概日リズム(がいじつリズム)は、約24時間周期で変動する生理現象であり、動物、植物、菌類、藻類などほとんどの生物に存在する基本的な生命機能です。サーカディアン・リズム(circadian rhythm)とも呼ばれ、ラテン語で「約1日」を意味する言葉に由来しています。このリズムは睡眠や体温、血圧、心拍、多くのホルモン分泌、免疫機能、代謝など、私たちの大部分の生体機能を司る重要なシステムです。
参考)サーカディアンリズム(概日リズム)って何? 
人間の体内時計は、実際には24時間ジャストではなく、健康な成人では平均して24時間10分前後と、24時間よりも若干長い周期を持っています。このため、私たちは毎日体内時計の時刻合わせを行う必要があり、主に光による調整が行われています。興味深いことに、時刻を知る手がかりのまったくない洞窟のような隔離された環境でも、睡眠リズムは約24時間周期で規則正しく現れることが実験により確認されています。
参考)サーカディアンリズムと私たちの生活 
概日リズムは体内時計(生物時計)によって生み出され、その中核は脳の視床下部にある視交叉上核という神経細胞の集団が担っています。視交叉上核は両目の網膜から大脳へ伸びる視神経の交わる場所に位置し、全身の体内時計のリズムを束ねるオーケストラの指揮者の役割を果たしています。
参考)概日リズム睡眠・覚醒障害 
視交叉上核の神経細胞の多くは概日リズムを自立的に発振することができ、特有の振動子間の同期機構によって安定したリズムを発振します。細胞内にある時計遺伝子の働きによって約24時間周期の神経活動が生じ、その指令によって概ね24時間リズムが作り出されています。視交叉上核で処理された光情報は概日リズムの調整に使用され、体内時計の中枢として機能し、全身の臓器に存在する概日時計の位相を調律する重要な役割を担っています。
参考)https://www.med.kindai.ac.jp/anato2/jkpum130_08_511.pdf
概日リズムの調節において中心的な役割を果たすのが、脳の松果体から分泌されるホルモン「メラトニン」です。メラトニンは「睡眠ホルモン」とも呼ばれ、睡眠や覚醒のリズムを整える重要な機能を持っています。
参考)メラトニンと睡眠の関係とは?セロトニンや快眠を得る効果的な方…
メラトニンの分泌パターンは非常に規則的で、目覚めてから12〜14時間後に分泌が始まり、深夜に最も高値を示し、朝になると産出されなくなります。興味深いことに、メラトニンの分泌リズムは体温変化と逆の推移を示し、体内にメラトニンが増えれば体温が下がり、メラトニンが減れば体温が上がるという関係があります。光の刺激が弱くなると分泌を増やして眠気をもたらし、光を浴びることで分泌量を減らして覚醒させる仕組みにより、24時間の明暗周期に私たちの生体リズムを同調させています。
参考)サーカディアンリズムとはなんですか?
体内時計の周期が過度に長かったり短かったり、何らかの原因で機能が障害されたり、光による時刻調整がうまくできない場合、睡眠リズムが大きく乱れる「概日リズム睡眠・覚醒障害」が発症します。この障害には主に以下の4つのタイプがあります。
参考)概日リズム睡眠障害の治し方
睡眠相後退型は若年者に多く見られ、就寝時刻と起床時刻が通常より大幅に後ろにずれる症状です。睡眠相前進型は高齢者に多く、極端に早い時間に眠くなり早朝に目が覚める状態です。非24時間睡眠覚醒リズム型は体内時計が地球の24時間周期に同調できず、毎日少しずつ睡眠時間がずれていく症状です。不規則型は睡眠と覚醒のパターンが不規則で一定しない状態を指します。
これらの症状は単なる遅刻や欠勤の原因になるだけでなく、全身の倦怠感や立ちくらみ、うつ症状を生じることが多いことが研究により明らかになっています。また、シフトワーカーや時差ボケも概日リズム睡眠障害の一種として位置づけられており、現代社会の24時間型生活様式と密接な関係があります。
参考)概日リズム睡眠障害 
概日リズム研究の進歩により、様々な医療分野での応用が注目されています。特に高照度光療法は、季節性感情障害(SAD)の第一選択治療として確立されており、早朝に2,500〜10,000ルクスの強い光を30分〜2時間照射することで、数日以内に抗うつ効果が現れることが多いです。
参考)季節性感情障害(SAD) (きせつせいかんじょうしょうがい)…
シフトワークによる健康問題への対策として、正循環シフト(日勤→準夜勤→夜勤の順番)が推奨されています。これは人間の体内リズムが24時間より長いという特性を活かし、勤務時間帯を後ろにずらしていく方法で、身体にとって無理が少ないとされています。
参考)睡眠養生
概日リズムの乱れは循環器疾患、糖尿病、肥満などの生活習慣病とも密接な関係があることが研究により明らかになっており、適切な光環境の整備、規則正しい食事タイミング、運動習慣の確立が重要な予防・治療戦略として位置づけられています。また、メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)を用いた薬物療法も、体内時計の調整に効果的な治療選択肢として活用されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/a335d37695c533dc496082b27442854d74380cd0