は感度の限界があります。
参考)https://mymc.jp/clinicblog/329261/
顕微鏡で原虫が確認できない場合には、分離培養法やPCR法による精密検査が必要となります。PCR法は診断精度が高く、比較的短時間で結果を確認することが可能で、近年多くの医療機関で導入されています。培養法は時間を要しますが、抗菌薬感受性試験を同時に実施できる利点があります。
検体採取は滅菌綿棒を用いて膣壁や頸管から分泌物を採取します。採取時は患者の負担を最小限に抑えつつ、十分な量の検体を採取することが重要です。男性の場合は尿検査により診断を行いますが、女性より検出率が低いことが知られています。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/infection/infectious-diseases/trichomonas-vaginalis/
診断の際の注意点として、他の性感染症との併発の可能性も考慮する必要があります。トリコモナス感染により膣内環境が変化し、他の感染症にかかりやすくなることが報告されています。
参考)https://neoclinic-w.com/column/std/730
トリコモナス症の治療は、5-ニトロイミダゾール系薬剤であるメトロニダゾールが第一選択薬となります。日本性感染症学会では、メトロニダゾール250mgを1日2回、10日間の経口投与を推奨しています。この標準治療により、多くの症例で完治が期待できます。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E8%85%9F%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%B3%E3%83%A2%E3%83%8A%E3%82%B9%E7%97%87/contents/151130-000043-RMWIVZ
メトロニダゾールが無効または副作用により使用困難な場合は、チニダゾールへの変更を検討します。チニダゾール200mgを1日2回7日間投与、または500mgを4錠単回投与する方法があります。単回投与は服薬コンプライアンスが良くない患者に有効ですが、日本では2000mg単回投与のみが保険適用となっています。
妊娠中の患者に対しては特別な注意が必要で、妊娠3か月以内は経口薬の使用を避け、膣錠による局所治療を選択します。メトロニダゾール膣錠250mgを1日1回、10-14日間膣内投与、またはチニダゾール膣錠200mgを1日1回7日間投与を行います。
治療中の注意事項として、投与中および投与後3日間の禁酒が必須です。アルコールとの相互作用により、腹痛、嘔吐、潮紅などの副作用が現れる可能性があります。また、パートナーとの同時治療が原則で、ピンポン感染を防ぐために両者の治癒確認まで性行為を控える必要があります。
参考)https://mycare.or.jp/venereal-disease/trichomonas/
トリコモナス感染症の感染経路は性的接触が主ですが、他の性感染症と異なり、水分がある環境での間接的感染も可能です。下着、タオル、便器、浴槽などを介した感染により、性交経験のない女性や幼児にも感染が見られることがあります。この特徴は医療従事者が感染歴を聴取する際の重要なポイントとなります。
トリコモナス原虫は42℃以上で死滅するため、共用物品の熱湯消毒が有効な予防策となります。医療機関では器具の適切な滅菌処理、家庭では下着やタオルの個人専用化と定期的な熱湯洗浄が推奨されます。
性行為による感染予防には、コンドームの正しい装着が最も重要です。ただし、完全な予防は困難であり、不特定多数との性的接触を避けることも重要な予防策です。生理中の性行為は膣内でトリコモナス原虫が繁殖しやすいため、特に注意が必要です。
医療従事者として患者指導を行う際は、感染の多様な経路を説明し、パートナーとの同時検査・治療の重要性を強調する必要があります。また、治療後の再感染予防について具体的な指導を行うことで、患者の理解と協力を得ることができます。
トリコモナス感染症の特筆すべき点は、感染者の約60-70%が無症状であることです。この無症状感染者は自身の感染に気づかず、パートナーへの感染源となる可能性が高く、医療従事者にとって重要な課題となります。
無症状患者の発見には、パートナー検査の徹底が不可欠です。患者の性的パートナーが感染している場合、症状の有無に関わらず検査を実施し、陽性の場合は速やかに治療を開始する必要があります。特に男性は症状が現れにくいため、積極的なスクリーニングが重要です。
参考)https://www.jfshm.org/%E6%80%A7%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%88%E6%80%A7%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E3%81%AE%E7%A8%AE%E9%A1%9E%EF%BC%89/%E4%B8%BB%E3%81%AA%E6%80%A7%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E4%B8%80%E8%A6%A7/
無症状患者であっても、治療は症状がある患者と同様に行います。メトロニダゾール250mgの1日2回10日間投与が基本となり、パートナーとの同時治療を原則とします。治療中は性行為を控え、治癒確認まで継続的な管理が必要です。
参考)https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/trichomoniasis/
医療従事者は無症状患者に対し、感染の重要性と治療の必要性について十分な説明を行う必要があります。症状がないことで治療への意識が低下しがちですが、合併症予防や感染拡大防止の観点から治療完遂の重要性を強調することが大切です。また、定期的なフォローアップにより、治療継続を支援し、再感染の早期発見に努める必要があります。