スルホニルウレア系除草剤の商品名と特徴

医療従事者が知っておくべきスルホニルウレア系除草剤の基本情報から商品名、安全性まで体系的に解説。農業現場でよく使われる製品の特徴や健康への影響について詳しく紹介します。どのような場面で注意が必要でしょうか?

スルホニルウレア系除草剤の基本知識と商品名

スルホニルウレア系除草剤の特徴
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低薬量・高効果

極少量で幅広い雑草に効果を発揮し、長期間の除草効果を持続

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環境への配慮

人畜に対する毒性が低く、環境への影響を最小限に抑える設計

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作用機序

植物のアセト乳酸合成酵素(ALS)を阻害し、アミノ酸合成を停止

スルホニルウレア(SU)系除草剤は、現代農業において重要な役割を果たしている除草剤の一群です。これらの薬剤は、植物のアセト乳酸合成酵素(ALS)という重要な酵素を特異的に阻害することで、植物の必須アミノ酸合成を停止させ、最終的に枯死に至らしめます。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ps.3725

 

SU系除草剤の最大の特徴は、極めて少ない薬量で優れた除草効果を発揮することです。例えば、小麦では10アールあたり3-10g、大麦では5-10g、牧草地では0.5-5gという極少量で効果を示します。このような低薬量での高い効果は、環境への負荷軽減と経済性の両面で大きなメリットをもたらしています。
参考)https://www.monotaro.com/s/q-%E3%82%B9%E3%83%AB%E3%83%9B%E3%83%8B%E3%83%AB%E3%82%A6%E3%83%AC%E3%82%A2%E7%B3%BB%E9%99%A4%E8%8D%89%E5%89%A4/

 

また、人畜に対する毒性が低く、環境への影響も少ないという安全性の高さも評価されています。これらの特性により、SU系除草剤は水稲栽培において一発処理除草剤として広く普及し、農業の効率化に大きく貢献してきました。
参考)https://www.greenjapan.co.jp/noyak_tekozasso.htm

 

スルホニルウレア系除草剤の主要商品名一覧

現在市場で流通している主要なSU系除草剤の商品名と特徴は以下の通りです。
■水稲用除草剤

  • イネキングフロアブル
    • 有効成分:ピラクロニル3.6%、ピラゾレート20.0%、ベンゾビシクロン4.0%
    • 特徴:SU抵抗性雑草にも効果的、田植え同時処理が可能
  • 銀河シリーズ

    参考)https://www.nissan-agro.net/altair/ginga/

     

    • 有効成分:ピラクロニル配合による3成分混合剤
    • 特徴:SU抵抗性のコナギ、オモダカに対する高い効果
  • トップガンGT1キロ粒剤75

    参考)https://www.kumiai-chem.co.jp/products/document/topgun_gt_1k_g75.html

     

    • 特徴:SU抵抗性雑草に高い効果、ノビエ3葉期まで適用可能

    ■畑作・牧草用除草剤

    • ハーモニーDF

      参考)https://www.mbc-g.co.jp/product/harmony/

       

      • 特徴:麦の生育期に散布可能、極低薬量で長期残効
      • 適用:小麦、大麦、牧草地、飼料用とうもろこし

      これらの商品は、それぞれ異なる作物や雑草に特化した配合となっており、農業現場の多様なニーズに対応しています。

       

      スルホニルウレア系除草剤の有効成分と特性

      SU系除草剤に含まれる主要な有効成分は以下のものがあります:
      参考)https://minorasu.basf.co.jp/80788

       

      ■主要な有効成分

      • ベンスルフロンメチル
      • ピラゾスルフロンエチル
      • アジムスルフロン
      • イマゾスルフロン
      • エトキシスルフロン
      • シノスルフロン
      • シクロスルファムロン(スルファモイル尿素系)
      • ハロスルフロンメチル
      • メタゾスルフロン
      • プロピリスルフロン

      これらの成分は、それぞれ異なる雑草種に対する効果や残効期間を持っています。例えば、ニコスルフロンは主にトウモロコシ畑での一年生・多年生イネ科雑草、カヤツリグサ科雑草、および一部の広葉雑草に効果を発揮します。
      参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10042444/

       

      化学的安定性と環境への影響
      SU系除草剤は、化学的に安定した構造を持ち、土壌中での分解パターンが研究されています。イオドスルフロンメチルを用いた研究では、イオン液体として設計することで、従来の界面活性剤を使用せずに済む環境に優しい製剤の開発が進められています。
      参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7705962/

       

