SBT(自発呼吸トライアル)をTピースで行うと、再挿管率が最大8%上昇するリスクがあります。
関連)https://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20170314Ishizuka.pdf

日本では長らく、人工呼吸器離脱を「何らかの指針に沿って実施している」施設はわずか1割程度でした。 2012年の日本クリティカルケア看護学会のアンケート調査では、「ウィーニングの開始・中止は医師が単独で判断している」と回答した施設が約半数を占めていたのです。 この現状を打開するために、日本集中治療医学会・日本呼吸療法医学会・日本クリティカルケア看護学会の3学会が合同で作業部会を結成し、2015年に日本版人工呼吸器離脱プロトコルが公開されました。
関連)https://www.jsicm.org/pdf/kokyuki_ridatsu1503b.pdf
プロトコルの目的は大きく2つです。 ①各施設独自の離脱プロトコル作成を支援するための標準的な手順書を提供すること、②医療チームが協働して人工呼吸器からの早期離脱を推進するための共通言語を提供すること。つまり「医師だけが決める」体制から「多職種チームで進める」体制への転換を促す文書です。
関連)https://square.umin.ac.jp/jrcm/journal/backnumber/34-1/34-1-10.pdf
重要なのは、このプロトコルは「各施設の状況に合わせて修正してよい」という柔軟な姿勢で設計されている点です。 頭蓋内疾患を多く扱うICUと内科ICUでは覚醒度の判断基準が異なって当然であり、プロトコルをそのまま適用することが目的ではありません。
関連)https://square.umin.ac.jp/jrcm/journal/backnumber/34-1/34-1-10.pdf
| プロトコル構成 | 主な内容 | 対象 |
|---|---|---|
| SAT(自発覚醒トライアル) | 鎮静薬の中断・漸減、覚醒度評価 | 鎮静管理中の挿管患者 |
| SBT(自発呼吸トライアル) | 自発呼吸での換気能力確認(30分〜2時間) | SAT通過後の挿管患者 |
| 抜管プロトコル | 抜管リスク分類、抜管後対応 | SBT通過後の患者 |
参考:3学会合同人工呼吸器離脱プロトコルの全文と背景解説(UMIN)
https://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/pubcome/pubcome006.pdf
SAT(Spontaneous Awakening Trial:自発覚醒トライアル)とは、鎮静薬を一時的に中断または漸減し、患者の覚醒度を確認するプロセスです。 SBTに進む前に必ずSATを行うことが、3学会合同プロトコルの大きな特徴のひとつです。鎮静からの覚醒が不十分な状態でSBTを行っても、自発呼吸の評価が適切にできないためです。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.038698220540020169
SATの開始前には安全基準のチェックが必要です。 以下の状態にある患者はSATの開始を保留します。
関連)https://jaccn.jp/assets/file/guide/proto2.pdf
SAT実施中は30分〜4時間、患者の状態を観察します。 成功基準はRASS(Richmond Agitation-Sedation Scale)が「−1〜0」の範囲で覚醒が維持できることです。 重要なのは、鎮静は解除するが鎮痛は適切に維持し続ける点です。これが基本です。疼痛管理が不十分なままSATを行うと、苦痛から興奮・体動が生じ、プロトコル全体が失敗します。
関連)https://jaccn.jp/assets/file/guide/proto2.pdf
SAT中に以下のいずれかが出現したら中止し、鎮静薬を再開して翌日再評価します。
関連)https://jaccn.jp/assets/file/guide/proto2.pdf
参考:日本集中治療医学会 – 3学会合同人工呼吸器離脱プロトコル(チェックリスト付き)
https://www.jsicm.org/pdf/kokyuki_ridatsu1503b.pdf
SBT(Spontaneous Breathing Trial:自発呼吸トライアル)は、SAT成功後に行う自発呼吸の安定性テストです。 ATS/ACCPガイドラインでは、SBTはTピース(吸気圧補助なし)よりも「吸気圧補助5〜8cmH₂O(PS 5〜8cmH₂O)」で行うことが推奨されています。 この推奨の背景には、Tピースでは挿管チューブの気道抵抗が加わるため、実際の呼吸仕事量を過大評価してしまうリスクがあるためです。
関連)https://www.kango-roo.com/learning/10792/
SBT開始前に確認すべき安全基準は下記のとおりです。
関連)http://nms-anesthesiology.jp/pdf/protocol5.pdf
SBTの成功基準として活用される指標のひとつがRSBI(Rapid Shallow Breathing Index)です。 RSBIは「呼吸数(回/分)÷ 一回換気量(L)」で計算し、105以下であれば離脱成功の可能性が高いとされます。 たとえば呼吸数20回/分・一回換気量0.4LならRSBI=50となり、自発呼吸に耐えられると評価できます。これは使えそうです。
関連)https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2011/PA02911_05
SBTの観察時間は30分〜2時間で、以下の呼吸促迫徴候が出現したら中止します。
関連)https://jaccn.jp/assets/file/guide/proto2.pdf
