MCVが正常だからといって、亜鉛欠乏性貧血を除外してはいけません。
関連)https://med.augarten-japan.com/aenketsubouniyooMCVnokanbetsupointo.html

亜鉛欠乏性貧血の最大の特徴は、正球性(MCV 80〜100 fL)または小球性(MCV<80 fL)の貧血を示すという点です。鉄欠乏性貧血は典型的に小球性低色素性貧血(MCV↓・MCHC↓)を呈しますが、亜鉛欠乏単独では必ずしもMCVが低下しないのです。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.19020/CD.0000002044
鉄を合併欠乏している場合には小球性になりますが、亜鉛欠乏のみであれば正球性貧血として現れることもあります。つまり、MCV正常でも亜鉛欠乏が貧血の原因になり得ます。貧血の鑑別でMCVのみに頼ると亜鉛欠乏を見逃す可能性があるということですね。
関連)https://med.augarten-japan.com/aenketsubouniyooMCVnokanbetsupointo.html
赤芽球の分化・増殖に重要な転写因子であるGATA-1は、亜鉛を含むzinc finger proteinです。そのため、亜鉛欠乏により赤芽球の分化・増殖が障害され貧血となります。亜鉛は赤血球の成長全体を通じて必要と考えられており、DNA合成に必要な栄養素が不足すれば大球性貧血(MCV↑)となることもあります。
関連)https://www.kakohp.jp/web_magazine/web_health/003.html
研究によれば、女性の亜鉛欠乏性貧血の診断基準として、ヘモグロビン12.0g/dl以下、赤血球数380×10^4/mm^3以下、総鉄結合能(TIBC)380μg/dl未満の正球性正色素性貧血が妥当とされています。血清亜鉛の低下は必ずしも認めない点も重要です。
関連)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09670818/
亜鉛欠乏と同時に鉄欠乏を伴うことが多いため、複雑な病態を示すこともあります。実際、貧血者男性の54.2%、女性の41.1%が亜鉛欠乏性貧血が疑われるとの報告もあり、決して稀な疾患ではありません。
関連)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09670818/
もうひとつの重要な鑑別ポイントは血清総鉄結合能(TIBC)の動きです。鉄欠乏性貧血ではTIBCが上昇(増加)しますが、亜鉛欠乏性貧血ではTIBCが低下します。TIBCが鑑別の鍵となります。
関連)https://hokuto.app/post/LrUEUAYEo56bkCPZcQ01
以下の表で鉄欠乏性貧血、亜鉛欠乏性貧血、慢性疾患貧血(ACD)の違いを整理します。
関連)https://med.augarten-japan.com/aenketsubouniyooMCVnokanbetsupointo.html
| 病態 | MCV | TIBC | フェリチン | 血清亜鉛 |
|---|---|---|---|---|
| 鉄欠乏性貧血 | ↓(小球性) | ↑(増加) | ↓ | 正常 |
| 亜鉛欠乏性貧血 | 正常〜↓ | ↓(低下) | 正常〜↑ | ↓ |
| 慢性疾患貧血(ACD) | 正常〜↓ | ↓(低下) | 正常〜↑ | 正常 |
TIBCは、トランスフェリンに結合可能な鉄量を示し、血清トランスフェリン総量に相関します。「TIBC=不飽和鉄結合能(UIBC)+血清鉄」となり、TIBCの正常値はおおよそ240〜400μg/dLです。鉄欠乏の進展に伴う血清鉄低下・TIBC増加の結果、鉄飽和度(TSAT)は低下します。
亜鉛欠乏性貧血の特徴は血清総鉄結合能が低下する点です。この点が鉄欠乏性貧血との最大の鑑別ポイントとなります。フェリチンが正常〜高値を示す点も、鉄欠乏性貧血(フェリチン低下)との鑑別に有用です。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.19020/CD.0000002044
慢性疾患貧血(ACD)とは、TIBCとフェリチンのパターンが類似しているため、血清亜鉛値の測定が必須となります。血清亜鉛値が低下していれば亜鉛欠乏性貧血、正常であれば慢性疾患貧血と判断できます。
関連)https://med.augarten-japan.com/aenketsubouniyooMCVnokanbetsupointo.html
亜鉛欠乏症の診断は、亜鉛欠乏の臨床症状と血清亜鉛値によって行われます。血清亜鉛値の基準は以下のとおりです。
関連)https://www.carenet.com/news/general/carenet/60577
血清亜鉛は、早朝空腹時に測定することが望ましいとされています。これが基本です。食事の影響を受けるため、測定タイミングが診断精度に影響します。
関連)http://jscn.gr.jp/pdf/aen2018.pdf
亜鉛欠乏症の診断には、臨床症状・所見の有無も重要です。皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥創(難治性)、食欲低下、発育障害(小児で体重増加不良、低身長)、性腺機能不全、易感染性、味覚障害、貧血、不妊症のうち一項目以上を満たすことが必要です。上記症状の原因となる他の疾患が否定されることも診断基準に含まれます。
