脳の栄養素と聞けば、多くの医療従事者はDHAやビタミンB12を真っ先に思い浮かべるでしょう。
しかし、ウリジンを単独で12週間摂取するだけで、40歳以上の記憶力スコアが有意に改善します。
ウリジンとは、RNA(リボ核酸)を構成するピリミジン系ヌクレオシドの一つです。成人の体内では主に肝臓がウリジン一リン酸(UMP)を合成し、血中に分泌しています。サプリメント市場では「ウリジン モノフォスフェート(UMP)」として販売されることが多く、1カプセルあたり200〜350mgの製品が一般的です。
ここで重要な違いがあります。経口摂取されたUMPは消化管内で速やかにウリジンへ変換され、その後、血液脳関門(BBB)を通過できる形で脳内に到達します。つまりUMPが直接脳に届くわけではないのです。
一方で、同じピリミジンヌクレオチドであるCMP(シチジン一リン酸)やシチジンは血液脳関門を通過しません。これが重要なポイントです。脳がリン脂質合成に使えるピリミジン源は、実質的にUMPが脱リン酸化されて生じるウリジンだけということになります。
ヤマサ醤油株式会社の研究によると、母乳の核酸組成はAMP・GMPなどのプリンヌクレオチドよりも、CMP・UMPなどのピリミジンヌクレオチドが圧倒的に多い構成になっています。母乳は乳幼児にとっての完全食であることを考えると、この比率は乳幼児期の脳神経発達におけるUMPの重要度を反映していると解釈できます。
低分子で水溶性が高いため、ドリンク・カプセル・粉末など幅広い剤形に対応しやすい点も、サプリ原料として注目される理由の一つです。
▶ ヌクレオチドの認知向上研究(ヤマサ醤油・HealthBusiness Online)|UMPの12週間ヒト試験結果の概要が掲載されています。
医療従事者が患者への情報提供や栄養指導を行う際、最も求めるのが「ヒトを対象とした臨床試験のデータ」です。ウリジンに関して、近年注目に値する結果が報告されています。
ヤマサ醤油が実施したランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験では、40歳以上で「記憶力の衰えを自覚する健常な中高齢者」を対象に、UMP単独を12週間経口摂取させました。その結果、プラセボ群と比較して、記憶力・認知柔軟性・全般的な認知機能の指標である神経認知インデックスのスコアで有意な差が確認されました(中川原ら、薬理と治療, 50, 1565, 2022)。
これはどのくらいのインパクトがある数字でしょうか? 認知機能を測る神経認知テストは、「言葉の遅れ想起」「注意力の持続」「処理速度」など複数の領域を評価するもので、1つの領域だけでなく複数の領域で有意差が出た点が重要です。つまり、特定の側面に偏った効果ではなく、脳全体の情報処理能力を底上げするような働きを示したということです。
なぜこうした効果が起きるのか? メカニズムの鍵は「リン脂質の合成」にあります。
ウリジンは脳内でシチジン三リン酸(CTP)に変換され、CDP-コリンの前駆体となります。CDP-コリンはホスファチジルコリンなどの主要な神経細胞膜リン脂質の合成に不可欠な素材です。神経突起のスパインやシナプス膜はリン脂質で構成されており、UMPの供給が増えるとシナプス形成の「材料」が整う、というメカニズムです。
アセチルコリン(主要な記憶関連神経伝達物質)もホスファチジルコリンから合成されるため、UMP摂取 → リン脂質合成促進 → アセチルコリン合成増加 → 記憶・学習機能のサポートという経路が働くと考えられています。
麻酔科医や神経内科医、また老年医学を扱う医師にとって、既存の認知症治療薬(コリンエステラーゼ阻害薬など)が症状の進行抑制を主目的とする中、予防・底上げのアプローチとして栄養介入を位置づけることへの関心が高まっています。UMPサプリはその選択肢の一つとして検討に値します。
▶ 認知症の早期発見・予防・治療研究会 第20回抄録集(2025年)|「ウリジル酸Naは脳機能を支える栄養素である」ヤマサ醤油石毛和也氏の講演内容を含む学術資料です。
ウリジンの臨床的な活用が特に期待される領域の一つが、末梢神経障害(ニューロパチー)です。これは脳機能への効果とはまた別の、神経保護・神経修復という観点からの用途です。
400名を対象とした臨床試験で、ビタミンB12・ウリジン・シチジンの組み合わせが末梢神経性疼痛を有意に軽減し、B12単独より優れた効果を示したことが報告されています。さらに212名の末梢神経障害患者を対象とした別の試験では、ウリジン+葉酸+B1/B12の組み合わせにより、疼痛の強度と疼痛部位数の両方が有意に低下しました。手根管症候群患者48名を対象にした試験では、この組み合わせで痛みの強度が約40%低減したというデータも出ています。
これは使えそうです。糖尿病性神経障害や化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)を担当する医師・看護師・薬剤師にとって、神経障害性疼痛の「補助的な栄養介入」の選択肢として頭に入れておく価値があるデータです。
もちろん、これらの試験の多くはウリジン単独ではなく「複合栄養素」として評価されている点に注意が必要です。ウリジン単独の効果をビタミンB12や葉酸から切り離して判断するためには、さらなる研究が必要という状況です。
ただし、現場で処方補助や患者教育を行う際に重要なのは、UMPが水溶性で安全性プロファイルが比較的穏やかであること、そして既存のB12・葉酸サプリとの相乗効果が期待できることです。既にB12や葉酸の補充を行っている患者に対して、UMPを加えた複合アプローチを検討する際の根拠データとして参照できます。
