人間の体内には約24時間周期で動く生体時計が存在し、この概日リズム(サーカディアンリズム)が睡眠覚醒パターンを制御している 。脳内の視床下部にある視交叉上核が主時計として機能し、光の情報を受け取って全身の生理機能を調整している 。しかし人間の体内時計の周期は実際には約24時間20分であり、毎日リセットしなければ徐々にずれが生じてしまう 。
参考)https://www.saishunkan.co.jp/domo/column/lifestyle/body_clock/
この体内時計のずれが原因で夜眠れなくなる現象が起こり、睡眠不足が慢性化すると健康に深刻な影響を与える可能性がある 。特に概日リズム睡眠障害では、社会的に適切な時間に入眠できず、日中の過度な眠気や集中力低下といった症状が現れる 。
参考)概日リズム睡眠障害とは?症状・原因・種類をわかりやすく解説
メラトニンは松果体から分泌される睡眠ホルモンで、体内時計の重要な調節因子として働いている 。朝に光を浴びると、網膜から視交叉上核に信号が送られ、その約14時間後にメラトニン分泌が開始される 。このメラトニンが視交叉上核にあるMT1・MT2受容体に作用し、睡眠を誘導する 。
参考)快眠したいなら朝が勝負!睡眠を味方につける“体内時計リセット…
しかし夜間の強い光やブルーライトの暴露は、メラトニン分泌を抑制し、体内時計を乱す原因となる 。現代社会では深夜まで照明にさらされることが多く、メラトニン分泌が不十分になりやすい状況にある 。光療法では高照度光療法器具を用いて、朝の光刺激を与えることでメラトニン分泌リズムを正常化する治療法が用いられている 。
睡眠不足は体内のストレスホルモンであるコルチゾールの分泌パターンを大きく乱す 。正常な状態では、コルチゾールは朝にピークを迎え、日中徐々に減少し、夜には低いレベルになる 。しかし睡眠不足が続くと、身体がストレス状態と認識し、一日中高いコルチゾールレベルが維持される 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8813037/
このコルチゾールの異常分泌は体内時計を乱し、さらに睡眠の質を悪化させる悪循環を生む 。慢性的な睡眠制限では、コルチゾールの概日リズムが変化し、代謝異常や生活習慣病のリスクが高まることが研究で示されている 。適切な睡眠時間を確保することで、コルチゾールの自然なリズムを回復し、体内時計の正常化を図ることができる 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8400645/
朝食は体内時計のリセットにおいて光と同等に重要な役割を果たしている 。脳の視交叉上核にある主時計は光によってリセットされるが、全身の臓器や組織に存在する末梢時計は主に食事によってリセットされる 。朝食を摂取すると消化酵素やホルモンが分泌され、腸の蠕動運動が始まるなど、体内時計をリセットする生理的な変化が起こる 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/43/2/43_154/_pdf
特に「炭水化物+たんぱく質」の組み合わせが体内時計を効果的に動かすために重要である 。朝食を抜いたり不規則な時間に食事をすると、主時計と末梢時計にずれが生じ、時差ぼけのような症状が現れる 。規則正しい朝食の習慣は、体内時計の同調を促進し、夜間の自然な眠気を誘導する効果がある 。
参考)不調の原因、体内時計の乱れ 起床後の食事でリセット - 日本…
光療法は従来の睡眠薬治療とは異なる、体内時計の根本的なリセットを目指すアプローチである 。この治療法では2500〜10000ルクスの高照度光を朝の特定の時間帯に30分〜2時間照射し、視交叉上核の概日リズムを強制的にリセットする 。光療法により、セロトニンの分泌が促進され、夜間のメラトニン産生量が増加することで睡眠の質が向上する 。
参考)起立性調節障害における「光療法」効果や仕組みを解説 - 一般…
さらに光療法は運動療法と組み合わせることで相乗効果が期待できる 。朝の軽い運動(体操、ウォーキング)は体内時計のリセットに効果的で、激しい運動は夕食前に行うことが推奨される 。この複合的なアプローチにより、薬物に依存しない自然な睡眠リズムの回復が可能になる 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11298283/