関連)https://hosono-ent.com/diseasename/1-8/
鉄剤が2〜3か月効かない貧血では血清亜鉛・銅・ALPをセットでオーダーすることが推奨されます。鉄の補充などの治療を受けても改善しにくい場合は、亜鉛欠乏の合併も鑑別に挙がります。MCVが正常でも亜鉛欠乏性貧血は否定できません。
関連)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/587gyvlagt8
亜鉛欠乏性貧血の治療は、亜鉛の補充を基本とします。「亜鉛欠乏症の診療指針2018」による治療量は、成人で亜鉛として50〜100 mg/日(分2、食後経口投与)です。小児は体重に応じて1〜3 mg/kg/日が目安とされています。
関連)https://med.augarten-japan.com/aenketsubouniyooMCVnokanbetsupointo.html
フェリチン40ng/dl以上の患者では亜鉛製剤34mg/日、フェリチン40ng/dl未満では亜鉛製剤34mg/日と鉄製剤100mg/日の投与が妥当であると考えられています。亜鉛投与群では血清鉄100μg/dl以上、フェリチン40ng/dl以上を有したものは亜鉛単独での貧血の改善が見られました。フェリチンが鉄併用の判断基準ということですね。
関連)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09670818/
研究では、鉄投与群、亜鉛投与群、鉄と亜鉛投与群に分けて8週間治療したところ、鉄と亜鉛投与群のみ有意の貧血の改善を認めました。亜鉛不足が原因である場合、鉄剤投与だけでは貧血が改善しないことがあります。亜鉛を同時に補充することで赤血球生成が正常化し、貧血が改善することがあります。
関連)https://www.shibuya-msc.jp/anemia/
亜鉛はミトコンドリア機能および赤血球生成において重要な役割を果たしており、亜鉛不足は酸化ストレスの増加やエネルギー代謝の低下を引き起こします。また、鉄代謝を助ける役割もあり、亜鉛欠乏は鉄欠乏性貧血と類似した症状を引き起こすことがあります。
関連)https://www.shibuya-msc.jp/anemia/
鉄剤投与後は、貧血改善とともに血清亜鉛値も治療前より有意に高値となったとの報告があります。血清亜鉛値は75%の者が上昇し、25%の者が低下しました。鉄欠乏性貧血者の血清亜鉛値は、対照よりP<0.01で有意に低値であったとの報告もあります。
関連)https://cir.nii.ac.jp/crid/1050845762551835136
銅欠乏症は汎血球減少や貧血を引き起こすことがあり、骨髄像において異形成を認めることから骨髄異形成症候群(MDS)との鑑別が必要になる場合があります。症例報告では、WBC 1.8×10^9/L(好中球26%)、Hb 6.7 g/dL、MCV 94.8 fL、PLT 159×10^9/Lであり、白血球の減少と貧血の進行を認めました。
関連)https://congress.jamt.or.jp/j73/pdf/general/0053.pdf
亜鉛投与中は、定期的(数か月に1回程度)に血清亜鉛、銅、鉄を測定することが推奨されます。これは必須です。銅欠乏による貧血・白血球減少、鉄欠乏性貧血が報告されているため、モニタリングが重要です。
関連)http://jscn.gr.jp/pdf/aen2018.pdf
スポーツ選手が亜鉛欠乏をきたすと、赤血球への影響に加えて強度の機械的刺激(激しい運動など)により溶血しやすくなり、貧血になりやすい可能性があるとされています。亜鉛欠乏のリスクが高い集団では特に注意が必要です。
関連)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/587gyvlagt8
低出生体重児、妊婦、高齢者は亜鉛欠乏になりやすく、また慢性肝障害、短腸症候群、糖尿病、慢性腎疾患等の疾患やキレート作用を有する薬剤の長期服用、亜鉛補充が不十分な静脈栄養・経管栄養も亜鉛欠乏の要因となります。これらのリスク因子を持つ患者では、貧血の鑑別に亜鉛欠乏を念頭に置くことが重要です。
「亜鉛欠乏症の診療指針2024」が2025年1月に発行され、7年ぶりの改訂となりました。きわめて重要な8つの改訂点が診療指針の冒頭に明記され、要旨を読めば最低限の理解がカバーできる構成になっています。最新の診療指針を確認することで、亜鉛欠乏症の診断・治療の精度を高めることができます。
関連)https://www.carenet.com/news/general/carenet/60577
亜鉛欠乏症の診療指針2018(日本臨床栄養学会)では、診断基準、治療方法、モニタリングについて詳細に記載されており、臨床現場での実践的なガイドとなります。
症状のない亜鉛欠乏症に注意、亜鉛欠乏症の診療指針改訂(CareNet)では、2024年版の改訂ポイントが解説されており、最新の知見を得ることができます。
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