ダナゾール(商品名:ボンゾール)は性ステロイド系薬剤として、脳下垂体に直接作用してゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)の分泌を抑制します。この作用により卵巣からのエストロゲン分泌が抑制され、排卵が停止し月経も止まります。
子宮内膜症に対する効果
乳腺症に対する効果
臨床研究において、ダナゾール治療中に乳房のしこりや乳房痛の改善が観察されたことから、欧米では乳腺症の適応も承認されています。日本でも子宮内膜症・乳腺症治療剤として使用されています。
治療期間は通常4~6ヶ月間の内服が標準的ですが、副作用軽減のため子宮内リングや膣錠による局所投与も一部施設で試みられています。
ダナゾールの副作用は男性ホルモン様作用と関連するものが多く、発現頻度の高い順に以下のようになります。
高頻度副作用(10%以上)
中等度頻度副作用(0.5~10%未満)
低頻度副作用(0.5%未満)
男性化現象について
ダナゾールは部分的に男性ホルモン作用を有するため、声の太さの変化や体毛の増加といった男性化現象が起こる可能性があります。これらの症状は治療中止後に多くは可逆的ですが、声の変化については不可逆的な場合もあるため注意が必要です。
血栓症のリスク
非常に稀ですが、血管内で血液が固まる血栓症が発生する可能性があります。特に以下の患者では注意が必要です。
肝機能障害
ALT上昇が13.53%と高頻度で認められるため、定期的な肝機能検査が必須です。重篤な肝機能障害の兆候として以下に注意。
良性頭蓋内圧亢進症
頻度は不明ですが、頭痛、視覚障害、悪心・嘔吐を伴う良性頭蓋内圧亢進症の報告があります。持続する頭痛や視覚症状がある場合は速やかに検査が必要です。
妊娠への影響
ダナゾールは女性胎児の男性化を引き起こす可能性があるため、妊娠していないことを確認してから月経周期2~5日目に開始し、治療中は確実な避妊が必要です。
ダナゾールは肝代謝酵素CYP3A4を阻害するため、多くの薬物との相互作用が報告されています。
重要な薬物相互作用
薬剤名 | 相互作用 | 機序 |
---|---|---|
ワルファリン | 出血傾向増強 | 抗凝血作用の増強 |
カルバマゼピン | 作用増強 | 代謝阻害 |
シクロスポリン | 血中濃度上昇 | 代謝阻害 |
タクロリムス | 作用増強 | 代謝阻害 |
インスリン製剤 | 高血糖症状 | インスリン抵抗性増強 |
シンバスタチン | 横紋筋融解症 | CYP3A4阻害 |
臨床的注意点
投与量の個別化
乳腺症治療における臨床試験では、50mg×2回/日群、100mg×1回/日群、100mg×2回/日群で有効性と安全性が検討されています。副作用の発現状況に応じて投与量の調整が可能です。
患者背景別の注意点
モニタリング項目と頻度
副作用軽減のための工夫
局所投与法(子宮内リングや膣錠)の導入により、全身への副作用を軽減しながら長期治療を可能にする試みが行われています。これにより、従来の4~6ヶ月という治療期間の制限を超えた治療選択肢が提供される可能性があります。
患者教育のポイント
ダナゾール治療は適切な患者選択と綿密なモニタリングにより、子宮内膜症や乳腺症患者のQOL向上に大きく貢献する治療選択肢です。副作用の理解と適切な管理により、安全で効果的な治療を提供することが可能となります。
日本産科婦人科学会のガイドラインでは子宮内膜症治療における詳細な使用指針が示されています
http://www.jsog.or.jp/modules/guidelines/
厚生労働省の医薬品医療機器情報提供ホームページでは最新の安全性情報が確認できます
https://www.pmda.go.jp/