NSAIDによる胃腸障害は最も一般的な副作用として知られ、プロスタグランジン(PG)産生抑制による胃粘膜保護機能の低下が主原因となります 。投与中の関節炎患者では胃潰瘍が15.5%、十二指腸潰瘍が1.9%、胃炎が38.5%に発症していたという報告があり、決して稀な副作用ではありません 。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000240121.pdf
NSAID胃腸障害の特徴として、胃潰瘍は通常の潰瘍と比較して胃角部には少なく幽門部や体部に多く認められ、約半数は多発性で不整形を呈します 。症状としては上腹部痛、胸やけ、食欲不振が主体となりますが、高齢者では症状が軽微な場合も多く、重篤化してから発見される例も報告されています 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1g03.pdf
消化管出血はNSAID起因性潰瘍の最も重篤な合併症であり、上部消化管出血のリスクはオッズ比でNSAID服用者6.1と報告されています 。また、下部消化管についてもNSAID服用患者の0.9%に下部消化管出血が発生し、本邦では長期服用者の3.6%に大腸病変を認めたとする報告があります 。
参考)薬剤性消化管障害(非ステロイド抗炎症薬 と抗血小板薬)につい…
NSAIDによる心血管副作用は2004年のrofecoxib(バイオックス)の市場撤退以降、国際的に注目されている重要な副作用です 。メタ解析によると、すべてのNSAIDが急性心筋梗塞のリスク増加と関連し、ナプロキセンも例外ではないことが明らかになっています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5423546/
心筋梗塞リスクは薬剤ごとに異なり、ジクロフェナクが最も高く非使用の1.5倍、アセトアミノフェンやイブプロフェンの1.2倍、ナプロキセンの1.3倍との報告があります 。特に使用開始から1ヶ月以内にリスクが最も高くなり、高用量使用時により顕著になることが判明しています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6490377/
日本でも匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)を用いた調査により、アスピリンを除くNSAIDについて心筋梗塞及び脳血管障害の発症リスクの増加傾向が示唆され、2024年10月に添付文書の改訂が行われました 。COX-2選択的阻害薬も従来のNSAIDと同等のリスクがあることが確認されており、薬剤選択時の重要な考慮事項となっています 。
参考)NSAIDで心筋梗塞リスクが増大?44万例の調査/BMJ
NSAIDによる腎機能障害は、プロスタグランジンE2(PGE2)やプロスタサイクリン産生抑制により水やナトリウムの再吸収抑制機能が低下することで発症します 。この機序により腎血流量が低下し、特に高齢者や既存の腎機能低下患者で急性腎障害のリスクが高くなります 。
参考)NSAIDs:どんな薬?薬局で買えるの?副作用や使えない人は…
血圧上昇もNSAIDの重要な副作用であり、COX-2阻害薬を含むすべてのNSAIDが正常血圧者および高血圧患者の血圧上昇に関与することが報告されています 。同時にカルシウム拮抗薬以外の降圧薬の効果も減弱するため、降圧薬の増量というポリファーマシーの原因となることもあります 。
参考)https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14778
利尿薬、ACE阻害薬、ARBとの併用時には相乗的に腎機能障害を引き起こすリスクがあり、「トリプルウィンミー」として知られる薬物相互作用への注意が必要です 。腎機能モニタリングと適切な薬剤選択が重要となります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/d326d1e8982d2b4f54a0ce71e1be86ca00d8a3c9
NSAIDによるアレルギー反応は蕁麻疹や血管浮腫として現れ、使用後数分から数時間で頚部、顔面、四肢に皮疹が出現します 。血管浮腫は口唇と眼瞼に生じやすく、蕁麻疹より遅れて出現し数日持続することが特徴的です 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/12/dl/s1213-4k.pdf
特に重要なのはアスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)で、成人喘息患者の約7%に認められる特殊な病態です 。30~50代の女性に多く、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎を高率に合併し、嗅覚低下も特徴的な症状となります 。
参考)NSAIDs過敏喘息(アスピリン喘息)について~喘息の方が解…
アスピリン喘息患者では構造に関係なくCOX-1阻害作用を有するすべてのNSAIDで発作が誘発される可能性があり、非アレルギー学的過敏症状として位置づけられています 。息苦しさや喉のつまり感が出現した場合は緊急受診が必要で、救急車の利用も推奨されています 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1h13_r01.pdf
長期間のNSAID使用では、異所性石灰化という稀な副作用が報告されています 。これは正常骨以外の軟部組織へのカルシウムの非生理的な沈着で、慢性腎不全患者に高頻度で認められる合併症ですが、NSAID使用との関連も指摘されています 。
参考)https://jsn.or.jp/journal/document/49_4/416-421.pdf
異所性石灰化は関節周囲に腫瘤を形成することがあり、右橈骨異常腫塊として発見されたケースでは、長期のNSAID使用歴が確認され、最終的に骨源性平滑肌肉瘤の診断に至った症例も報告されています 。
参考)http://www.hyread.com.tw/doi/10.53106/2410325X2023121002006
この副作用は稀ではありますが、長期NSAID使用患者での定期的な画像検査や身体診察の重要性を示唆するものとして、臨床現場での認識向上が求められています 。シメチジン内服による治療効果も報告されており、新たな治療選択肢として注目されています 。
参考)シメチジン内服が奏効した慢性腎不全患者に生じた多発性異所性石…