保険適応と思い込んで説明した疾患が実は「手術困難」条件を満たさず、患者が治療費314万円を全額自己負担した事例があります。
2024年6月1日からは、これまで先進医療として実施されていた早期肺癌(Ⅰ期〜ⅡA期)と局所進行性子宮頸部扁平上皮癌(長径6cm以上)への重粒子線治療が新たに保険適応となりました。 これは手術による根治的な治療法が困難な場合に限られます。
関連)https://heavy-ion.showa.gunma-u.ac.jp/info.php?no=6879
【陽子線治療の保険適応疾患】
【重粒子線治療の保険適応疾患】
つまり「疾患名+手術困難条件」の両方が条件です。
参考:JARSTROによる保険適応疾患の最新リスト(医療従事者向け詳細情報)
保険適応であっても、患者の自己負担がゼロになるわけではありません。大切なのは高額療養費制度の仕組みを正確に把握することです。
保険適応疾患に対して粒子線治療を受けた場合、高額療養費制度が適用されます。 月ごとの自己負担上限額は年齢・収入によって異なり、以下のように変わります。
関連)https://www.osaka-himak.or.jp/patient/payment/
| 年齢区分 | 年収の目安 | 実質自己負担額の上限(月額) |
|---|---|---|
| 70歳以上 | 住民税非課税 | 約8,000円 |
| 70歳以上 | 約156万〜370万円 | 約18,000円 |
| 70歳未満 | 住民税非課税 | 約35,400円 |
| 70歳未満 | 〜約370万円 | 約57,600円 |
| 70歳以上・未満共通 | 約370万〜770万円 | 約10万円 |
| 70歳以上・未満共通 | 約770万〜1,160万円 | 約19万円 |
| 70歳以上・未満共通 | 約1,160万円以上 | 約27万円 |
住民税非課税の高齢患者が保険適応の前立腺がんで粒子線治療を受けた場合、月8,000円程度まで自己負担が抑えられることになります。 これは非常に大きな経済的メリットです。これは使えそうです。
関連)https://www.osaka-himak.or.jp/patient/payment/
一方、保険適応外の疾患では先進医療として扱われ、粒子線治療にかかる技術料350万円前後が全額自己負担となります。 ただし先進医療の場合は、診察・検査・投薬などの公的保険診療部分は保険給付されるため、関連費用の一部は保険でカバーされます。
関連)https://www.pref.kanagawa.jp/docs/w8d/gantaisaku/0401jyuuryuusi.html
患者への説明では、「保険が使えるから安い」で終わらず、実際の自己負担額の目安を収入に応じて伝えることが患者の安心感につながります。あらかじめ限度額適用認定証の取得を勧めることも重要な支援です。
関連)https://www.pref.gunma.jp/page/1973.html
参考:大阪重粒子線センターによる高額療養費制度の具体的な自己負担額一覧
大阪重粒子線センター:治療費について(高額療養費制度の適用額一覧)
医療従事者が見落としやすいのが「混合診療の禁止」です。
日本の健康保険法では、保険診療と自由診療(先進医療の例外を除く)を同一の治療過程で組み合わせることは原則禁止されています。 一連の保険診療中に保険適応外の診療が1つでも含まれると、その治療全体が自由診療とみなされ、全額自己負担になります。
問題が起きやすい場面を具体的に挙げると以下のとおりです。
関連)https://www2.khsc.or.jp/gairai/kongoushinryou/
関連)https://doctor-journal.com/nishihara_iryoseido2/
厳しいところですね。
遺伝子パネル検査によって保険適応外の治療が提示された患者の割合は約46%に達しており、保険適応外の治療を提示されている患者が保険診療との整合をどう取るかは、現場での重要な課題です。 先進医療の枠組みを正確に理解しておくことが、患者への適切な説明につながります。
関連)https://doctor-journal.com/nishihara_iryoseido2/
先進医療に指定されている粒子線治療(食道がん・腎臓がんなど)については、公的保険診療との併用が認められており、技術料のみ全額自己負担となります。 この「先進医療の例外」を知らずに「粒子線治療は混合診療になる」と誤った説明をしてしまうケースも注意が必要です。
関連)https://www.pref.kanagawa.jp/docs/w8d/gantaisaku/0401jyuuryuusi.html
参考:混合診療の禁止と先進医療の例外について(がんちりょうひ.com)
知っておきたい治療費のこと〜保険外併用療法(あきらめないがん治療)
保険適応外だからといって、粒子線治療が「使えない」わけではありません。
先進医療として承認された疾患では、技術料(350万円前後)は全額自己負担ですが、診察・検査・投薬などは保険が適用されます。 一方、先進医療にも指定されていない場合は完全な自由診療となり、関連費用もすべて自己負担です。保険・先進医療・自由診療の3段階があるということですね。
関連)https://www.pref.kanagawa.jp/docs/w8d/gantaisaku/0401jyuuryuusi.html
現在、先進医療として粒子線治療が実施されている疾患の例としては、食道がんや腎臓がん(少数転移性肺転移3個以下など)が挙げられます。 QST病院では、腎細胞がんや少数肺転移など、保険適応外でも先進医療・臨床試験の枠組みで粒子線治療を受けられる疾患があります。
関連)https://hospital.qst.go.jp/professionals/doctor01.html
患者への情報提供では、「保険が使えるか」だけでなく「先進医療として受けられるか」「民間医療保険の先進医療特約が使えるか」という視点でも確認を促すことが患者の金銭的負担を大きく左右します。 民間保険の先進医療特約があれば、350万円前後の技術料が給付される場合があり、実質的な自己負担がほぼゼロになることもあります。
関連)https://www.pref.kanagawa.jp/docs/w8d/gantaisaku/0401jyuuryuusi.html
保険の種類と患者負担の関係を把握するのが基本です。
参考:先進医療における粒子線治療の対象疾患と費用(神奈川県立がんセンター)
神奈川県立がんセンター:重粒子線治療について(先進医療・保険適応の区分)
保険適応の知識があっても「伝え方」が不十分だと、患者は経済的損失を受けることがあります。
医療従事者が粒子線治療について患者に情報提供する際、「対象疾患かどうか」の確認に終始しがちです。しかし実際の医療現場では、手術困難要件の判断基準・高額療養費制度の申請手続き・民間保険特約の活用・混合診療に関わる禁止行為、これらすべてを総合的に説明できることが患者支援の質を決めます。特に、限度額適用認定証の事前取得を勧め忘れた場合、患者は一旦高額の窓口払いをした後に払い戻しを受ける手続きが必要になり、大きな手間とストレスが生じます。
関連)https://www.pref.gunma.jp/page/1973.html
2018年の保険適応開始以来、治療費が先進医療時代の約300万円から大幅に軽減された経緯があります。 しかし患者の多くは「粒子線治療=高い」という古い認識を持ったままです。情報のアップデートが必要ですね。
関連)https://www.ganchiryohi.com/treatment/256
医療従事者側として具体的に実施できる支援のポイントをまとめると以下のとおりです。
情報提供の質が、患者の経済的負担を直接左右します。粒子線治療の保険適応に関する知識は、今後も対象疾患拡大が続く領域であり、定期的なアップデートが求められます。 最新のJARSTROの通達や診療報酬改定情報を定期的に確認することが、質の高い医療従事者としての基本姿勢です。
関連)https://www.scchr.jp/news/20241121-2.html
参考:2024年4月改定による陽子線治療の保険適用拡大の詳細(静岡がんセンター)
静岡がんセンター:陽子線治療の保険適用が拡大(2024年4月改定)