SBT成功後は速やかに抜管プロトコルに移行します。 SBT成功=即抜管ではなく、気道評価と患者状態の総合判断が条件です。
関連)https://jaccn.jp/assets/file/guide/proto2.pdf
3学会合同プロトコルでは、抜管後のリスクを「超高リスク群」「高リスク群」「低リスク群」の3つに分類しています。 この分類は他の国際ガイドラインにはない日本版プロトコルの大きな特徴です。上気道閉塞事故は致死的になりうるため、抜管後1時間はベッドサイドを離れないことが原則です。
関連)https://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/pubcome/pubcome006.pdf
超高リスク群(抜管直後から1時間、高度な注意が必要):
関連)https://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/pubcome/pubcome006.pdf
高リスク群(抜管後の換気不全リスクが高い):
関連)https://jaccn.jp/assets/file/guide/proto2.pdf
高リスク患者への対応として、予防的NIV(非侵襲的陽圧換気)の使用がATS/ACCPガイドラインで強く推奨されています。 SBT成功後に抜管直後からNIVを使用した場合、再挿管率が有意に低下し(RR 1.14, 95%CI 1.05–1.23)、ICU死亡率も低下することが示されています。 ただし、抜管後に呼吸不全が発生してからNIVを開始しても有効性はなく、あくまで抜管直後からの予防的使用が条件となります。厳しいところですね。
関連)https://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20170314Ishizuka.pdf
カフリークテストの施行法については以下のとおりです。
関連)https://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20170314Ishizuka.pdf
1. 強制換気下で呼気1回換気量(Vt1)を測定
2. カフを抜去して呼吸が安定したら、連続6呼吸の呼気量を測定
3. 低い3サイクルの平均値(Vt2)を算出
4. カフリークボリューム = Vt1 − Vt2 < 110ml → 陽性(喉頭浮腫リスクあり)
カフリークテスト陽性で他の抜管基準は満たしている場合は、抜管4時間前までにステロイド全身投与を行います。 36時間以上挿管管理された698名を対象とした多施設RCTでは、抜管12時間前からmPSL 20mgを4時間ごとに投与した群で喉頭浮腫の発生率が22%→3%に減少したことが報告されています。
関連)https://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20170314Ishizuka.pdf
参考:ATS/ACCP 人工呼吸器離脱ガイドライン解説(東京ベイ・浦安市川医療センター)
https://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20170314Ishizuka.pdf
人工呼吸器離脱において、鎮静管理は「量を減らせばよい」という単純な話ではありません。 ATS/ACCPガイドラインでは「鎮静を最小限にするプロトコル管理を行うべき」と条件付き推奨(Low-quality evidence)が示されています。 ただしメタアナリシスでは、鎮静最小化プロトコルによりICU滞在期間は平均1.78日短縮された一方、人工呼吸器装着期間自体には有意差がなかったという結果も示されています。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.038698220540020169
鎮静管理の方針として、RASS 0〜−2の浅鎮静を目標とすることが推奨されています。 深鎮静が続くと覚醒トライアル(SAT)が成立せず、離脱プロセス全体が遅延します。つまり離脱の失敗は鎮静の失敗から始まると言えます。
関連)https://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20170314Ishizuka.pdf
早期リハビリテーションもまた、人工呼吸器離脱を促進する重要な介入です。 プロトコルに則った早期離床を実施した群では、人工呼吸器装着期間が平均2.7日短縮し、退院時の歩行可能率が64.0% vs 41.4%(RR 1.56)と有意に向上しています。 人工呼吸器装着中であっても、禁忌基準(著明な血行動態不安定、高いFiO₂依存など)を除けば早期離床・ADL訓練を開始するのが原則です。
関連)https://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20170314Ishizuka.pdf
医療スタッフへの実践的なアドバイスとして、離脱プロトコルを使うことで人工呼吸器装着時間を平均25時間短縮できることが17件のRCTを含むシステマティックレビューで示されています。 この25時間の短縮は、VAP(人工呼吸器関連肺炎)リスクの低下にも直結します。プロトコルを「形式的な書類」ではなく、「患者アウトカムを変える能動的なツール」として活用することが現場に求められています。
関連)https://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20170314Ishizuka.pdf
参考:看護roo! – 人工呼吸器離脱の評価指標・SBT成功基準まとめ
https://www.kango-roo.com/learning/10792/
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