トリプシンは膵液に含まれるセリンプロテアーゼの一種で、塩基性アミノ酸であるリジン(Lys)とアルギニン(Arg)のカルボキシ基側のペプチド結合を特異的に切断します 。この基質特異性により、トリプシンはタンパク質を効率的にオリゴペプチドへ分解する重要な役割を担っています 。
参考)https://toumaswitch.com/jctpkcfyw6/
分子量は約24,000で、最適pHは8-9の弱アルカリ性領域にあります 。トリプシンの活性部位には、セリン195番、ヒスチジン57番、アスパラギン酸102番からなる触媒トライアードが形成されており、これらの協調的な作用によってペプチド結合の加水分解が行われます 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%97%E3%82%B7%E3%83%B3
この酵素は膵臓から不活性型のトリプシノーゲンとして分泌され、十二指腸でエンテロキナーゼ(エンテロペプチダーゼ)によって活性化されます 。活性化されたトリプシン自身もトリプシノーゲンを切断するため、連鎖的な活性化反応が進行することが特徴的です 。
参考)https://www.fishprotein.net/priority_research/d0006/
キモトリプシンもセリンプロテアーゼファミリーに属しますが、芳香族アミノ酸に対して特異性を示すのが大きな特徴です 。具体的にはフェニルアラニン(Phe)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)のカルボキシル基側のペプチド結合を切断します 。
参考)https://www.yaegaki.co.jp/bio/column/3494/
この基質特異性は、活性中心の近辺にある疎水性基でできた空洞が関与しています 。芳香族アミノ酸の側鎖がこの疎水性ポケットに入り込むことで安定化され、効率的な切断が可能になります 。分子量は約25,310で、最適pHはトリプシンと同様に8-9の弱アルカリ性領域です 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A2%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%97%E3%82%B7%E3%83%B3
キモトリプシンは膵臓からキモトリプシノーゲンとして分泌され、エンテロキナーゼとトリプシンによって活性化されます 。活性化過程では、最初にπ-キモトリプシンが生成され、その後自己分解によってα-キモトリプシンへと変換されます 。
トリプシンの活性化は膵液消化酵素システムの中心的な役割を果たしており、極めて重要な生理学的プロセスです 。膵臓から分泌されたトリプシノーゲンは、十二指腸粘膜の刷子縁膜に存在するエンテロキナーゼによって活性化されます 。
参考)https://www.shouman.jp/disease/details/12_01_004/
エンテロキナーゼは特異的な切断部位(Asp-Asp-Asp-Asp-Lys)のリジン残基の後ろでタンパク質を切断するセリンプロテアーゼです 。この酵素は82-140 kDaの重鎖と35-62 kDaの軽鎖からなる複合体構造を持ち、ジスルフィド結合によって繋がっています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%AD%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BC
トリプシノーゲンの活性化では、N末端の余分なペプチド鎖が切断され、新たに形成される鎖末端が折りたたまれたタンパク質内部に安定化されることで活性型トリプシンが生成されます 。この活性化機構は自己増幅的な特徴を持ち、一度活性化されたトリプシンが他のトリプシノーゲン分子を活性化する連鎖反応を引き起こします 。
参考)https://numon.pdbj.org/mom/46?l=ja
トリプシンとキモトリプシンは共にセリンプロテアーゼファミリーに属し、基本的な触媒機構を共有しています 。両酵素の活性部位には、セリン195番、ヒスチジン57番、アスパラギン酸102番からなる触媒トライアードが存在し、これらが協調的に作用してペプチド結合の加水分解を行います 。
参考)https://www.jaea.go.jp/02/press2009/p09073001/yougo.html
反応機構は二段階で進行します。まず、ヒスチジン残基がプロトン受容体として機能し、セリン残基の求核性を高めます 。活性化されたセリン残基が基質のカルボニル炭素を求核攻撃し、アシル化中間体を形成します 。続いて、同様に活性化された水分子がエステル結合を加水分解し、基質の切断と酵素の再生が完了します 。
参考)https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=1053
反応過程ではオキシアニオンホールと呼ばれる特徴的な構造が形成されます 。これは基質ペプチドのカルボニル基酸素原子が負電荷を帯び、セリン残基と2つ隣のグリシン残基の主鎖アミド基によって安定化される構造です 。この機構により、正四面体型中間体の形成が促進され、高い反応効率が実現されています 。
キモトリプシンは消化酵素としての機能に加えて、抗炎症作用を有することが知られており、医療分野で幅広く応用されています 。特に、抗浮腫作用により炎症反応を抑制する効果が認められており、動物医療において消炎酵素剤として使用されています 。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/pdf/attachment/DY120061.pdf
臨床応用では、乳房炎における炎症(腫脹、浮腫、発熱、疼痛)の緩解や、手術後および外傷後の炎症性症状の改善に用いられています 。キモトリプシンの抗炎症機序は、タンパク質分解酵素としての作用により、炎症部位の病的タンパク質や組織破壊産物を分解し、血管透過性を正常化することによると考えられています 。
参考)https://aska-animal.co.jp/products_list/pdf/kimo_2024.pdf
投与方法は筋肉内注射が一般的で、体重に応じた用量設定が行われています 。牛や馬では体重100kg当たり1,000-5,000単位、犬や猫では体重1kg当たり50-350単位が標準的な投与量とされています 。製剤は膵臓由来のキモトリプシンを有効成分とし、生物由来製品として厳格な品質管理の下で製造されています 。