羊膜間葉系幹細胞特徴と免疫抑制作用及び再生医療応用

羊膜間葉系幹細胞は高い増殖能と免疫抑制作用を持つ次世代の細胞治療として注目されています。骨髄間葉系幹細胞と比較した特徴や臨床応用の可能性について詳しく解説。最新の研究成果から見えてくる羊膜間葉系幹細胞の優位性とは?

羊膜間葉系幹細胞の特徴

羊膜間葉系幹細胞の主要特性
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高い増殖能

幼若組織由来で細胞増殖能が旺盛、染色体構造が安定

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免疫抑制作用

T細胞、B細胞、NK細胞の増殖抑制効果

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多分化能

軟骨、骨、心筋、神経、肝臓、膵臓などへの分化

羊膜間葉系幹細胞の基本的な特徴

羊膜間葉系幹細胞(Amnion-derived mesenchymal stromal cells:AMSCs)は、出産時の胎盤から分離した羊膜に存在する未分化の細胞です。赤ちゃんを包む膜のことを卵膜、卵膜の最も内側の組織を羊膜と言います。
羊膜間葉系幹細胞は筋肉、骨、軟骨、脂肪など間葉系に属するさまざまな細胞に分化する能力や自己複製の能力を持っています。さらに軟骨、骨、心筋、神経、肝臓、膵臓などへの高い分化能を有することが確認されています。
🔬 細胞表面マーカーの特徴

  • CD73、CD90、CD105陽性
  • CD34、CD45、CD14またはCD11b、CD79aまたはCD19、HLA-class II陰性

これらの特性により、羊膜間葉系幹細胞は間葉系幹細胞としての定義を満たしており、再生医療向けの細胞として有望視されています。

羊膜間葉系幹細胞の免疫抑制作用のメカニズム

羊膜間葉系幹細胞の最も重要な特徴の一つが、強力な免疫抑制作用です。骨髄由来間葉系幹細胞の研究では、T細胞、B細胞、NK細胞のような免疫細胞の増殖抑制効果が報告されています。
🧪 免疫抑制のメカニズム

炎症性サイトカインはTNF-α、INF-γ、IL-17であり、TNF-αはプロスタグランジン-E2の生成を促進することにより免疫抑制効果を増加させています。また、INF-γは免疫抑制酵素の生成を直接促すことにより免疫調節の効果を促すとの報告もあります。
羊膜由来間葉系幹細胞がT細胞の細胞増殖を抑制しているという報告があり、異常免疫組織拒絶反応に対して良い結果を得ているとの報告もあります。

羊膜間葉系幹細胞の増殖能と培養特性

羊膜間葉系幹細胞は他の間葉系幹細胞と比較して、特に優れた増殖能を持つことが知られています。羊膜由来MSCは生体内にある幹細胞の中でも増殖性が高いという特徴があります。
📈 増殖能の優位性

  • 骨髄などと比べて組織含有細胞数が非常に多い
  • 同一ロットからの採取・拡大培養が容易
  • 幼若組織由来であるため細胞増殖能が旺盛
  • 継代培養においても染色体構造の安定性が高い

この高い増殖能により、治療に必要な細胞数を短期間で効率よく調製することが可能です。哺乳動物の羊膜由来の間葉系細胞から、効率よく簡便に、長期間にわたり継代培養可能な増殖能と高い分化能を兼ね備えた間葉系幹細胞集団を調製する方法が確立されています。

羊膜間葉系幹細胞の移植適合性と安全性

羊膜間葉系幹細胞は移植医療において優れた特性を示します。拒絶反応が起こりにくいため他人に移植しやすく、羊膜は出産後不要となり倫理的にも問題となりにくいという利点があります。
🏥 移植における優位性

  • 医療廃棄物がソースであるため倫理的問題が少ない
  • 含有するMSCが非常に多い
  • 免疫抑制能が高い

これらの特徴により、低コスト、短期間、少ない投与量にてMSCを用いた細胞治療が実用化可能であることが示されています。すでに移植片対宿主病に対する細胞製剤として販売されている骨髄MSCsと類似した免疫制御作用を有することから、さまざまな疾患への応用が期待されています。

羊膜間葉系幹細胞の臨床応用における独自性

羊膜間葉系幹細胞は、従来の骨髄間葉系幹細胞では解決できない課題に対する革新的な解決策として注目されています。骨髄MSCは骨髄採取に侵襲性がある、骨髄中の存在頻度が0.001~0.01%と非常に低く治療に必要な細胞数を得るには長期間培養が必要であり高コストといった問題があります。
💡 独自の優位性

  • デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する抗炎症細胞療法として有用性が明らかに
  • 急性脊髄損傷への臨床応用で世界初の治験が実施
  • 移植片対宿主病造血幹細胞移植における革新的治療法として期待

放射線腸炎モデルラットに対してヒト羊膜由来間葉系幹細胞を静脈内投与したところ、上皮細胞の障害が抑制され、好中球マクロファージといった炎症細胞浸潤の抑制が認められました。これらの研究成果から、炎症性腸疾患や移植片対宿主病(GVHD)に対する臨床応用をめざして第I相臨床試験(治験)の準備が進められています。
世界初の治験として、クローン病や急性GVHDに対する新たな細胞治療法の開発が進められており、これまでの研究により羊膜MSCが急性GVHDやクローン病の動物モデルにおいて治療効果を発揮することが証明されています。
国立循環器病研究センター:羊膜由来間葉系幹細胞の細胞製剤化に関する研究情報
兵庫医科大学:世界初の治験に関する詳細情報