      スルホニルウレア系除草剤の作用機序と選択性

      SU系除草剤の作用機序は、植物のアセト乳酸合成酵素(ALS、別名アセトヒドロキシ酸合成酵素:AHAS)の特異的阻害にあります。この酵素は、分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)の生合成において重要な役割を果たしています。
      参考)http://www.jstage.jst.go.jp/article/jpestics1975/19/1/19_1_59/_article/-char/ja/

       

      ■作用のメカニズム

      1. SU分子がALS酵素の活性部位に結合
      2. 酵素活性が阻害され、アセト乳酸の合成が停止
      3. 分岐鎖アミノ酸の合成が阻害される
      4. タンパク質合成が停止し、細胞分裂が阻害される
      5. 最終的に植物が枯死する

      この作用機序により、SU系除草剤は選択的除草効果を示します。作物によってはALS酵素の構造が異なるため、除草剤に対する感受性に差が生じ、これが選択性の根拠となっています。

       

      新しい研究成果
      最近の研究では、SulEという酵素がスルホニルウレア系除草剤を解毒する機能を持つことが発見されています。この酵素は脱エステル化によって多様なSU系除草剤を無毒化し、環境中のSU系除草剤の除去や耐性作物の開発に応用可能とされています。
      参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10356948/

       

      スルホニルウレア系除草剤の安全性評価と医学的考慮事項

      医療従事者の観点から見たSU系除草剤の安全性について、以下の点が重要です。
      ■毒性学的特徴

      • 急性毒性:LD50値が高く、急性毒性は比較的低い
      • 慢性毒性:長期暴露による影響は限定的
      • 発がん性:多くの成分で発がん性は認められていない
      • 生殖毒性:適切な使用下では生殖への影響は少ない

      暴露経路と対策
      農業従事者における主な暴露経路は以下の通りです。

      • 経皮吸収:散布時の皮膚接触
      • 吸入:粉塵や霧滴の吸入
      • 経口摂取:誤飲や汚染された手からの摂取

      これらの暴露を防ぐため、適切な保護具の着用と作業後の洗浄が重要です。

       

      医療現場での注意点
      SU系除草剤による健康被害は稀ですが、以下の症状に注意が必要です。

      • 皮膚刺激:発赤、かゆみ
      • 眼刺激:充血、流涙
      • 呼吸器症状:咳、のどの痛み

      ハーモニーDF安全データシート
      製品の詳細な安全性情報と応急処置方法について

      スルホニルウレア系除草剤の抵抗性問題と対策

      近年、SU系除草剤の連用により、特定の雑草が抵抗性を獲得する問題が深刻化しています。これは「SU抵抗性雑草」と呼ばれ、農業生産性に大きな影響を与えています。
      参考)https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/427137.pdf

       

      ■抵抗性獲得の機序

      1. 雑草集団内の遺伝的多様性
      2. 連用による選択圧の増加
      3. 抵抗性個体の生存と繁殖
      4. 抵抗性遺伝子の集団内拡散

      主要な抵抗性雑草

      • コナギ:全国で広く確認
      • イヌホタルイ:北日本から拡大
      • アゼナ類:各地で発生報告
      • ミズアオイ:1995年北海道で最初に確認

      対策の基本原則
      抵抗性雑草の管理には、以下の統合的アプローチが重要です。
      🔄 ローテーション戦略

      • 異なる作用機序の除草剤の使用
      • 機械的除草との組み合わせ
      • 作付け体系の多様化

      🎯 早期発見システム

      • 残草パターンの観察
      • 抵抗性検定の実施
      • 地域情報の共有

      ⚗️ 新規技術の活用

      • ピラクロニル等の非SU系成分の配合
      • 界面活性剤の最適化
      • 製剤技術の改良

      具体的な製品対応例
      銀河シリーズでは、ピラクロニルの配合によりSU抵抗性のコナギやオモダカに対する効果を強化しています。3〜4葉期まで成長した抵抗性コナギでも高い除草効果を示し、56日後でもその効果が持続することが確認されています。
      広島県SU抵抗性雑草防除マニュアル
      抵抗性雑草の判別方法と具体的な対策について詳細に解説
      研究の最前線
      最新の研究では、イオン液体技術を活用した新しいSU系除草剤の開発が進められています。グリシンベタイン由来のアルキルベタイネートカチオンとイオドスルフロンメチルアニオンを組み合わせることで、従来の界面活性剤を使用せずに済む環境に優しい製剤が開発されています。
      参考)https://www.mdpi.com/1420-3049/26/15/4396/pdf

       

      これらの技術革新により、抵抗性問題への対応と環境負荷の軽減を両立した次世代除草剤の実現が期待されています。