デキサメサゾンシペシル酸エステル(Dexamethasone cipecilate)は、日本で創製された合成副腎皮質ステロイド薬です 。この薬剤は、従来のデキサメタゾンにシペシル酸エステルという脂溶性官能基を導入することで、ステロイド骨格が持つ抗炎症作用を保持しつつ、組織への貯留性を高めることを目的として開発されました 。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00060365
現在、エリザス®という商品名で日本新薬から販売されており、本邦唯一の1日1回投与可能な鼻噴霧用粉末ステロイド製剤として臨床使用されています 。デキサメサゾンシペシルの分子式はC33H43FO7、分子量は570.69で、従来のデキサメタゾン(分子量392.46)よりも大きな分子構造を持ちます 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibi/60/6/60_238/_pdf
この薬剤の最大の特徴は、局所での高い貯留性と持続的な抗炎症作用を有することです 。脂溶性の向上により、鼻粘膜への吸着性が高まり、局所に長時間とどまることで、1日1回の投与で効果的なアレルギー性鼻炎治療が可能になります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00001996.pdf
デキサメサゾンシペシルは、体内で徐々にデキサメタゾンとシペシル酸に加水分解されます 。放出されたデキサメタゾンは、グルココルチコイド受容体(NR3C1)に結合し、抗炎症作用を発揮します 。
参考)https://www.kegg.jp/entry/dr_ja:D07073
この薬剤の作用機序は以下の通りです:
脂溶性の向上により、薬剤は鼻粘膜により長く貯留し、持続的な効果を発揮します 。これにより、従来のステロイド点鼻薬と比較して、投与回数を1日1回に減らすことが可能になりました。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibi/60/6/60_238/_article/-char/ja/
デキサメサゾンシペシルの血中濃度は極めて低く、健康成人における血漿中濃度は全例で定量限界未満(<16pg/mL)であることが確認されており、局所作用が主体であることが示されています 。
デキサメサゾンシペシルは、アレルギー性鼻炎の3大症状であるくしゃみ、鼻汁、鼻閉すべてに効果を示します 。特に鼻閉(鼻づまり)に対する効果が優れていることが臨床試験で確認されています。
参考)https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1amp;yjcode=1329712A1028
臨床試験結果:
通年性アレルギー性鼻炎患者406例を対象とした第Ⅲ相比較試験では、デキサメサゾンシペシル400μg/日(分1)投与群は、フルチカゾンプロピオン酸エステル200μg/日(分2)投与群に対して非劣性を示しました 。
効果発現時期については、以下のような特徴があります:
適応症は以下の通りです:
デキサメサゾンシペシルは、日本独自の粉末点鼻製剤として開発されました。現在、以下の2つの剤形が利用可能です :
1. カプセル外用製剤(初期型)
2. 定量噴霧式製剤(改良型)
用法・用量:
通常、成人には1回1カプセル(400μg)または各鼻腔に1噴霧(200μg)を1日1回、専用噴霧器を用いて鼻腔に噴霧します 。
参考)https://www.nippon-shinyaku.co.jp/ir/ir_news.php?id=112
使用上の特徴:
患者満足度調査では、約73.7%の患者が操作が簡単になったと回答し、63.1%の患者が継続使用を希望したという結果が報告されています 。
デキサメサゾンシペシルは局所作用が主体のため、全身性の副作用は少ないとされていますが、以下のような副作用が報告されています 。
主な局所副作用:
稀な重篤な副作用:
全身への影響:
健康成人を対象とした試験では、1日1回400μgおよび800μgを14日間投与した場合でも、下垂体・副腎皮質系機能の抑制は認められませんでした 。これは、局所作用が主体で全身への影響が最小限であることを示しています。
禁忌・慎重投与:
薬物相互作用:
CYP3A4阻害薬(リトナビル、イトラコナゾール等)との併用により、デキサメタゾンの血中濃度が上昇する可能性があります 。
安全性の観点から、定期的な受診により鼻腔内の状態をチェックし、副作用の早期発見に努めることが重要です。特に長期使用時は、眼圧測定や鼻腔内検査を定期的に実施することが推奨されます。