尿酸排泄促進薬は高尿酸血症治療薬の一種で、腎臓での尿酸の再吸収を抑制し、尿中への尿酸排泄を促進することによって血中の尿酸値を低下させる薬剤です。
高尿酸血症は大きく「尿酸産生過剰型」と「尿酸排泄低下型」の二つのタイプに分類されます。日本人の高尿酸血症患者の約60%は尿酸排泄低下型に該当し、特にメタボリックシンドロームや腎臓病・心不全患者さんに多いとされています。
尿酸排泄促進薬は主に以下のような作用機序で効果を発揮します。
尿酸排泄促進薬の主な特徴は以下の通りです。
現在、日本で使用可能な尿酸排泄促進薬は、従来のベンズブロマロンやプロベネシドに加え、2020年に新たに発売された選択的尿酸再吸収阻害薬(SURI)であるドチヌラドがあります。
尿酸排泄促進薬には主に3種類があり、それぞれ特徴が異なります。ここでは各薬剤の特性を詳しく比較します。
1. ベンズブロマロン(商品名:ユリノーム)
ベンズブロマロンは1978年から使用されている歴史ある尿酸排泄促進薬です。URAT1を阻害することで尿酸の再吸収を抑制し、排泄を促進します。
2. プロベネシド(商品名:ベネシッド)
プロベネシドは最も古い高尿酸血症治療薬の一つで、元々ペニシリンの効果を高めるために使用されていた薬剤です。
3. ドチヌラド(商品名:ユリス)
ドチヌラドは2020年に日本で発売された最新の選択的尿酸再吸収阻害薬(SURI)です。
これらの薬剤の効果と特性を表にまとめると以下のようになります。
薬剤名 | 商品名 | 発売年 | 用量 | 効果の強さ | 主な副作用 | 特記事項 |
---|---|---|---|---|---|---|
ベンズブロマロン | ユリノーム | 1978年 | 25-100mg/日 | 強い | 肝毒性 | 腎機能低下患者にも効果あり |
プロベネシド | ベネシッド | 最古 | 250-500mg/日 | 弱い | 消化器症状 | 現在はほとんど処方されない |
ドチヌラド | ユリス | 2020年 | 2mg/日 | 強い | 報告少ない | 最新の選択的阻害薬 |
尿酸排泄促進薬を使用する際には、以下の副作用や注意点に留意する必要があります。
1. 肝機能障害のリスク
特にベンズブロマロン(ユリノーム)では、重篤な肝毒性が報告されています。このため、ベンズブロマロンの使用開始後は定期的な肝機能検査が必須です。添付文書上も導入後少なくとも半年間は肝機能の慎重なフォローが必要とされています。
肝機能障害の兆候としては以下のものがあります。
肝機能障害の既往がある患者や肝機能低下が認められる患者では使用を避けるべきでしょう。
2. 尿路結石のリスク増加
尿酸排泄促進薬は尿中への尿酸排泄を増加させるため、尿路結石のリスクを高める可能性があります。特に尿路結石の既往がある患者、脱水状態の患者、酸性尿の患者では注意が必要です。
尿路結石のリスクを軽減するためには以下の対策が重要です。
3. 薬物相互作用
尿酸排泄促進薬は他の薬剤との相互作用に注意が必要です。特に以下の薬剤との併用には注意が必要です。
4. 腎機能低下患者での使用
尿酸排泄促進薬は腎機能に依存した効果を示すため、重度の腎機能低下患者では効果が減弱する可能性があります。ただし、ベンズブロマロンは腎機能低下患者でも比較的効果が維持される特徴があります。
eGFR 30 mL/min/1.73 m²未満の重度腎機能低下患者では、尿酸産生抑制薬(フェブキソスタットなど)の使用が優先される場合が多いです。
5. 痛風発作の誘発リスク
尿酸降下療法開始時には、血中尿酸濃度の急激な変動により痛風発作が誘発されることがあります。これを予防するために、尿酸排泄促進薬の導入初期には低用量から開始し、徐々に増量することが推奨されます。また、NSAIDsやコルヒチンなどの抗炎症薬の予防投与を検討することも重要です。
尿酸排泄促進薬を選択する際には、患者の病態や背景疾患を総合的に考慮することが重要です。以下に重要な選択基準を紹介します。
1. 高尿酸血症の病型による選択
高尿酸血症は主に「尿酸産生過剰型」「尿酸排泄低下型」「混合型」の3つに分類されます。
