医療現場で使用されるドレーンは、その目的と用途に応じて多様な種類が存在し、適切な選択が治療成功の鍵となります 。ドレーンの分類方法には、目的別、排液方法別、原理別、形状別などの観点があり、それぞれが異なる特徴と適応症を持っています 。
参考)ドレーンとは
ドレーンの基本的な役割は、体内に貯留した血液、リンパ液、消化液、膿汁、滲出液などを体外に誘導・排除することです 。19世紀後半にSimsらが婦人科手術でドレーンを用いて以来、ドレナージは個々の疾患に対する成否を含め、周術期管理の重要な役割を果たしています 。
参考)ドレーンチューブ(ドレーン)
目的による分類では、予防的ドレナージ、治療的ドレナージ、情報的ドレナージの3種類に大別されます 。
参考)ドレーンとは
予防的ドレナージは、感染の危険性が予想される場合に行われ、縫合不全が高確率で起こるような手術の術後や体内の浸出液の貯留が予想される際に使用されます 。術後に起こり得る感染症や腫瘍形成の予防を目的として、排液が溜まりやすい位置にドレーンを留置する方法です 。
治療的ドレナージは、浸出液や膿などの貯留によって発熱や臓器不全を引き起こしている場合に行われます 。膿汁や血液などの貯留で感染や炎症を起こしている部位に対し、排液除去や洗浄による治療を目的として実施されます 。
情報的ドレナージは、術後の出血量の確認や、縫合不全、消化液の漏れの早期発見を目的として行われます 。外からの観察では分からない術後の出血や縫合不全などを確認するために、ドレーンを留置する方法です 。
排液方法による分類では、閉鎖式ドレナージ、開放式ドレナージ、半閉鎖式ドレナージに分けられます 。
閉鎖式ドレナージは、チューブに排液バッグを接続してあり外界との交通がなく、閉鎖空間となっています 。逆行性感染のリスクが少なく、排液量の測定が正確にできるメリットがある一方、排液バッグが身体に繋がっているため管理に注意が必要です 。陰圧機能のある能動的ドレナージと、陰圧のない受動的ドレナージに細分化されます 。
開放式ドレナージは、腹圧や毛細管現象を利用した排液法で、ドレーンが体表から3~4cm出た状態で外界に開放されています 。閉鎖式とは違い、動きは制限されませんが逆行性感染のリスクがあります 。また、硬い素材のものが多く、挿入部に組織障害を起こす可能性があります 。
半閉鎖式ドレナージは、開放式ドレナージにオープントップ型パウチを貼り、外界と遮断させた状態です 。開放式と閉鎖式の中間的な特徴を持ち、感染リスクを低減しながら管理の容易さを両立させています 。
形状による分類では、フィルム型、チューブ型、サンプ型、**ブレイク型(マルチスリット型)**の4種類が主要な分類となります 。
フィルム型には多穴型・ペンローズ型があり、ペンローズ型がよく使用されます 。毛細管現象を利用するため、ドレーンの壁に多数の孔または溝を持ちます 。開放式ドレナージに使用され、素材が柔らかく挿入による違和感や苦痛は少ないですが、内腔が閉塞しやすいというデメリットがあります 。
チューブ型にはデュープル型・プリーツ型・単孔型・平型などがあり、そのうちデュープル型とプリーツ型は毛細管現象を利用して排出を行います 。管状のドレーンで、内腔に小孔をもうけることで排液が良好になるよう工夫されています 。閉鎖式ドレナージで使用され、フィルム型よりも内腔が閉塞しにくくなっています 。
サンプ型は内腔が2腔型・3腔型などの多重構造になっているため、吸引圧をかけてもドレーンの先端が周辺組織を吸着することがありません 。サンプ効果があり、空気が逆流することで逆行性感染のリスクがありますが、大量の消化管液を身体の深部から吸引して排出することができます 。
現代のドレーンの素材は、従来の天然ゴムや塩化ビニルから、シリコーン製に大きく変化しました 。硬くて太い(10mm前後)塩化ビニル製のドレーンから柔軟で細い(6mm前後)シリコーン製ドレーンに変わったことは、留置される患者にとって圧倒的な疼痛軽減などQOLの向上をもたらしました 。
参考)ドレーンに多用される機能性素材「シリコーン」の特性 - ME…
シリコーンは柔軟性、弾性に富み耐熱性や耐寒性、絶縁性、低毒性、非粘着性に優れています 。特に-100℃から300℃という幅広い範囲の熱安定性を持ち、高温にも低温にも強い点が他のプラスチック素材にはない特性です 。シリコーンの分子構造がケイ素と酸素が交互に螺旋上に連結(シロキサン結合)していて、その原子と原子の距離が長いために原子同士がくっつきにくく低温下でも固まらないためです 。
毛細管現象は、液体が細い管の中や隙間を上昇(または下降)する現象で、フィルム型ドレーンの主要な排液原理として活用されています 。ペンローズドレーンなどのフィルム型ドレーンは、毛細管現象を利用して不要な浸出液などを体外に排泄させる仕組みを採用しています 。この原理により、重力や陰圧に依存せず、繊維と繊維のすき間を重力や方向関係なく液体が浸透する現象を利用できます 。
参考)ペンローズ・ドレーン
医療用ドレーンは、安全性と品質を確保するためJIS(日本産業規格)T 3215「体内留置排液用チューブ及びカテーテル」に準拠して製造されています 。この規格は、外科的又は経皮的に体腔内、又は創傷部位に留置し、貯留する液体又は気体を体外に排出するために使用するドレナージカテーテル及びその附属品について規定しています 。
参考)https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000257450
JIS T 3215は、重力又は陰圧によって液体又は気体を体外へ排出するために設計された、体内留置排液用チューブ及びカテーテルについて規定しています 。この規格により、ドレーンの材質、構造、性能、安全性について統一された基準が設けられ、医療現場での安全性が担保されています 。
参考)JIST3215:2011 体内留置排液用チューブ及びカテー…
ドレーンの材質としては、「組織反応が少ない」「柔軟性・耐久性にすぐれている」「抗血栓性で、管腔内が凝血塊などで閉鎖しにくい」ものが要求されます 。現在では、組織適合性が高く炎症が起こりにくいこと、抗血栓性の高さからドレーン詰まりなどのドレーン不良リスクも低減されるシリコーン素材が主流となっています 。
医療機器として薬事法に基づく承認を受けた製品では、体内への液の注入又は排液に使用する2腔管(又は多腔管)の柔軟性のあるチューブについて、単回使用での使用が規定されています 。医薬品投与、中心循環系及び中枢神経系用を除く体内留置排液用チューブとして、厳格な品質管理のもとで製造・供給されています 。
参考)https://www.std.pmda.go.jp/scripts/stdDB/kijyun/stdDB_kijyun_resr.cgi?Sig=1amp;kjn_betsunum=3%3Bkjn_no_parm%3D91%3Bkjn%3Dninsyouamp;ID=1300091