オルガノイド作成の成功は、適切な細胞源の選択から始まります。ヒトiPS細胞は最も汎用性が高く、患者特異的なオルガノイドの作製が可能です。特に疾患研究においては、患者由来のiPS細胞から作製したオルガノイドにより、遺伝子疾患のメカニズム解明に大きく貢献しています。
幹細胞の前処理段階では、培養環境の最適化が重要です。通常、幹細胞を単一細胞として分離後、成長因子低減マトリゲルなどの細胞外マトリックス(ECM)に包埋し、特殊培地で培養します。この際、ROCKi(Y27632)を継代時に添加することで、細胞の生存性を向上させることができます。
また、オルガノイドの種類に応じて分化誘導のためのシグナル伝達経路を活性化する必要があります。腸管オルガノイドの場合、Wntシグナル経路の活性化が重要であり、腎臓オルガノイドでは異なる成長因子の組み合わせが必要です。
3次元培養技術の確立は、オルガノイド作成の核心です。従来の2次元培養とは異なり、フラスコ内で細胞を緩やかに回転させながら培養することで、立体的な構造を持つ複数種類の細胞からなるオルガノイドを作ることができます。
培養開始時は100µm程度の数千個の細胞から始まり、1〜2か月ほどでミリメートル単位の大きさまで成長します。この過程で、培地は1日おきに補充し、オルガノイドが大きくなりすぎたり壊死したりする前に週1回(7〜12日)継代する必要があります。
バイオリアクター技術の導入により、培養環境をより精密に制御できるようになりました。酸素供給、機械的刺激、栄養供給の最適化により、高忠実度のオルガノイド作成が可能です。これらの技術は、オルガノイド内の細胞分化と成熟を促進し、より生体に近い機能を発揮させることができます。
オルガノイド作成における品質管理は、研究の再現性と信頼性を確保する上で極めて重要です。製造プロセスの標準化により、実験室間での変動を最小限に抑えることができます。
品質管理の要点として、オルガノイドのサイズ均一性、分化状態の一貫性、培養期間中の形態学的変化の監視が挙げられます。顕微鏡イメージングシステムを用いた定量的評価により、オルガノイドの品質を客観的に評価できます。
継代培養時には、物理的分離または酵素フリー継代試薬を用いて小さな細胞塊フラグメントまたはシングルセルとして処理します。分割比は通常1:3〜1:4を用い、オルガノイドの種類とコンフルエンシーに応じて調整します。
各臓器に特異的なオルガノイド作成には、特定の分化誘導技術が必要です。肝臓オルガノイドでは、段階的な分化プロトコールにより高機能な肝細胞様細胞(Org-HEPs)の作製に成功しています。このプロトコールでは、異なるドナー由来の複数の初代ヒト肝細胞から樹立されたオルガノイドで再現性が確認されています。
胎盤オルガノイドの場合、ヒト胎盤幹(TS)細胞を3次元培養し、胎盤形成に関わる成長因子を培養液に添加後、8日間培養することで球状の構造体を作製できます。この手法により、実際の絨毛と同様の表面構造と微絨毛を持つオルガノイドの作成が可能です。
腸管オルガノイドでは、アピカルアウト構造の形成技術が重要です。この手法により、消化管の極性構造を正確に再現し、薬物吸収や病原体感染の研究に適用できます。
作製したオルガノイドの機能評価は、その品質と応用可能性を判断する重要な指標です。脳オルガノイドでは、数か月の培養により神経細胞同士がつながり、神経活動と神経ネットワークの形成を確認できます。これらの活動は電気生理学的測定により定量的に評価可能です。
分子レベルでの評価では、特定の転写因子や細胞表面マーカーの発現解析が重要です。肝臓オルガノイドでは、アルブミン産生能、薬物代謝酵素の発現、グリコーゲン貯蔵能などの肝特異的機能を評価します。
EdU標識を用いた増殖細胞の検出により、オルガノイド内の細胞増殖パターンを可視化できます。この手法は、細胞周期解析やDNA損傷応答の評価にも応用されています。
また、患者由来の癌オルガノイドでは、薬剤感受性試験により個別化医療への応用が期待されています。全エクソン解析と組み合わせることで、遺伝子変異と薬剤応答の関係を詳細に解析できます。