毛細管現象とは、細い管状物体の内側を液体が外部からのエネルギーを与えられることなく移動する物理現象です。ティッシュペーパーの細かい繊維が細い管と同じ役割を果たすため、水に浸したティッシュは重力に逆らって水を吸い上げることができます。この現象は表面張力と固体との接着相互作用によって駆動され、液体の上昇する力は壁面付近の表面張力の垂直成分に等しくなります。
参考)https://ameblo.jp/kids-science/entry-11047617811.html
ティッシュペーパーを用いた実験では、コップの間にかけたティッシュが水を吸い上げ、時間の経過とともに反対側のコップへ水が移動する様子を観察できます。この際、毛細管現象が起こるには液体の表面張力と固体の毛細管の直径(濡れやすさ)が重要な役割を果たします。液体中に細い管を入れると管の中の液面が管の外の液面と異なる高さに移動し、この管の役割をティッシュペーパーの細かな繊維が果たすのです。
参考)【毛細管現象】水のみで動いています | 自由研究におすすめ!…
表面張力によって液面は縮まろうとする方向に力が加わっており、壁面付近の傾きをもった液面が縮まろうとすることで結果的に水面を持ち上げます。この力と持ち上げた液体の重さがつりあうまで液面は上昇し、細い管の場合は管断面積が微小となるため液面の上昇する高さは非常に大きくなります。
参考)毛細管現象 - Wikipedia
ティッシュペーパーを用いた毛細管現象の実験は簡単に実施できます。ティッシュペーパーを細長く丸めて片方を水に浸し、もう片方を別のコップへ入れるだけで準備は完了です。時間はゆっくりですが、片方の水がどんどん吸い上げられ、もう片方へ水が移動する様子を観察できます。
参考)おうち実験! さわらずにコップへ水を移動する!?科学実験(動…
実験では水に色をつけることで水の移動がわかりやすくなります。ストローの中に左右からティッシュペーパーを詰めて間を少しだけあけておき、これを水の入ったコップに入れると、うまくいけばストローの空間に水がたまります。吸い上げるのには多少時間がかかるため、放置しておく必要があります。
段差をつけた実験も可能です。1時間後には同じ高さのものも段差をつけたものも、コップの間にかけたティッシュが1つ目のコップに入れた色に近い色に染まることが確認されています。これは毛細管現象によって液体が重力に逆らって移動できることを示しています。
参考)https://gakusyu.shizuoka-c.ed.jp/science/sonota/ronnbunshu/h29/171075.pdf
医療現場では毛細管現象がドレーン管理において重要な役割を果たしています。ペンローズ・ドレーンはフィルム型に分類され、毛細管現象を利用して不要な浸出液などを体外に排泄させる医療器具です。繊維と繊維のすき間を重力や方向関係なく液体が浸透する毛細管現象の原理により、手術後に摘出した臓器や組織部分などの浸出液や血液が体外へ排出されます。
参考)ペンローズ・ドレーン
毛細管現象を利用するドレーンは、ドレーンの壁に多数の孔または溝を持つ構造が特徴です。開放式ドレナージに使用され、素材が柔らかく挿入による違和感や苦痛が少ないという利点があります。フィルム型ドレーンには多穴型やペンローズ型があり、主にペンローズ型が医療現場でよく使用されています。
参考)ドレーンとは|ドレーンの種類と管理
受動的ドレーンは陰圧を用いず、自然の落下圧差、重力、腹圧や毛細管現象などを利用してドレナージを行います。マルチスリットドレーンは4方向にスリットが入っており、毛細管現象を利用した効率的なドレナージを実施できるだけでなく、ドレナージチューブも柔らかい素材で作られています。後腹膜腔や腹腔内のダグラス窩に先端部を挿入したドレーンでは、重力や毛細管現象に頼ってもドレナージ効果が不十分な場合があり、そのような場合は陰圧をかけられる低圧持続吸引システムが利用されます。
参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/2618/
イムノクロマト法とは、セルロース膜上を被検体が試薬を溶解しながらゆっくりと流れる性質(毛細管現象)を応用した免疫測定法です。毛細管現象を利用した迅速検査方法として、短時間(20~30分)の反応で目視判定が可能なため、特別な機器は不要です。
参考)イムノクロマト法|臨床検査概論|ラーニング|ラジオメーターの…
この検査法ではサンプルの中に対象の抗原がある場合、予めコンジュゲートパットに浸透させておいた抗体と結合し、毛細管現象によってメンブレン上を移動します。一般的にイムノクロマト法で検査されるのは、インフルエンザ、妊娠、A・B・C型肝炎、エイズ、マラリア、アレルギーなどで、PCR法やELISA法などを行う前段階でのスクリーニングとしてよく用いられています。
参考)イムノクロマト法 / 生産工程
毛細管現象を利用したバイオ分野での応用は診断検査にとどまらず、セルロースナノファイバーを用いたエクソソーム捕捉ツールの開発にも展開されています。EVシートを臓器に数秒間貼り付けると、体液が毛細管力によってシート内に吸収され、その後の乾燥処理によって体液中のエクソソームがナノ細孔構造内に選択的に捕捉される仕組みです。
