尿路結石とは、腎臓から尿道までの尿路にできる石のような固い塊のことです。腎臓で作られた尿が尿道から排出される際に通る道(腎臓・尿管・膀胱・尿道)のどこかに結石が形成されると、尿の流れを妨げ、様々な症状を引き起こします。結石ができる場所によって、腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石と呼び名が変わります。
尿路結石の95%は上部尿路結石(腎臓と尿管)であり、特に30~60歳代の壮年男性と閉経後の女性に高頻度で見られます。男女比はおよそ2.5:1で、男性の罹患率が高いのは、男性ホルモンが結石の成分となるシュウ酸を増やすことが一因と考えられています。
結石の形成メカニズムは主に以下のプロセスで進みます。
微小な結晶や結石は通常、無症状のうちに尿中に排泄されますが、これらにさらに晶質や有機物が付着して腎杯内で成長すると、排出時に血尿や疼痛などの症状を引き起こします。
特殊なケースとして、腎結石が腎臓内で増大し鋳型状となった「サンゴ状結石」や、尿管内の同一部位に長期間位置して尿管との癒着が強くなった「嵌頓(かんとん)結石」があります。これらは治療が困難なケースが多いため、早期発見と適切な対応が重要です。
尿路結石の最も特徴的な症状は、突然発症する激しい痛み(疝痛発作)です。この痛みは、結石が尿路を移動する際に尿路の内壁を傷つけたり、尿路を閉塞させて内圧が上昇することで引き起こされます。
結石の大きさや位置によって症状は異なりますが、主な症状は以下の通りです。
注目すべき点として、腎結石は無症状で経過することが多く、検診などで偶然発見されることもあります。また、腰部の鈍痛のみを自覚したり、結石周囲の細菌感染のために膿尿や細菌尿のみを認めるケースもあります。
結石の大きさと症状の関係も重要です。一般的に直径5mm未満の小さな結石は自然排石の可能性が高く、一過性の症状で済むことが多いですが、5mm以上の結石では自然排石が難しく、持続的な症状を引き起こす傾向があります。特に10mm以上の結石では、積極的な治療が必要となるケースがほとんどです。
疼痛の特徴として、結石の位置が移動すると痛みの場所も変化することが挙げられます。上部尿管の結石では腰背部痛が、中部尿管では側腹部痛が、下部尿管では下腹部や会陰部の痛みが主症状となります。
尿路結石は成分によって複数の種類に分類され、それぞれ形成要因が異なります。主な結石の種類と形成要因について詳しく見ていきましょう。
1. シュウ酸カルシウム結石(最も一般的)
全尿路結石の約70~80%を占める最も一般的な結石です。
形成要因。
2. リン酸カルシウム結石
形成要因。
3. 尿酸結石
形成要因。
4. リン酸マグネシウムアンモニウム結石(感染結石)
形成要因。
5. シスチン結石
形成要因。
結石形成を促進する全般的な要因として以下も重要です。
興味深いことに、近年では肥満や高血圧、糖尿病などのメタボリックシンドロームと尿路結石の関連性が報告されています。これは食生活の欧米化に伴い、日本でも尿路結石患者が増加している一因と考えられています。
尿路結石の診断には、患者の症状や病歴の聴取に加えて、いくつかの検査方法が用いられます。それぞれの検査の特徴と有用性について説明します。
画像診断法
尿路結石の標準的な診断方法として広く用いられています。感度・特異度ともに非常に高く(95%以上)、ほぼすべての結石を検出できます。また結石の密度、内部構造、皮膚からの距離などを測定でき、治療方針の決定にも有用です。
欠点としては放射線被曝量が多いことや、腎機能や尿路の形態に関する情報が十分得られないことが挙げられます。
通常のCTより被曝量を減少させた検査法です。3mm以上の尿路結石については通常のCTと同様の診断率が得られます。若年患者や妊娠可能年齢の女性、繰り返し検査が必要な患者に特に有用です。
放射線被曝がなく、無侵襲な検査法です。腎臓、上部尿管、膀胱近傍の結石を識別でき、上部尿路の閉塞による水腎・水尿管の程度を診断するのに有用です。5mm以上の結石では感度・特異度ともに95%以上ですが、すべての部位の結石を同定できるわけではありません。
スクリーニングや妊婦、小児の検査に適しています。
結石の経過観察に用いられる基本的な検査です。レントゲン透過性の有無で結石の成分についても鑑別できますが、感度・特異度はCTや超音波より低めです。
造影剤を静脈注射して尿路の形態や機能を評価します。上部尿路の通過障害や尿路奇形などの診断が可能で、治療計画の策定に有用です。ただし造影剤アレルギーのリスクがあります。
尿検査・血液検査
最新の診断技術
診断の進め方としては、まず疝痛発作や血尿などの典型的な症状がある場合、単純CTまたは超音波検査で結石の有無を確認します。結石が確認された場合は、サイズ、位置、数、閉塞の程度を評価し、治療方針を決定します。
また、再発予防のためには、排出された結石の成分分析を行うことが重要です。これにより、結石形成の原因となる代謝異常や生活習慣を特定し、適切な予防策を講じることができます。
尿路結石は再発率が高い疾患であり、5年以内の再発率は約45%に達します。そのため、初回発症後の適切な予防策が非常に重要です。また、近年の研究で尿路結石と慢性腎臓病(CKD)との関連性が明らかになってきており、この観点からも予防の意義は大きいといえます。
基本的な予防法
水分摂取量の不足は結石形成の最も重要なリスク因子の一つです。水分摂取量が少ないと尿量も減少し、尿中の結晶成分が濃縮されて結石が形成されやすくなります。
推奨される水分摂取量は、食事を除いて1日2リットル以上です。特に、汗をかいた後や暑い季節、運動後の水分補給が重要です。水分摂取の目安として、「無色または淡黄色の尿が出るように飲む」ことが推奨されています。
尿路結石と慢性腎臓病(CKD)の関連性
近年の研究で、尿路結石とCKDに双方向の関連性があることが明らかになってきました。尿路結石患者はCKD発症リスクが1.5~2倍高く、特に複数回の結石イベントを経験した患者や、感染結石や閉塞を伴う結石を持つ患者ではリスクがさらに高まります。
尿路結石がCKDに至るメカニズム
などが考えられています。
逆に、CKDも尿路結石のリスク因子となります。CKDでは。
などが結石形成を促進する可能性があります。
このような相互関連から、尿路結石患者の管理においては腎機能のモニタリングが重要であり、CKD患者では尿路結石の予防と早期発見に注意を払う必要があります。
医療従事者は、尿路結石患者に対して適切な生活指導を行うとともに、定期的な腎機能評価を行い、CKDの早期発見と進行予防に努めることが重要です。
次の論文では、尿路結石とCKDの関連性について詳しく述べられています。
エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018
以上のように、尿路結石の予防は単に結石の再発を防ぐだけでなく、CKDなどの腎疾患予防という観点からも非常に重要です。適切な水分摂取、バランスの取れた食事、健康的な生活習慣の維持が、結石予防の基本となります。