肺静脈は心臓に向かう血管であるため「静脈」と呼ばれていますが、実際には酸素を豊富に含んだ動脈血を運んでいます。この一見矛盾した命名は、血管の分類が心臓を基準として定義されているためです。動脈は心臓から出る血管、静脈は心臓へ戻る血管と定義されており、流れる血液の酸素含有量とは直接関係がありません。
参考)肺動脈と肺静脈に流れる血液の特徴【動物の生活と種類】
肺循環においては、右心室から肺動脈を通じて肺に送られた静脈血(二酸化炭素が多く酸素が少ない血液)が、肺胞でのガス交換を経て動脈血化されます。この動脈血化された血液は肺静脈を通って左心房に戻り、最終的に全身循環へと送り出されます。
参考)【高校生物基礎】「血液の循環」 
医療現場では、この肺静脈と肺動脈における血液性状の逆転関係を正確に理解することが、循環器疾患の診断や治療において極めて重要です。
参考)循環器の検査 (看護学雑誌 25巻7号) 
肺胞と肺毛細血管の間では、ガス分圧の差によって酸素と二酸化炭素の交換が行われます。肺胞内の酸素分圧は約100mmHgであるのに対し、肺動脈から流入する静脈血の酸素分圧は約40mmHgです。この60mmHgの圧力差により、酸素は肺胞から毛細血管へと急速に拡散します。
参考)ガス交換のしくみ 
一方、二酸化炭素は静脈血中で約46mmHg、肺胞内で約40mmHgの分圧を示し、この6mmHgの圧力差によって血液から肺胞へと移動します。空気-血液障壁は平均して約1マイクロメートル(1センチメートルの1/10,000)という極めて薄い構造であり、これが効率的なガス交換を可能にしています。
参考)肺の構造とガス交換|呼吸する(3) 
肺胞でのガス交換により酸素化された血液は、肺静脈を通じて左心房へと還流します。この過程で血液の酸素飽和度は通常96%以上に達し、全身組織への十分な酸素供給が確保されます。
参考)肺循環—解剖,生理,病態のまとめ (medicina 19巻…
肺静脈を流れる動脈血の酸素飽和度(SaO2)は、健康な成人で通常96~99%の範囲にあります。この値は、ヘモグロビンの何パーセントが酸素と結合しているかを示す重要な指標です。酸素飽和度が90%を下回ると、酸素吸入などの介入が必要となる可能性が高まります。
参考)酸素飽和度って? 【臨床工学科】 
臨床現場では、パルスオキシメータを用いた非侵襲的な酸素飽和度測定(SpO2)が広く行われています。この測定器は、指先などにセンサーを取り付けることで、リアルタイムに酸素飽和度を評価できます。より正確な評価が必要な場合には、動脈血液ガス分析(ABG)によって動脈血を直接採取し、酸素分圧(PaO2)や二酸化炭素分圧(PaCO2)とともに測定します。
参考)酸素飽和度検査・動脈血ガス分析│西新潟中央病院
肺高血圧症などの肺循環障害では、肺動脈の血流が悪化し、肺静脈を通じて左心房に還流する動脈血の酸素含有量が低下します。このような病態では、少しの運動でも息切れや呼吸困難といった症状が出現し、早期診断と適切な治療介入が求められます。
参考)肺高血圧症|病気について|循環器病について知る|患者の皆様へ…
体循環と肺循環では、動脈血と静脈血の定義が逆転する点に注意が必要です。体循環では、大動脈を通じて全身に送られる血液が動脈血(酸素豊富)であり、大静脈から心臓に戻る血液が静脈血(二酸化炭素豊富)です。しかし肺循環では、肺動脈を流れる血液は静脈血であり、肺静脈を流れる血液は動脈血です。
参考)看護師国試対策|心臓から出る血管、心臓に入る血管、動脈と静脈…
この違いは、血管の名称が心臓を中心として付けられている一方、血液の名称は肺を中心として付けられているために生じます。医療従事者は、この命名規則の違いを正確に理解し、患者の病態評価や治療計画の立案に活用する必要があります。
肺静脈は左右それぞれ2本ずつ、計4本が左心房に開口しています。右肺は左肺よりも大きいため、右肺動脈は左肺動脈よりも太く長い構造を持っていますが、肺静脈の構造は比較的対称的です。これらの解剖学的特徴は、心臓カテーテル検査や肺静脈隔離術などの侵襲的治療を行う際に重要な情報となります。
参考)呼吸器の解剖 
肺静脈を通じて左心房に還流した動脈血は、左心室から大動脈を経て全身へと送り出されます。全身組織では、動脈血から酸素が細胞へと供給され、代謝産物である二酸化炭素が血液中に取り込まれます。この過程を内呼吸と呼び、肺胞でのガス交換(外呼吸)と対になる重要な生理機能です。
参考)酸素と二酸化炭素の交換 - 07. 肺と気道の病気 - MS…
全身の組織で酸素を供給した後の血液は、上大静脈と下大静脈を通じて右心房に戻り、右心室から再び肺動脈へと送り出されます。この循環サイクルにおいて、肺静脈は酸素化された動脈血を左心系に供給する唯一の経路であり、全身の酸素需給バランスを維持する上で不可欠な役割を果たしています。
参考)https://hachioji.tokyo-med.ac.jp/assets/department/images/230322cvs_newsletter.pdf
心拍出量、ヘモグロビン値、動脈血酸素飽和度、全身酸素消費量の4つの因子は、混合静脈血酸素飽和度(SvO2)を決定する主要なパラメータです。これらの因子のバランスが崩れると、組織への酸素供給が不十分となり、臓器機能障害のリスクが高まります。
参考)https://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/30-1/30-1-06.pdf