アトガムとサイモグロブリンは、どちらも抗胸腺細胞グロブリン(ATG)製剤として再生不良性貧血の治療に使用される免疫抑制薬ですが、その由来と特性には重要な違いがあります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10758678/
アトガム(ATGAM)の特徴 🐴
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00070804
サイモグロブリンの特徴 🐰
参考)https://www.asas.or.jp/jst/news/doc/20140723/info006.pdf
両薬剤ともT細胞表面抗原(CD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD25、TCRαβ)や白血球表面抗原(CD11a)に対して高い親和性を示し、主にT細胞に細胞障害性を示すことで免疫抑制効果を発揮します。
参考)https://www.nmct.ntt-east.co.jp/divisions/hematology/atg/
抗胸腺細胞グロブリン製剤の作用機序は複雑で、単純なT細胞除去以上の効果があることが明らかになっています。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20230323001/672212000_30500AMX00124000_B100_1.pdf
共通の免疫抑制メカニズム 🔬
造血促進効果 📈
興味深いことに、ATG製剤は免疫抑制作用だけでなく、造血幹細胞の増殖を直接的に促進する効果も持っています。この作用には以下が含まれます:
この二重の作用により、単純にT細胞を抑制するモノクローナル抗体よりも、ポリクローナル抗体であるATG製剤の方が再生不良性貧血に対して優れた効果を示すと考えられています。
アトガムとサイモグロブリンの治療効果については、複数の比較研究が実施されており、興味深い結果が報告されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/7/101_1928/_pdf
主要な比較研究結果 📊
NIH(米国国立衛生研究所)が実施した前向き比較試験では、以下の結果が得られました:
この結果は統計学的に有意で、アトガムの優位性を示しています。
国際的な比較研究のメタ分析 🌍
6つの主要な国際比較研究をまとめた結果では:
各研究の地域別結果。
日本における使用実績 🇯🇵
わが国でのサイモグロブリン使用成績では、41例の再生不良性貧血患者に投与した結果、6ヶ月後の有効率は約40%程度と報告されています。
腎移植領域での比較 💊
腎移植後の急性拒絶反応治療において、サイモグロブリンとアトガムを比較した米国第3相比較対照試験では、血清クレアチニン値の回復率がサイモグロブリン群88%、アトガム群76%となり、サイモグロブリンが有意に優れた結果を示しました。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2011/P201100083/34053100_22000AMY00004000_B100_3.pdf
両薬剤の投与方法と安全性管理には重要な違いがあり、医療従事者は適切な知識を持って使用する必要があります。
アトガムの投与プロトコル ⏰
サイモグロブリンの投与プロトコル ⏱️
重要な安全性情報 ⚠️
両薬剤とも以下の副作用に注意が必要です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/7ba28e9d0693b2940c023c09baf4cabd5f38e0da
現在の医療現場では、患者の病態や背景因子を考慮した個別化治療が重要視されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10903521/
年齢による使い分け 👥
高齢患者(40歳以上)での造血幹細胞移植では、低用量ATG(1.5mg/kg/日×3日)の追加により、急性GVHD発生率の有意な低下と2年総生存率の改善が報告されています。これは従来の標準的な用量よりも低い設定で、副作用を抑えながら効果を得る戦略です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7342134/
投与量の最適化 📏
最近の研究では、従来の標準用量より低用量でも同等の効果が得られる可能性が示されています。ウマATGにおいて:
低用量群でも標準用量群と比較して、長期的な治療成績に有意差がないことが報告されており、副作用軽減の観点から注目されています。
併用療法の工夫 💊
ATG療法は単独で使用されることは稀で、通常以下との併用が行われます。
特殊な臨床応用 🔬
意外な臨床応用として、1型糖尿病の治療においても低用量ATGの有効性が報告されています。ATG投与によりCD4+ T細胞の機能抑制を誘導し、内因性インスリン産生の保持に寄与することが明らかになっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10543726/
将来の展望 🔮
現在、より特異的で副作用の少ない免疫抑制薬の開発が進められています。しかし、ATG製剤は30年以上にわたって使用され続けており、その多面的な作用機序により、今後も重要な治療選択肢として位置づけられると考えられます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6886146/
患者個々の病態、年齢、併存疾患、治療歴などを総合的に評価し、アトガムとサイモグロブリンの特性を理解した上で、最適な治療戦略を選択することが重要です。
NTT東日本関東病院血液内科によるATG療法の詳細解説
アトガム点滴静注液の薬事承認資料(PMDA)
サイモグロブリン点滴静注用の薬事承認資料(PMDA)