理論的には、尿酸排泄低下型や混合型の患者に尿酸排泄促進薬が適しています。しかし実臨床では、病型のみで薬剤を選択するのではなく、患者の背景疾患も考慮することが重要です。実際に、排泄低下型の患者でも尿酸産生抑制薬が有効であるという報告もあります。
2. 患者背景による選択
3. 薬物相互作用に基づく選択
4. 服薬コンプライアンスとコスト
患者の経済状況や服薬コンプライアンスを考慮して、適切な薬剤を選択することが重要です。
病型のみで使い分けするのではなく、患者さんの背景疾患なども加味して、慎重に薬剤を選ぶことが推奨されています。最終的には患者さん一人ひとりの状態を総合的に評価し、最適な薬剤を選択することが大切です。
尿酸排泄促進薬の分野では、新たな薬剤の開発や既存薬の新たな知見など、研究が進んでいます。ここでは最新の研究動向と今後の展望について紹介します。
1. 選択的尿酸再吸収阻害薬(SURI)の進化
ドチヌラドは2020年に日本で発売された選択的尿酸再吸収阻害薬(SURI)です。従来の尿酸排泄促進薬と比較して、URAT1に対する選択性が高く、強力な作用を持つことが特徴です。
現在、さらに選択性の高いSURIの開発が世界中で進められており、より効果的で副作用の少ない治療選択肢となることが期待されています。
2. 尿酸トランスポーター研究の進展
尿酸の排泄・再吸収に関わるトランスポーターの研究が近年急速に進んでいます。URAT1だけでなく、GLUT9(SLC2A9)、ABCG2、OAT1/3など、様々なトランスポーターが尿酸の体内動態に関与していることが明らかになってきました。
これらのトランスポーターをターゲットとした新しい治療薬の開発が期待されています。特に遺伝子多型による尿酸トランスポーターの機能変化と高尿酸血症との関連が注目されており、将来的には遺伝子型に基づいた個別化医療が可能になるかもしれません。
3. 併用療法の有効性検証
尿酸産生抑制薬と尿酸排泄促進薬の併用療法に関する研究も進んでいます。異なる作用機序を持つ薬剤を併用することで、より効果的に尿酸値を低下させることができるという報告があります。
最近では、フェブキソスタット(尿酸産生抑制薬)とドチヌラド(尿酸排泄促進薬)の併用が難治性高尿酸血症に効果的であるという報告も出てきていますが、安全性や長期予後に関するエビデンスはまだ限られており、今後さらなる検証が必要です。
4. 心血管疾患予防への期待
高尿酸血症は心血管疾患のリスク因子であることが知られていますが、尿酸降下療法によって心血管疾患のリスクが低減するかどうかは議論の余地があります。
最近の研究では、尿酸排泄促進薬が腎保護効果や血管内皮機能改善効果を持つ可能性が示唆されています。特にドチヌラドなどの新しいSURIが、尿酸値の低下だけでなく、心血管疾患の予防にも寄与する可能性が検討されています。
5. 長期安全性データの蓄積
新しい尿酸排泄促進薬、特にドチヌラドなどのSURIの長期安全性に関するデータはまだ限られています。今後、実臨床での使用経験と長期フォローアップデータの蓄積により、これらの薬剤の真の安全性プロファイルが明らかになることが期待されます。
特に肝機能障害や腎機能障害などの重篤な副作用のリスク評価や、様々な合併症を持つ患者での安全性評価が重要です。
6. 治療ガイドラインの更新
新しい薬剤の登場や研究の進展に伴い、痛風・高尿酸血症の治療ガイドラインも更新されることが予想されます。特に尿酸排泄促進薬の位置づけや使い分けに関する推奨事項が、新たなエビデンスに基づいて見直される可能性があります。
医療従事者は、最新のガイドラインや研究成果に常に注目し、エビデンスに基づいた最適な治療を提供することが求められます。
日本痛風・核酸代謝学会「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版」- 最新の治療推奨
以上、尿酸排泄促進薬の種類、特徴、副作用、選択基準、最新の研究動向について解説しました。高尿酸血症の治療においては、患者さんの病態や背景疾患を十分に理解し、適切な薬剤を選択することが重要です。また、定期的な検査によるモニタリングと、患者さんへの適切な指導も治療成功の鍵となります。