スタチン系薬剤の絶対禁忌として最も重要なのが妊娠・授乳期の患者への投与です。スタチンは催奇形性のリスクがあるため、妊娠中の投与は厳格に禁止されています。特に家族性高コレステロール血症(FH)の女性患者では、妊娠計画時点でスタチンの中止と代替治療法の検討が必要です。
妊娠中にスタチンを服用していた場合、妊娠初期3カ月を過ぎていても直ちに投与を中止する必要があります。この際、妊娠継続の可否については患者・家族との十分な話し合いが重要となります。
授乳期においても、スタチンが母乳を通じて乳児に移行する可能性があるため投与は禁忌です。冠動脈疾患を有する患者で積極的なコレステロール低下療法が必要な場合でも、妊娠・授乳中のスタチン投与は避けなければなりません。
その他の絶対禁忌には以下があります。
スタチンの最も重篤な副作用として横紋筋融解症があります。この副作用は投与直後から数カ月後まで幅広い期間で発症する可能性があり、投与期間の長さには依存しません。
横紋筋融解症のリスク因子として以下が挙げられます。
日本人を含む東アジア人はスタチンの血中濃度が高くなりやすい傾向があり、筋障害のリスク因子の一つとされています。そのため、欧米より少ない用量での開始が推奨されており、実際にロスバスタチンの最大用量は欧米の半量(20mg)に制限されています。
スタチン関連ミオパチーには以下の病型があります。
スタチン投与により肝機能異常が出現することがあり、定期的な肝機能検査が必要です。肝機能障害は薬剤性の変化と考えられ、スタチンに特異的なものではありませんが、重要な副作用の一つです。
肝機能異常の特徴。
血小板減少症もスタチンの重大な副作用として報告されています。血小板数の定期的な監視が必要で、特に以下の患者では注意が必要です。
モニタリングの推奨頻度。
スタチンと他の薬剤との相互作用は重篤な副作用のリスクを高めるため、併用薬の慎重な確認が必要です。特にフィブラート系薬剤との併用は長年原則禁忌とされてきましたが、2018年に腎機能異常患者での原則禁忌が解除されました。
現在の併用に関する注意事項。
その他の重要な相互作用薬剤。
これらの薬剤との併用時は、スタチンの血中濃度が上昇し、筋障害のリスクが増加するため、用量調整や代替薬の検討が必要です。
相互作用を回避するための対策。
スタチン不耐症(Statin Intolerance)は、スタチン服用に伴う有害事象により日常生活に許容困難な障害が生じ、服薬中断や減量に至る状態と定義されています。この概念は近年注目されており、個別化医療の観点から重要な課題となっています。
スタチン不耐症の分類。
近年の研究では、スタチン応答性に関連する遺伝子多型が同定されており、将来的には遺伝子検査に基づく個別化治療が可能になると期待されています。特に以下の遺伝子が注目されています。
スタチン不耐症への対応戦略。
意外な副作用として、スタチンが勃起不全(ED)のリスクを高める可能性も報告されています。これは血管内皮機能への影響や、コレステロール合成阻害によるテストステロン産生への影響が考えられています。
また、スタチンは新規糖尿病発症のリスクを軽度上昇させることが知られており、特に糖尿病リスクの高い患者では定期的な血糖値監視が重要です。
スタチン不耐症の管理において重要なのは、患者の症状を適切に評価し、真の不耐症と nocebo効果を区別することです。多くの場合、適切な用量調整や薬剤変更により、スタチン治療の継続が可能となります。
日本動脈硬化学会のスタチン不耐に関する診療指針では、症状の客観的評価と段階的なアプローチが推奨されています。
スタチン不耐に関する診療指針の詳細情報
https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/statin_intolerance_2018.pdf
スタチン副作用の詳細な解説と対策
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=3997