SGLT2阻害薬の種類と一覧:作用機序と適応症の比較

糖尿病治療薬として注目されるSGLT2阻害薬の種類と特徴を詳しく解説しています。6種類の薬剤の比較、適応症、配合剤情報から腎保護作用まで網羅的に紹介。あなたの知らないSGLT2阻害薬の最新情報とは?

SGLT2阻害薬の種類と一覧

SGLT2阻害薬の基本情報
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作用機序

腎臓の近位尿細管に存在するSGLT2を阻害し、糖の再吸収を抑制して尿中に排泄させる

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日本での使用開始

2014年から使用開始、比較的新しい糖尿病治療薬

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特徴

インスリン作用とは関係なく血糖値を下げ、心血管イベント抑制や腎保護作用も期待

SGLT2阻害薬の作用機序と特徴

SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬の中でも比較的新しい薬剤群で、2014年にスーグラ錠(イプラグリフロジン)が日本で最初に発売されました。それ以降、複数の薬剤が相次いで市場に登場しています。

 

SGLT2阻害薬の最大の特徴は、その作用機序にあります。従来の糖尿病治療薬が直接的または間接的にインスリンの作用に依存して血糖値を下げていたのに対し、SGLT2阻害薬はインスリン作用とは全く異なるメカニズムで血糖値を下げることが可能です。

 

具体的には、腎臓の近位尿細管に存在するSGLT2(Sodium-Glucose Co-Transporter 2)を阻害することで、血液中のブドウ糖が腎臓で再吸収されるのを抑制し、尿中に排泄させる仕組みになっています。これにより、過剰な血糖を体外に排出し、血糖値を低下させる効果を発揮します。

 

この薬剤の臨床的な利点として、以下が挙げられます。

  • インスリン分泌に依存せずに血糖値を下げられる
  • 尿中にブドウ糖を排出するため、カロリー損失につながり体重減少効果が期待できる
  • 低血糖のリスクが比較的低い
  • 心血管系疾患の発症リスク低減効果
  • 腎保護作用の可能性

一方で注意すべき点として、尿路・性器感染症のリスク、脱水症状、ケトアシドーシスのリスクなどが報告されています。また、eGFR(推算糸球体濾過量)が低下した腎機能障害のある患者さんでは効果が減弱する可能性があるため、腎機能に応じた適切な使用が重要です。

 

SGLT2阻害薬6種類の比較表

現在日本で承認されているSGLT2阻害薬は6種類あります。それぞれの特徴を理解することで、患者さんの状態に応じた適切な薬剤選択が可能となります。以下に6種類のSGLT2阻害薬の基本情報と特徴を比較表としてまとめました。

 

一般名 製品名 適応範囲 通常用法 価格(参考)
イプラグリフロジン スーグラ 1型・2型糖尿病 1日1回 朝食前または朝食後 25mg: 108.7円/錠50mg: 162.6円/錠
ダパグリフロジン フォシーガ 1型・2型糖尿病慢性心不全慢性腎臓病 1日1回 5mg: 163.3円/錠10mg: 240.2円/錠
ルセオグリフロジン ルセフィ 2型糖尿病 1日1回 朝食前または朝食後 2.5mg: 142.3円/錠5mg: 210.7円/錠
トホグリフロジン デベルザ 2型糖尿病 1日1回 朝食前または朝食後 20mg: 154.4円/錠
カナグリフロジン カナグル 2型糖尿病慢性腎臓病(糖尿病を伴う場合) 1日1回 朝食前または朝食後 100mg: 149.9円/錠OD錠: 152.6円/錠
エンパグリフロジン ジャディアンス 2型糖尿病慢性心不全慢性腎臓病 1日1回 朝食前または朝食後 10mg: 188.9円/錠25mg: 322.6円/錠

これらの薬剤はいずれも2型糖尿病に対して適応がありますが、それ以外の適応症については薬剤間で差があります。特に注目すべき点として、フォシーガとスーグラは1型糖尿病にも適応がありますが、インスリン治療との併用が必須となっています。また、慢性心不全に対してはフォシーガとジャディアンスが、慢性腎臓病に対してはフォシーガ、カナグル、ジャディアンスに効能・効果が承認されています。

