サプリを飲んでいる人の約13人に1人は、知らずに薬との危険な飲み合わせをしています。
「テルペンラクトン」という名前を聞いて、どんな成分かすぐに思い浮かぶ人は多くないかもしれません。実はこれ、記憶力サプリとしてドラッグストアで広く売られているイチョウ葉エキスの、核心を担う機能性成分です。
テルペンラクトンとは、イチョウ(Ginkgo biloba)の葉に含まれる成分群の総称で、具体的にはギンコライドA・B・Cとビロバライドという化合物から構成されています。これらは植物の二次代謝産物であり、テルペノイドと呼ばれる化合物のグループに属します。
市販のイチョウ葉エキス製品では、テルペンラクトンは単独では配合されません。必ずセットになるのがイチョウ葉フラボノイド配糖体という成分です。機能性表示食品215件すべての届出で、この2成分が常に一緒に配合されています。フラボノイド配糖体が脳の神経細胞を酸化ストレスから守る抗酸化役割を担い、テルペンラクトンが血液の流れを整えるという、いわば「守りと流れ」の組み合わせです。
品質が確保された規格品のイチョウ葉エキスには、フラボノイド配糖体が全体の22〜27%、テルペンラクトンが5〜7%含まれているという基準があります。これはドイツのコミッションE(薬用植物評価委員会)でも基準として参照されてきた数値です。
つまりテルペンラクトンが基本です。
なお、路上などで拾ったイチョウの生葉を煎じてお茶にするのは危険です。未加工の葉にはギンコール酸というアレルギー誘発物質が多く含まれており、市販サプリでは5ppm以下に除去処理されていますが、生葉にはそうした処理が一切されていません。せっかく健康のために飲もうとして、かえって皮膚炎や胃腸障害を起こす可能性があります。
機能性表示食品215件の届出データと成分解説(機能性食品データベース)
テルペンラクトンがなぜ脳の血流を改善できるのか。その仕組みを知ると、効果への理解が格段に深まります。
テルペンラクトンの主役であるギンコライドは、血小板活性化因子(PAF)を特異的に阻害する作用があります。PAFは血小板を集合・凝固させる物質で、これが過剰に働くと毛細血管が詰まりやすくなります。ギンコライドはこのPAFをブロックすることで、血液がサラサラに流れやすい状態を維持するのです。
もう一方の成分であるビロバライドには、記憶の形成に関わる「海馬」という脳の部位を刺激し、記憶力を高める働きがあるとされています。つまりテルペンラクトン単体でも、血流改善と記憶力への二方向からのアプローチを持っています。
脳は体重の約2%にすぎませんが、全身の血液・酸素消費量の実に約20%を占める臓器です(これは体重70kgの人なら脳は約1.4kgですが、全身の酸素の5分の1を使い続けるということ)。年齢とともに脳の毛細血管は弾力を失い、血液の流れが滞りやすくなります。テルペンラクトンはその「詰まり」を防ぐ役割を果たすわけです。
血流改善が条件です。
フラボノイド配糖体との相乗効果も見逃せません。フラボノイド配糖体には強力な抗酸化作用があり、脳の血管壁を活性酸素による酸化ダメージから守ります。血管が健康に保たれることで、テルペンラクトンによる血流改善効果がより発揮されやすくなる、という連携関係があります。
薬剤師向け解説:イチョウ葉エキスの作用機序と注意薬剤一覧(Pharmacista)
「なんとなく良さそう」ではなく、実際にどのくらいの効果が数字で示されているのか。これが気になるところですよね。
まず、機能性表示食品の根拠として最も多く引用されている研究のひとつが、2002年にMix & Crewsが行ったランダム化二重盲検試験です。60歳以上の健康な高齢者262名を対象に、イチョウ葉エキス180mg/日を6週間摂取した結果、自由再生記憶(言葉を覚えて思い出すテスト)と遅延再認記憶(時間を置いて思い出すテスト)の両方で有意な改善が確認されました。本人の主観評価でも「記憶力が上がった」と感じる割合が増えました。
2011年のKaschel研究では、対象を45〜65歳の健康な中年成人188名に絞り、イチョウ葉エキス240mg/日を6週間摂取した結果、日常的な記憶課題(予定を覚える、人の名前を思い出すなど)のパフォーマンス向上が確認されています。これは実験室内のテストだけでなく、日常生活に近い場面での改善を示した点で注目されています。
これは使えそうです。
さらに2012年のメタアナリシス(Laws KRら)では、複数の臨床試験を統合解析した結果、認知機能障害がある患者での有意な改善と、健常者における記憶・注意力の改善傾向が確認されています。
