インフルエンザウイルスが体内に侵入すると、免疫システムが活性化され「プロスタグランジン」という炎症性物質が分泌されます。この物質は体温上昇と免疫力向上という重要な防御機能を担う一方で、痛覚受容体を過敏にする作用があります。
プロスタグランジンの主な働き。
通常の風邪と異なり、インフルエンザでは高熱に比例してプロスタグランジンの産生量が増加するため、腰部や関節に強い痛みが現れやすくなります。
インフルエンザの療養期間中、患者は平均5-7日間の安静状態を維持します。この期間中に生じる身体変化が、腰痛の長期化に大きく影響しています。
療養期間中の身体変化。
特に注目すべき点は、インフルエンザ患者の約68%が療養中に不適切な寝姿勢を取っていることです。実家帰省時や慣れない寝具での療養では、普段使用している寝具との違いが腰部への負担を増大させます。
医学的観点から見ると、筋力は安静開始から72時間以内に顕著な低下を示し始めます。インフルエンザのような全身症状を伴う疾患では、この筋力低下がより加速されるため、回復期においても腰痛が継続しやすくなります。
医療従事者として重要なのは、インフルエンザに関連する腰痛と他の疾患による腰痛を適切に鑑別することです。特に免疫力が低下した状態では、細菌感染による化膿性脊椎炎や硬膜外膿瘍などの重篤な合併症のリスクが高まります。
鑑別すべき重要な疾患。
67歳の血液透析患者の症例では、インフルエンザ様症状から腰部硬膜外膿瘍、腰部脊椎炎・椎間板炎、多発化膿性関節炎を発症した報告があります。この症例は、免疫力低下状態での感染症が如何に重篤な合併症を引き起こすかを示しています。
警戒すべき症状(Red Flag Signs)。
インフルエンザ関連の腰痛治療では、急性期から回復期にかけて段階的なアプローチが重要です。不適切な早期運動は症状を悪化させる可能性があるため、患者の全身状態を慎重に評価しながら治療計画を立案する必要があります。
急性期(発症~3日目)の対応。
回復期(4-7日目)の対応。
慢性期(8日目以降)の対応。
40代女性の症例では、インフルエンザ後の咳症状に続発する肩甲骨周囲痛が5ヶ月間継続し、鍼灸治療により著明な改善を認めた報告があります。この症例は、インフルエンザ後遺症に対する多角的治療アプローチの重要性を示唆しています。
医療従事者にとって重要なのは、患者の安全な職業復帰を判定する客観的基準を持つことです。インフルエンザからの回復後も腰痛が持続する場合、無理な職業復帰は症状の慢性化や労災事故のリスクを高めます。
職業復帰判定のチェックポイント。
特に医療従事者、介護職員、建設作業員など腰部に負担のかかる職業では、より慎重な復帰判定が必要です。復帰前の機能評価では、以下の項目を重点的に確認します。
機能評価項目。
労働安全衛生法に基づく復職判定では、産業医との連携により総合的な評価を行うことが推奨されています。インフルエンザ後の腰痛が3週間以上継続する場合は、専門的な整形外科的評価や理学療法の適応を検討する必要があります。
復帰支援プログラムの実施により、インフルエンザ後腰痛の慢性化率を約40%減少させることができるという研究報告もあり、早期からの適切な介入の重要性が示されています。