 

薬価面では、スーグラが比較的安価である一方、高用量のジャディアンスが最も高価格帯に位置しています。費用対効果を考慮した薬剤選択も重要なポイントと言えるでしょう。

 

SGLT2阻害薬の適応症について

SGLT2阻害薬は、当初は2型糖尿病の治療薬として開発されましたが、その後の研究で心血管イベントの抑制や腎保護作用などの多面的な効果が明らかになり、適応症が拡大しています。以下に、SGLT2阻害薬の適応症について詳しく解説します。

 

1. 糖尿病治療

すべてのSGLT2阻害薬が2型糖尿病に対して適応を持っています。特にインスリン抵抗性がある場合やBMIが高い患者さんに効果的と言われています。また、スーグラ(イプラグリフロジン)とフォシーガ(ダパグリフロジン)は1型糖尿病に対しても適応がありますが、必ずインスリン治療と併用する必要があります。

 

2. 慢性心不全

EMPA-REG OUTCOME試験の結果から、エンパグリフロジン(ジャディアンス)が心血管死を約40%減少させることが示され、大きな注目を集めました。現在、フォシーガ(ダパグリフロジン)とジャディアンス(エンパグリフロジン)が慢性心不全に対する適応を持ち、標準治療に追加することで予後改善効果が期待されています。具体的には、1回10mgの投与が推奨されています。

 

3. 慢性腎臓病

腎臓病領域においても、SGLT2阻害薬の有効性が証明されています。フォシーガ(ダパグリフロジン)、カナグル(カナグリフロジン)、ジャディアンス(エンパグリフロジン)が慢性腎臓病に対する適応を取得しています。

 

特に腎機能に関しては、対象となるeGFR(推算糸球体濾過量)の範囲が薬剤によって異なります。

  • フォシーガ:eGFR 25mL/min/1.73m²以上
  • カナグル:eGFR 30mL/min/1.73m²以上(糖尿病を伴う場合に限る)
  • ジャディアンス:eGFR 20mL/min/1.73m²以上

このうちジャディアンスが最も広いeGFR範囲で使用可能であり、より重度の腎機能障害の患者さんにも適応があります。

 

SGLT2阻害薬の適応を検討する際には、患者さんの病態(糖尿病の有無、心不全の有無、腎機能など)を総合的に評価し、最適な薬剤を選択することが重要です。また、これらの薬剤は経口血糖降下薬の中でも特殊な位置づけにあり、糖尿病の原因(インスリン分泌低下、抵抗性増大)に応じた他の薬剤との併用も検討されます。

 

SGLT2阻害薬の配合剤とその使い方

SGLT2阻害薬の単剤での効果が確立される中、他の糖尿病治療薬との配合剤も開発され、臨床現場で使用されています。配合剤は複数の薬剤を1つの錠剤に組み合わせることで、服薬の利便性を高め、患者さんのアドヒアランス向上に寄与します。

 

現在、日本で承認されているSGLT2阻害薬の主な配合剤は以下の通りです。

製品名 配合成分 通常用法
カナリア カナグリフロジン+テネリグリプチン(DPP-4阻害薬) 1日1回
スージャヌ イプラグリフロジン+シタグリプチン(DPP-4阻害薬) 1日1回
トラディアンス エンパグリフロジン+リナグリプチン(DPP-4阻害薬) 1日1回

これらの配合剤の特徴として、主にSGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬を組み合わせていることが挙げられます。これは両薬剤の作用機序が補完的であるためです。SGLT2阻害薬は尿中へのブドウ糖排泄を促進し、DPP-4阻害薬はインクレチンの分解を抑制してインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制を行います。

 

しかし、配合剤を使用する際には重要な注意点があります。

  1. 配合剤は糖尿病治療の第一選択薬として使用できません。必ず単剤または2剤併用での治療から開始し、用量を固定した上で配合剤へ切り替える必要があります。
  2. 用量調整の難しさ:配合剤は用量が固定されているため(多くは低用量のLD製剤と高用量のHD製剤)、細かな用量調整ができません。
  3. 適応の制限:配合剤は経口血糖降下薬で効果が不十分であった場合にのみ使用できます。

