ビタミンB6は、ピリドキサール5'-リン酸(PLP)として体内で機能し、150以上の酵素反応に補酵素として関与します。特にアミノ酸代謝において中心的な役割を果たし、摂取したタンパク質をアミノ酸に分解し、それを再び体組織のタンパク質へと合成する過程を促進します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8467949/
タンパク質摂取量が増えるほど、ビタミンB6の要求量も高まることが知られています。糖尿病患者では、糖新生が亢進しアミノ酸代謝が活発化するため、ビタミンB6の必要量が増加します。医療従事者は、高タンパク食を指導する際や糖尿病患者の栄養管理において、ビタミンB6の充足状態を考慮する必要があります。
参考)ビタミンB6
また、ビタミンB6は糖新生やグリコーゲン分解にも関与し、エネルギー代謝全体を支える重要な栄養素です。脂質代謝においても、肝臓での脂質利用を最適化する働きがあります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4735993/
ビタミンB6は、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、GABA(γ-アミノ酪酸)といった主要な神経伝達物質の合成に不可欠です。特に、トリプトファンからセロトニンへの変換において、芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)の補酵素として機能します。
参考)ビタミンB6|栄養素カレッジ|大塚製薬
セロトニンは「幸せホルモン」として知られ、精神の安定に重要な役割を果たします。ビタミンB6不足によりセロトニン合成が滞ると、イライラ、不安、うつ症状のリスクが高まることが報告されています。実際に、ビタミンB6の血中濃度が低い人では、うつ病の発症リスクが高く、ビタミンB6投与によって症状が改善した動物実験データも存在します。
参考)ビタミンB6の働きとは?摂取量の目安やビタミンB6を多く含む…
さらに、ビタミンB6は興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸を抑制性のGABAに変換する酵素の補酵素としても働きます。この作用により、神経興奮と抑制のバランスを保ち、健全な神経機能を維持します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11528956/
ビタミンB6は赤血球の形成、特にヘモグロビン合成に必須であり、欠乏すると貧血を引き起こします。赤血球産生過程において、ビタミンB6はヘムの生合成経路に関与し、酸素運搬能力を維持します。
参考)ビタミンB6欠乏症 - 11. 栄養障害 - MSDマニュア…
免疫機能においても、ビタミンB6はリンパ球の産生やインターロイキン-2の生成を促進し、免疫応答を適切に調整します。臨床的には、ビタミンB6の充足が感染症への抵抗力や炎症反応の制御に寄与すると考えられています。
参考)厚生労働省eJIM
興味深いことに、ビタミンB6は強力な抗酸化物質としても機能し、カロテノイドやトコフェロールに匹敵する活性酸素消去能を持ちます。この抗酸化作用は、終末糖化産物(AGE)の低減にも寄与し、糖尿病合併症の予防に役立つ可能性があります。
参考)https://www.mdpi.com/2072-6643/13/9/3229/pdf
糖尿病患者では、血中ビタミンB6濃度が低下している例が多く報告されています。ビタミンB6はインスリンの効果を増強する働きを持ち、補給することで血糖コントロールや脂質代謝の改善が期待されます。
参考)糖尿病に効くサプリメント - 小早川医院
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)患者を対象とした臨床試験では、ビタミンB6(90mg/日)を12週間投与した結果、肝臓の脂肪蓄積や線維化の改善が認められました。また、動物実験において、ビタミンB6投与が高脂肪食による内皮機能障害、インスリン抵抗性、肝臓脂質蓄積を顕著に改善することが示されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8046002/
妊娠糖尿病の予防においても、ビタミンB6の役割が注目されています。ビタミンB6欠乏はトリプトファン-セロトニン経路を阻害し、膵β細胞の増殖不全と妊娠時の血糖調節不全を引き起こします。セロトニンシグナルは妊娠中の膵β細胞増殖に重要であり、ビタミンB6の充足が妊娠糖尿病予防に寄与する可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7998034/
妊娠中はビタミンB6の必要量が増加し、つわり症状の軽減にも効果が期待されています。つわりのある妊婦は、つわりのない妊婦に比べて血中ビタミンB6濃度が低い傾向があります。
参考)【完全解説】ビタミンB6はつわりに効果的?多く含む食べ物やサ…
つわりへの効果のメカニズムとして、ビタミンB6不足によりトリプトファン代謝が滞り、キサンツレン酸という物質が増加することが関与している仮説があります。また、妊娠中に増加するホルモンの代謝に補酵素として働き、過剰なホルモン蓄積を防ぐことで、つわり悪化を抑制する可能性も指摘されています。
参考)ビタミンB6はつわりに効果的?多く含む食べ物や効率よく摂取す…
日本産婦人科ガイドライン2017年版では、つわりの緩和にビタミンB6が有効であることが示されています。妊娠中の女性に対しては、1日1.3mgの摂取が推奨されています。ビタミンB6は胎児の神経系発達にも重要であり、適切な補給は母子双方の健康維持に不可欠です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10082995/
欠乏症の症状
ビタミンB6欠乏症では、脂漏性皮膚炎、口内炎、口角炎、舌炎などの粘膜・皮膚症状が特徴的です。これらは「皮膚や粘膜のビタミン」としての役割を反映しています。神経症状としては、手足のしびれ、ピンや針で刺されるような感覚、錯乱、易怒性、けいれん発作が報告されています。
参考)ビタミンB6欠乏症および依存症 - 09. 栄養障害 - M…
乳児では、ビタミンB6欠乏によるけいれん発作が起こることがあり、抗てんかん薬が効かない場合があります。成人では、貧血、食欲不振、吐き気なども生じます。
過剰症のリスク
一方、過剰摂取も問題です。200mg/日以上のビタミンB6を長期間摂取すると、末梢神経障害(手足のしびれ、感覚異常、筋力低下)が発生するリスクがあります。ポーランドの研究では、300~500mg/日摂取していた症例で神経症状が発生し、サプリメント中止後数週間で回復したことが報告されています。
参考)🧠 ビタミンB6と神経の健康:知っておきたい副作用と対策(2…
欧州食品安全機関(EFSA)は、末梢神経障害を重大な健康影響として認識し、上限摂取量の設定根拠としています。医療従事者は、サプリメント使用患者に対して適切な摂取量の指導を行う必要があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10189633/
推奨摂取量
日本人の食事摂取基準(2025年版)では、18~64歳の成人男性で1日1.5mg、65歳以上で1.4mg、18歳以上の女性で1.2mgが推奨されています。妊娠中は1.3mg、授乳期は1.4mgが推奨されます。
参考)ビタミンB6/B12の働きと1日の摂取量
令和元年度国民健康・栄養調査では、男性平均1.26mg/日、女性平均1.09mg/日の摂取量であり、一部の年齢層では推奨量に達していない可能性があります。
参考)ビタミンB₆とは? 主な働きや多く含む食べ物・1日の摂取量を…
ビタミンB6を多く含む食品
ビタミンB6は以下のような食品に豊富に含まれています。
参考)口内炎について
ビタミンB6は水溶性であるため、調理による損失に注意が必要です。生の魚や、蒸す・焼くなどの調理法で効率的に摂取できます。
参考リンク(厚生労働省 eJIM - ビタミンB6の詳細情報)
厚生労働省eJIM
このリンクでは、ビタミンB6の生化学的機能、推奨摂取量、欠乏症・過剰症の詳細について、医療従事者向けの専門的な情報が掲載されています。