なお、ウリジントリアセテートとしての用途も存在します。これはフルオロウラシル(5-FU)過剰投与の緊急拮抗薬として使用される医薬品で、嘔吐(約10%)、下痢(約3%)などの消化器症状が有害事象として報告されています。サプリメントとしてのウリジンとは用途・用量が大きく異なりますが、職種によっては混同が生じないよう確認が必要です。
ウリジンサプリを患者に情報提供する立場にある医療従事者として、効果だけでなくリスクの把握が欠かせません。ここが重要なところです。
まずがん患者への使用は慎重であるべきです。ウリジンはP2Y2受容体を活性化させますが、この受容体の過剰な活性化は、複数のセルスタディでがん細胞の増殖・転移促進と関連することが示されています(Science Direct, 2016)。また、ウリジンが DNA 合成の過程でチミンの代わりにウラシルが取り込まれる経路が存在し、これが変異誘発につながる可能性も指摘されています。ただし、このリスクは葉酸・B12の十分な補充により軽減できると考えられています。
次にインスリン抵抗性・2型糖尿病との関係も知っておく必要があります。2型糖尿病患者では健常者よりも血中ウリジン濃度が高く、高ウリジン血症がインスリン抵抗性や高インスリン血症と相関するデータがあります。ラットへの高用量静脈内投与では直接的なインスリン抵抗性が誘発されました。これを踏まえると、代謝異常を持つ患者へのウリジン補充は慎重に検討する必要があります。
さらに骨粗鬆症リスクのある患者への注意も必要です。ウリジン三リン酸(UTP)が骨芽細胞のP2Y2受容体を活性化することで骨形成を抑制し、骨髄の脂肪細胞化を促進するという細胞研究データがあります(ただし、促進を示す研究も一部存在するため、現時点では相反するエビデンスがある状況です)。
| リスク対象 | 懸念メカニズム | エビデンスレベル |
|---|---|---|
| 活動性がん・がん既往 | P2Y2受容体活性化による腫瘍促進 | 細胞・動物研究 |
| 2型糖尿病・メタボリックシンドローム | インスリン抵抗性との関連 | 観察研究・動物研究 |
| 骨粗鬆症・低骨密度 | UTPによる骨形成抑制の可能性 | 細胞研究(相反するデータあり) |
| 肝機能障害(長期使用) | 慢性投与によるインスリン抵抗性と肝障害(動物研究) | 動物研究 |
長期の安全性プロファイルはまだ確立されていません。現状の多くのヒト試験は6〜12週間程度の短期間のものであり、数か月以上の継続使用に関するデータは限られています。これが原則です。
患者から「ウリジンのサプリを飲み続けていいか」と尋ねられた際には、短中期(12週間程度まで)のエビデンスは存在する一方、長期投与の安全性は未確立であることを正直に伝え、特にがん・糖尿病・骨粗鬆症のリスクがある患者では使用前に医師への相談を促すのが適切な対応となります。
▶ Uridine Benefits, Sources, Side Effects, Stacks & Dosage(SelfDecode, 英語)|リスク・禁忌を含む包括的な英語文献レビューです。
一般的なウリジン サプリの解説記事ではほとんど触れられない視点があります。それは「ウリジンの必要量はライフステージによって大きく異なる」という事実です。
乳児期は最もウリジン需要が高い時期です。母乳(特に初乳)には4種類のヌクレオチドが含まれますが、その中でCMP・UMPのピリミジンヌクレオチドが、AMPやGMPなどのプリンヌクレオチドを量的に大幅に上回っています。これは乳児の急成長期における脳神経系の発達がいかに大量のUMPを必要とするかを示しています。人工乳(粉ミルク)の場合、ヤマサ醤油製のUMPは20年以上前から乳児用ミルクの核酸強化素材として採用実績があります。
一方で成人期・中高齢期になると、UMPの体内合成能力や食事からの摂取量が十分でなくなるケースが出てきます。ウリジンを多く含む食品には酵母(栄養酵母・ビール酵母)、きのこ類(特にプラネロタスギガンテウス=マレーシア産の大型ヒラタケ)、肝臓・膵臓などの臓器肉、ブロッコリー・オーツ麦などがあります。
しかし注意すべき点があります。食品中のRNA形態のウリジンは消化管・肝臓でほぼ完全に分解されてしまい、生体利用率が非常に低いことが古典的な研究で示されています(Lerner, 1981)。つまり「ウリジンを多く含む食品を食べれば補える」という考えは必ずしも正しくないのです。意外ですね。
このため、特に神経系疾患のリスクが高い患者(糖尿病性ニューロパチー、化学療法後の末梢神経障害など)では、食事での補充ではなく、吸収性が担保されているサプリメント形態(UMP)での補充を検討する意義が出てきます。
ライフステージと目的に応じたアプローチをまとめると。
- 🍼 乳幼児期:粉ミルクへの核酸強化素材(医療栄養として確立)
- 🧑 成人期(予防的):食事由来のウリジンは生体利用率が低いため、機能性食品・サプリの活用が理にかなう局面あり
- 👴 中高齢期(認知機能維持):UMP単独12週間でのヒト試験データが存在(40歳以上、二重盲検RCT)
- 🏥 疾患管理補助:末梢神経障害に対してB12・葉酸との複合使用を検討
こうした「どのステージの誰に、何を目的に使うか」という軸で整理することで、患者への情報提供がより具体的かつ根拠のあるものになります。これが栄養指導の質を高める鍵です。
▶ 日本食品分析センター学術情報 Vol.3 No.27(2011)|核酸が「第七の栄養素」として注目されている背景と食品中での含有・利用率についての解説が掲載されています。

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