Grade 4の内分泌系irAEでも、ホルモン補充で症状が安定すれば免疫チェックポイント阻害薬を再投与できる場合があります。
irAE(Immune-related Adverse Event:免疫関連有害事象)とは、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)によって引き起こされる免疫介在性の副作用です。 皮膚、消化管、肺、肝臓、内分泌腺など、ほぼあらゆる臓器に発現し得るという点が、従来の抗がん剤副作用とは根本的に異なります。
参考)https://gi-cancer.net/gi/fukusayo/fukusayo_15_1.html
つまり、irAEは「副作用」というより「免疫過剰反応」と理解するのが本質です。
irAEの重症度評価には、NCI-CTCAE(有害事象共通用語規準)v5.0が広く用いられています。 このスケールではGrade 1〜5の5段階に分類され、Grade 1が軽症(治療不要)、Grade 2が中等症(最小限の治療を要する)、Grade 3が重症(入院を要する)、Grade 4が生命を脅かす状態(緊急処置が必要)、Grade 5が有害事象による死亡と定義されます。
参考)https://www.scmc.or.jp/contents/wp-content/uploads/2025/08/6ac6c8d2e30732ba47b14ab5ce0c81ea.pdf
重要なのはGradeの判断方法です。
Grade評価において大切な原則が2点あります。 1つ目は、「Nearest matchの原則」:複数のGradeに該当すると判断した場合は高いほうに自動的に分類するのではなく、総合的に判断してもっとも近いGradeに分類すること。2つ目は、「何が行われたか」ではなく「何がなされるべきか」の医学的判断に基づいてGradingする点です。 例えば輸液が「実施された」からGrade 3ではなく、輸液が「医学的に必要だった」かどうかで判断します。
参考)https://www.scmc.or.jp/contents/wp-content/uploads/2025/08/6ac6c8d2e30732ba47b14ab5ce0c81ea.pdf
さらに、Gradingは面談当日ではなく、評価期間内で観察された最悪のGradeを記録するというルールも覚えておきましょう。
参考)https://www.scmc.or.jp/contents/wp-content/uploads/2025/08/6ac6c8d2e30732ba47b14ab5ce0c81ea.pdf
| Grade | 重症度の定義 | ICIへの一般的対応 |
|---|---|---|
| 1 | 軽症・症状なし・治療不要 | 継続(慎重なモニタリング) |
| 2 | 中等症・最小限の治療を要する | 休薬・ステロイド検討 |
| 3 | 重症・入院を要する | 休薬・高用量ステロイド開始 |
| 4 | 生命を脅かす・緊急処置が必要 | 原則中止(内分泌系は例外あり) |
| 5 | 死亡 | — |
irAEの発現時期も要注意です。治療開始後2ヵ月以内に多く発現しますが、好発現時期は明確ではなく、治療終了後も半年程度はモニタリングが必要とされています。
参考)https://gi-cancer.net/gi/fukusayo/fukusayo_15_1.html
免疫関連有害事象(irAE)副作用対策講座:CTCAE gradeによるICI対応フローを図解で解説
ガイドラインによるirAE管理の基本方針は、「GradeとICIの継続・休薬・中止の判断を連動させる」ことです。 ただし、臓器ごとに対応が異なるため、一律にGradeだけで判断するのは危険です。これが重要なポイントです。
参考)https://gi-cancer.net/gi/fukusayo/fukusayo_15_1.html
一般的なGrade別対応の原則は以下の通りです。
参考)https://gi-cancer.net/gi/fukusayo/fukusayo_15_1.html
Grade 3が出た場合の対応は迅速さが命です。
高用量ステロイド治療後は、少なくとも4〜6週間かけて漸減することが重要です。 急な減量はirAEの再燃を招きます。皮膚irAEの場合はGrade 1で外用薬・抗ヒスタミン薬、Grade 3〜4ではPSL 1〜2mg/kg/日内服へと切り替わります。 間質性肺炎のirAEではGrade 2で症状あり・内科的治療を要する段階、Grade 3で酸素投与が必要な高度症状、Grade 4で緊急処置が必要な生命危機状態と判断されます。
臓器別のgradeと治療選択に関する詳細フローチャートは、以下の参考資料が具体的です。
irAE大腸炎・下痢のGrade別フローチャート(communicate-irAE):Grade 1〜4それぞれの具体的対応手順を掲載
内分泌系irAEは他の臓器と比べて明確に異なるルールが存在します。
内分泌irAEの代表的なものには甲状腺機能異常、下垂体炎、副腎不全、1型糖尿病などがあります。 これらは症状が非特異的で、「だるさ」「体重変化」「血糖値の異常」などが原疾患のがんによるものと混同されやすく、見逃されるリスクがあります。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_18254