参考)セルロースナノファイバーを用いた新しいエクソソーム捕捉ツール…
毛細管内で液体が上昇または下降する高さは、液体の表面張力と密度、液体と管の接触角、重力加速度、管の半径など、いくつかの要因によって左右されます。表面張力は液体と空気の境界での液体分子間の凝集力から生じ、外力に抵抗する皮膚を形成します。
参考)ビデオ: 流体の毛細管現象
液面が固体の面と接するところでは、液面と固体面がある角をつくり、固体と液体の接触面から液体と気体の接触面への角を接触角と呼びます。キャピラリーチューブを液体に入れると、液体とチューブの表面との間の接着相互作用に基づいて液面が変化します。接着力が液体の凝集力よりも大きい場合、液体はチューブ内で上昇し毛細管上昇と呼ばれ、凝集力が強いほど液面は低下し毛細管の陥凹と呼ばれます。
参考)https://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~masako/exp/jolly/moukan.htm
毛管を液中に垂直に立てると表面張力の作用で毛管中を液体が上昇し、液体と管との間の接触角を0とすれば、その上昇する高さは液体の表面張力に比例し密度および毛管の内径に反比例します。接触角が大きい液体を用いると、毛管現象を誘起するには、より高いアスペクト比(深い溝)が必要になることが実験的に確認されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/64/1/64_34/_pdf
マイクロ流路デバイスにおける毛細管現象の応用は、細胞培養系や医療診断の分野で注目されています。マイクロ流路はこれまでに細胞の培養系のみならず、バイオ分野においてさまざまに応用されており、細胞のソーティング、細胞の計測、生体高分子の分離などに活用されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/seibutsukogaku/99/7/99_99.7_360/_pdf
血管を模倣した細胞培養系では、フィブリンゲル内に培養液を導入することで3次元的な毛細血管網を形成する技術が開発されています。培養液の流れを制御してフィブリンゲルの周囲に適切な圧力差を生じさせることによって、ゲルの内部において血管内皮細胞が増殖し、細胞自身の能力によって圧力差の方向に自発的に3次元的な管腔構造が形成されます。
マイクロニードルパッチ型の医療機器開発においても毛細管現象が応用されています。多孔質の針を肌に貼るだけで、毛細管現象により間質液を採取し、血糖値やコレステロール値などの検査が可能になります。この技術により、痛みを感じずに採血の代わりとなる検査が実現され、患者さん自身で測定できるワンアクション・短時間で判定できるセンサーの開発が進められています。
参考)“小さな針”が医療を変える! 世界初「マイクロニードルパッチ…
生体内における毛細管現象は、植物が根から水を吸い上げる仕組みや、タオルが水を吸収する現象など、私たちの身の回りで広く見られる物理現象です。植物の成長に不可欠な土壌水分と栄養素の移動にも影響を与え、多孔質材料では液体の吸収と保持に重要な役割を果たしています。
参考)毛細管現象とは? Bio-Rad社特許で学ぶ応用例 href="https://ch-fanyi.com/%E6%AF%9B%E7%B4%B0%E7%AE%A1%E7%8F%BE%E8%B1%A1%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F%E3%80%80bio-rad%E7%A4%BE%E7%89%B9%E8%A8%B1%E3%81%A7%E5%AD%A6%E3%81%B6%E5%BF%9C%E7%94%A8%E4%BE%8B/" target="_blank">https://ch-fanyi.com/%E6%AF%9B%E7%B4%B0%E7%AE%A1%E7%8F%BE%E8%B1%A1%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F%E3%80%80bio-rad%E7%A4%BE%E7%89%B9%E8%A8%B1%E3%81%A7%E5%AD%A6%E3%81%B6%E5%BF%9C%E7%94%A8%E4%BE%8B/amp;#82…
髪の毛においても毛細管現象が観察されます。頭皮にある水分が、髪の表面に鱗状にあるキューティクルを伝って毛先までいきわたる仕組みです。本物の髪の毛を用いた実験では、なにもつけていない髪の場合、空のコップに髪の毛を伝って水がポタポタと移っていくことが確認されています。しかし、ヘアオイルをつけた髪では少量の水しか伝わらず、ワックスをつけた髪では水が伝っていかないことが実験で明らかになっています。
参考)あなたの髪の毛、毛細管現象起きてる?毛細管現象と髪の意外な関…
ティッシュやタオルでこぼした水を拭き取る日常的な行為も毛細管現象が活躍している例です。毛細管現象は、インクジェット印刷やマイクロ流体工学などの技術でも使用されており、表面張力や濡れ性、接触角といった現象の理解が材料開発やマイクロ流体デバイスの設計にもつながる重要なテーマとなっています。
参考)毛細管現象と雨漏りの関係性- 屋根・内装 326リフォーム|…