ドチヌラド(商品名:ユリス錠)は、2020年に日本で承認された新規の選択的尿酸再吸収阻害薬(SURI:Selective Urate Reabsorption Inhibitor)です 。本薬は腎臓の近位尿細管に発現するURAT1(SLC22A12)を選択的に阻害し、尿酸の再吸収を抑制することで血清尿酸値を低下させます 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/155/6/155_20047/_pdf
ドチヌラドの最大の特徴は、その高いURAT1選択性にあります 。従来の尿酸排泄促進薬であるベンズブロマロンやプロベネシドと異なり、ドチヌラドはURAT1のみを阻害し、尿酸分泌トランスポーターであるABCG2、OAT1、OAT3に対する阻害作用は弱いことが確認されています 。
参考)https://www.fujiyakuhin.co.jp/medicine/m-fujiyakuhin/medical/pdf/urece/7_urece_summary.pdf
この選択性により、尿酸の分泌経路に影響を与えることなく、再吸収経路のみを効率的に阻害することが可能となります 。既存薬が抱える肝障害リスクや薬物相互作用の問題を回避するコンセプトで創製された薬剤です 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%81%E3%83%8C%E3%83%A9%E3%83%89
臨床試験において、ドチヌラドは顕著な尿酸降下効果を示しています 。後期第Ⅱ相試験および長期投与試験では、維持用量(2または4mg)を投与したほとんどの患者で治療目標である血清尿酸値6mg/dL以下を達成しました 。
2024年に中国で実施された第Ⅲ相試験では、451名の痛風患者を対象とした比較試験が行われました 。主要評価項目である24週時点での血清尿酸値6.0mg/dL以下達成率は、ドチヌラド群で73.6%、対照薬のフェブキソスタット群で38.1%となり、統計学的優越性が確認されました 。
参考)https://www.eisai.co.jp/news/2024/news202492.html
特筆すべきは、ドチヌラドの低用量での効果発現です 。通常、成人には0.5mgより開始し、段階的に増量することで、効率的に血清尿酸値の低下が期待できます 。
参考)https://passmed.co.jp/di/archives/698
ドチヌラドの安全性において最も注目すべき点は、肝障害リスクの低さです 。臨床試験では、肝関連を含めて安全性上の特段懸念される副作用は認められませんでした 。
主な副作用として、痛風関節炎(5%以上)、関節炎(1〜5%未満)、四肢不快感(1〜5%未満)が報告されています 。痛風関節炎については、尿酸値の急激な変動に伴う一時的な現象として理解されています 。
参考)https://med.mochida.co.jp/medicaldomain/circulatory/urece/pick/gout01.html
その他の副作用として以下が報告されています:
重篤な副作用として劇症肝炎などの重篤な肝障害の報告はなく、従来薬と比較して安全性プロファイルが向上しています 。
参考)https://www.mdpi.com/2227-9059/11/2/567
医療従事者がドチヌラドの服薬指導を行う際の重要なポイントとして、まず尿路結石の予防対策が挙げられます 。尿酸排泄促進により尿中尿酸濃度が上昇するため、十分な水分摂取(1日2L以上)と尿のアルカリ化が必要です 。
参考)https://www.38-8931.com/pharma-labo/okusuri-qa/skillup/di_skill116.php
用法・用量に関しては、通常成人には1日1回0.5mgより開始し、投与2週間以降で1mg、6週間以降には維持量の2mgに増量する段階的投与が基本となります 。最大投与量は1日1回4mgです 。
痛風発作時の対応について、ドチヌラドは痛風関節炎発現時に症状を増悪させる恐れがあるため、症状が治まるまで投与を控える必要があります 。
禁忌患者として、ドチヌラドの成分に対し過敏症の既往歴がある患者は絶対的禁忌です 。慎重投与対象には以下が含まれます:
近年の研究により、ドチヌラドはメタボリックシンドロームに対する新たな治療選択肢としての可能性が示唆されています 。メタボリックシンドロームや肥満患者では、インスリン抵抗性による高インスリン血症がURAT1の活性化を招き、尿酸の再吸収が亢進することが知られています 。
参考)https://www.mdpi.com/2073-4409/13/5/450/pdf?version=1709535937
インスリンは近位尿細管でのURAT1発現を誘導し、活性化する作用を有する一方、尿酸分泌を担うABCG2の発現を抑制します 。この機序により高尿酸血症が引き起こされるため、URAT1を選択的に阻害するドチヌラドは理論的にメタボリックシンドロームにおける高尿酸血症治療に適しています 。
また、URAT1は心筋細胞にも発現しており、ドチヌラドが食事誘発性代謝性心疾患の発症を抑制することが動物実験で示されています 。これらの知見から、ドチヌラドは単なる尿酸降下薬としてだけでなく、慢性腎疾患や心血管疾患に対する治療薬としての応用が期待されています 。
参考)https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S2589004223018072
84名を対象とした後ろ向き縦断研究では、ドチヌラド投与により約74%の患者で改善効果が認められ、代謝パラメーターの改善も確認されています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9953369/