実際の臨床現場での配合剤の使い方としては、まずSGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の単剤をそれぞれ処方し、効果と安全性を確認します。両薬剤の効果が安定し、用量調整が不要と判断された段階で配合剤へ切り替えるというステップを踏むことが一般的です。

 

配合剤は服薬錠数を減らすことができるメリットがありますが、副作用発現時の対応が難しい点や、個々の患者さんに応じた細かな用量調整ができない点などのデメリットもあります。患者さんの状態や生活背景、アドヒアランスなどを考慮した上で、配合剤の使用を検討することが重要です。

 

SGLT2阻害薬の腎保護作用と最新研究動向

SGLT2阻害薬は当初、血糖降下作用を目的として開発された薬剤ですが、近年の研究により腎保護作用を有することが明らかになってきました。この発見は糖尿病治療の概念を変えるほど重要な知見と言えます。

 

腎保護作用のメカニズム

SGLT2阻害薬の腎保護作用には、いくつかの機序が関与していると考えられています。

  1. 糸球体内圧の低下:SGLT2阻害薬はNa(ナトリウム)の再吸収を抑制し、尿細管糸球体フィードバック機構を介して輸入細動脈の収縮を引き起こします。これにより糸球体内圧が低下し、腎臓への負担が軽減されます。
  2. 代謝改善効果:血糖値の改善、体重減少、血圧低下、尿酸値の低下など、腎臓に好影響を与える全身的な代謝改善効果があります。
  3. 直接的な抗炎症・抗線維化作用:腎臓の炎症や線維化を直接抑制する効果も報告されています。
  4. 腎エネルギー代謝の改善ケトン体産生の増加により、腎臓のエネルギー代謝が改善する可能性が示唆されています。

大規模臨床試験の結果

腎保護効果を実証した主要な臨床試験として、以下が挙げられます。

  • EMPA-REG OUTCOME試験:エンパグリフロジン(ジャディアンス)が心血管イベントだけでなく、腎複合アウトカムも有意に減少させました。
  • CANVAS試験:カナグリフロジン(カナグル)が腎機能低下の進行を抑制することが示されました。
  • DECLARE-TIMI 58試験:ダパグリフロジン(フォシーガ)が腎複合アウトカムを改善することが示されました。
  • DAPA-CKD試験:糖尿病の有無にかかわらず、ダパグリフロジン(フォシーガ)が慢性腎臓病患者の腎機能低下進行と腎死亡リスクを低減することが実証されました。

腎機能低下患者における使用

興味深いことに、以前は腎機能低下患者に対するSGLT2阻害薬の使用は制限されていましたが、最新の研究では腎機能が低下した患者においても腎保護効果が認められています。現在では、特にジャディアンス(エンパグリフロジン)はeGFR 20mL/min/1.73m²以上の患者に使用可能となっています。これは、腎機能が低下しているにもかかわらず、SGLT2阻害薬の腎保護作用が維持されていることを示唆しています。

 

今後の展望

現在進行中の研究では、SGLT2阻害薬の腎保護効果のさらなる解明や、より広範な腎疾患への適応拡大の可能性が検討されています。また、各種SGLT2阻害薬の腎保護効果の比較や、他の腎保護薬(RAS阻害薬など)との併用効果についても研究が進んでいます。

 

SGLT2阻害薬の腎保護メカニズムに関する最新研究(Kidney International誌掲載)
SGLT2阻害薬は、単なる血糖降下薬からカーディオリナールプロテクション(心臓・腎臓保護)薬へとその位置づけが変化しつつあります。特に腎臓病領域では、糖尿病の有無にかかわらず腎保護効果を発揮する可能性があり、腎臓病治療のパラダイムシフトをもたらしています。今後も継続的な研究により、SGLT2阻害薬の新たな可能性がさらに明らかになることが期待されます。