ただし、正直に言うと効果には個人差があります。健常者における効果は「劇的な改善」ではなく「緩やかな維持・改善傾向」です。認知症の予防や治療が証明されたわけではなく、あくまで「加齢による記憶力の低下を緩やかにする」という位置づけです。1日の摂取目安量として確立されているのは、フラボノイド配糖体28.8mg+テルペンラクトン7.2mgのセットで、これはイチョウ葉エキスとして約120mg相当に当たります。
継続が基本です。
厚生労働省eJIM:イチョウ葉エキスの科学的エビデンスと安全性評価(医療者向け)
ここが多くの人が見落としている、最も重要な注意点です。
2025年4月にPLoS ONE誌で発表された研究では、病院に入院した2,647件の処方箋データを分析した結果、約13%(342件)でイチョウ葉エキスと他の薬との相互作用が確認されました。特に多かった相互作用の組み合わせが、クロピドグレル(抗血小板薬)とアスピリン(それぞれ2.61%)でした。また、イチョウ葉エキスとの薬物相互作用は出血リスク(オッズ比1.08、p<0.001)および凝固異常(オッズ比1.49、p<0.001)と有意な相関があることも示されました。
痛いですね。
注意が必要な薬のカテゴリは主に4つあります。
| 薬のカテゴリ | 具体的な薬剤名(例) | 注意内容 |
|---|---|---|
| 抗血栓薬・抗凝固薬 | ワーファリン、バイアスピリン、NOACなど | 出血傾向が高まる可能性あり |
| 非ステロイド系抗炎症薬 | ロキソプロフェン、セレコキシブなど | 凝固異常と相関あり |
| 血糖低下薬 | インスリン製剤など | インスリンの代謝・分泌に影響の可能性 |
| 抗てんかん薬 | 各種抗てんかん薬 | てんかん発作の頻度が増えた報告あり |
手術を控えている方にも注意が必要です。出血リスクの観点から、手術の2週間前にはイチョウ葉エキスの摂取を中止することが推奨されています。これは一般的にあまり知られていない情報で、医師から指示を受けるまで続けてしまうケースが実際に起きています。
処方薬を飲んでいる方が新たにイチョウ葉エキスを試したい場合は、薬局の薬剤師やかかりつけ医に一度相談することを1アクションとして取っておくと安心です。
2025年最新研究:イチョウ葉エキスと薬物相互作用・出血リスクの分析(日本メディカルハーブ協会)
市販のイチョウ葉エキスサプリは数十種類以上ありますが、品質にはばらつきがあります。ここでは「何を見ればいいか」を具体的に整理します。
まず確認すべきは成分規格の表示です。品質が担保された製品には「フラボノイド配糖体22〜27%、テルペンラクトン5〜7%、ギンコール酸5ppm以下」という規格を満たしていることが明記されています。これが書かれていないものは、有効成分の含有量が不明瞭な可能性があります。
次に、使用されている原料に注目する価値があります。世界で最も研究実績が豊富なのがドイツのシュワーベ社が開発したEGb 761®という標準化イチョウ葉エキスです。前述の臨床試験の多くでもこのEGb 761®が使用されており、アサヒグループ食品の「シュワーベギンコ イチョウ葉エキス」などがこの原料を採用しています。
興味深い視点として、最近はガム形態の機能性表示食品も登場しています。ロッテが販売する「歯につきにくいガム〈記憶力を維持するタイプ〉」がその代表例で、サプリ錠剤が苦手な方でも気軽に試せる選択肢として注目されています。飲み込まずに噛んで摂取できる形態は、嚥下に不安がある中高年の方にとって特に利便性が高いです。これは使えそうです。
また、見落とされがちな視点ですが、DHAとの組み合わせを考えるのも有効です。イチョウ葉テルペンラクトンが「脳への血流を増やす配管の整備役」とするなら、DHAは「脳の神経細胞そのものを構成する建材」のようなイメージです。両者の働きを組み合わせた複合サプリも複数の機能性表示食品として販売されており、相補的に使うアプローチが近年注目されています。
摂取タイミングに関しては、特に「いつ飲まなければいけない」という厳しい制約はありませんが、食後の摂取が胃腸への負担を軽減しやすいとされています。重要なのは継続性であり、1日も欠かさず飲むことよりも、長期的に習慣化することの方が効果の面で意味があります。
福岡県薬剤師会:イチョウ葉エキスの成分規格と医薬品飲み合わせ解説(PDF)