見落としが重大な結果につながります。
日本がん免疫療法学会のガイドラインでは、ICI投与中にHbA1c・TSH・FT4・KL-6を4〜6週ごとに測定することが推奨度グレードAとされています。 これを実施しないと内分泌irAEの早期発見が難しくなります。
参考)免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象マネジメント…
免疫チェックポイント阻害薬による内分泌代謝異常の治療方針:Grade判断と再投与基準の実際
irAEでICI治療を中止した後、再投与できるのかどうかは、多くの医療者が悩む問題です。結論から述べると、再投与は可能な場合がありますが、リスクと有効性を十分に検討したうえでの慎重な判断が必要です。
Grade 2以上のirAE後に再投与した場合、55%の症例で2回目のirAEが発現したという報告があります。 一方で、再治療による客観的奏効率は28.3%と一定の有効性も確認されており、効果とリスクのバランスは許容範囲内とも評価されています。
参考)重度irAE後のICI再治療、名大実臨床データが安全性と有効…
50%超の再発率、これは見過ごせません。
名古屋大学の実臨床データでは、重度irAE後のICI再治療において、グレード2以上のirAE再発・新規発現リスクは30.4%と報告されており、適切なモニタリング下での再治療の安全性と有効性が示されています。
参考)重度irAE後のICI再治療、名大実臨床データが安全性と有効…
再投与を検討する際の一般的な判断基準は以下の通りです。
参考)https://gi-cancer.net/gi/fukusayo/fukusayo_15_1.html
参考)https://www.jsmo.or.jp/news/jsmo/doc/20221212.pdf
参考)https://gi-cancer.net/gi/fukusayo/fukusayo_15_1.html
再投与判断に迷ったら多職種で議論すべきです。
ガイドラインでも「再投与の可否は個々の症例に応じて多職種で判断する」と記載されており、一人の医師が単独で決定するものではないとされています。 特にGrade 3〜4を経た症例では、腫瘍内科・専門科・薬剤師・看護師を含めたチームでの検討が不可欠です。
参考)https://www.jsmo.or.jp/news/jsmo/doc/20221212.pdf
重度irAE後のICI再治療に関する名大実臨床データ:安全性・有効性とirAE再発率の詳細
ガイドラインの内容を知っていても、現場で機能させなければ意味がありません。irAEの管理において、ガイドラインを「知っている」と「実践できている」には大きなギャップがあります。
ICI開始前に患者・家族に対して起こりうるirAEとその自覚症状を十分に説明することが、最初のステップとして推奨されています。 これが初期対応の速度に直結します。
参考)https://gi-cancer.net/gi/fukusayo/fukusayo_15_1.html
患者説明は管理の第一歩です。
定期モニタリングとして、内分泌障害・間質性肺炎などを考慮し、一般検査に加えてHbA1c・TSH・FT4・KL-6を4〜6週ごとに測定することが推奨グレードAとして定められています。 これを怠ると、無症状の内分泌irAEや軽度の肺障害が見逃され、Grade 3〜4に進行するリスクがあります。
参考)免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象マネジメント…
現場での実践に役立つ工夫として以下が挙げられます。
参考)免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象マネジメント…
参考)https://gi-cancer.net/gi/fukusayo/fukusayo_15_1.html
参考)irAE対応チーム|日本医科大学武蔵小杉病院 がん診療センタ…
チーム医療がgradeを下げます。
また、高齢患者では同じGradeのirAEであっても、若年患者と比べてICI継続よりBSC(最善の支持療法)への移行が選択されやすいという報告もあります。 年齢・PS・合併症などを含めた個別評価が不可欠です。
参考)https://www.jsphcs.jp/wp-content/uploads/2024/11/2021-dai2.pdf
ステロイド治療においては「irAEの治療薬の主役はステロイド」という原則がありますが、状態悪化が見られた際には必ずステロイドを増量するとともに感染症と腫瘍増悪の除外を行うことが重要です。 ステロイド自体が免疫を抑制するため、感染症の見逃しは患者の生命に直結します。
参考)https://oici.jp/file/202010/slide_202009-1.pdf
免疫チェックポイント阻害薬治療の副作用管理とガイドライン(2026年):施設・チームとしてのirAE対策の考え方を詳解
秋田大学irAEマニュアル2024年改訂版:Grade別の具体的なPSL用量・漸減スケジュールを収載