デオキシリボースとリボースの違い

デオキシリボースとリボースは核酸を構成する五炭糖ですが、その化学構造や機能にはどのような違いがあるのでしょうか?

デオキシリボースとリボースの違い

この記事のポイント
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化学構造の違い

デオキシリボースは2位の炭素にヒドロキシ基がなく、リボースより酸素原子が1つ少ない構造です

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分子式の差異

リボースはC₅H₁₀O₅、デオキシリボースはC₅H₁₀O₄という分子式を持ちます

生理的役割の違い

デオキシリボースはDNAの構成成分として遺伝情報の長期保存を担い、リボースはRNAやATPの構成要素としてエネルギー代謝に関与します

デオキシリボースの化学構造と分子式

 

デオキシリボースは、炭素原子5つから構成される五炭糖(ペントース)の一種で、分子式はC₅H₁₀O₄です。この糖は五角形の環状構造(五員環構造)を形成しており、各炭素原子には1'から5'までの番号が割り当てられています。
参考)DNAの基本構造 〜ヌクレオチド〜

デオキシリボースという名称は、「デオキシ(deoxy)」が「酸素を除去した」という意味を持つことに由来します。具体的には、リボースの2'位の炭素に結合していたヒドロキシ基(-OH)が水素原子(-H)に置き換わった構造をしています。この2'位のヒドロキシ基の欠如により、リボースと比較して酸素原子が1つ少ない構造となっています。
参考)デオキシリボース - Wikipedia

デオキシリボースは1929年にフィーバス・レヴィーンによって発見され、デオキシリボ核酸(DNA)の構成成分として重要な役割を果たしています。この糖は、リボヌクレオチド還元酵素と呼ばれる酵素によって、リボース糖から変換されて生成されます。
参考)デオキシリボース

リボースの構造と生理的機能

リボースは、デオキシリボースと同様に炭素原子5つからなる五炭糖で、分子式はC₅H₁₀O₅です。リボースはアルドースアルデヒド基を持つ糖)に分類され、生体内では五員環構造(フラノース型)として主に存在します。
参考)リボース - yakugaku lab

リボースは多くのヒドロキシ基(-OH)を有しているため、水に溶けやすい親水性の性質を持っています。この構造的特徴により、リボースはRNA(リボ核酸)を構成する主要な糖として機能します。リン酸とリボースと塩基が結合することで、RNAを構成するヌクレオチドが形成されます。
参考)リボース

さらにリボースは、エネルギー代謝において極めて重要な役割を果たしています。高エネルギー化合物であるATP(アデノシン三リン酸)や、呼吸や光合成に重要な働きを持つNADやNADPなどの補酵素にも含まれています。ペントースリン酸経路において生成されるリボースは、核酸合成や還元型補酵素(NADPH)の供給に関与しています。
参考)https://square.umin.ac.jp/transfusion-kuh/related/Pentose/index.html

デオキシリボースとリボースの2位炭素の構造差

デオキシリボースとリボースの最も重要な化学的差異は、2'位の炭素原子に結合している官能基の違いです。リボースの2'位の炭素にはヒドロキシ基(-OH)が結合していますが、デオキシリボースでは同じ位置に水素原子(-H)のみが結合しています。
参考)デオキシリボース

この2'位のヒドロキシ基の有無は、核酸の安定性に大きな影響を及ぼします。RNAに使用されるリボースは2'位にヒドロキシ基を持つため、この基が反応性を高め、RNAは化学的に不安定な分子となります。一方、DNAに使用されるデオキシリボースは2'位にヒドロキシ基を持たないため、DNAはRNAと比較して構造的および化学的に安定性がはるかに高くなります。
参考)遺伝子実験|【ライフサイエンス】|試薬-富士フイルム和光純薬

この構造の違いは、「デオキシ」という接頭辞によって表現されており、「酸素がとれた」というイメージを持つことで理解しやすくなります。デオキシリボースは、リボースから酸素原子が1つ外れた構造であり、この単純な変化がDNAとRNAという異なる機能を進化させる基盤となりました。
参考)【高校化学】「DNA」

DNAとRNAにおける機能的意義の違い

デオキシリボースとリボースは、それぞれDNAとRNAの構成成分として異なる生物学的役割を担っています。DNAとRNAの役割は以下のように大きく異なります。
参考)DNAとRNAを構成する糖や塩基が違うのはなぜですか?|理科…

DNAの役割:
DNAは遺伝情報を長期間保存するために使われます。デオキシリボースを含むDNAは、二重らせん構造をとりやすくなり、安定した構造を形成することができます。この安定性は、大きなゲノムを持つ生物にとって特に重要で、加水分解による分解に対する抵抗性が高いため、遺伝情報の長期保存が可能となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3763483/

核酸 構成糖 主な機能 化学的性質
DNA デオキシリボース 遺伝情報の長期保存 安定的
RNA リボース 遺伝情報の一時的利用 反応性に富む

RNAの役割:
RNAは遺伝情報を一時的に利用するために使われます。リボースを含むRNAは、必要なときにすばやく合成することができ、不要になったらただちに分解できるような反応性に富んだ性質を持っています。この性質により、RNAは転写や翻訳といった動的な生命現象において重要な役割を果たすことができます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/66/2/66_84/_pdf

したがって、デオキシリボースとリボースはそれぞれの核酸の役割に適するように、化学的な構造が異なっているのです。この違いは、生命の進化において重要な適応であり、安定した遺伝情報の保存と柔軟な遺伝情報の利用という2つの異なる要求を同時に満たすことを可能にしています。​

デオキシリボースの臨床的・代謝的意義

デオキシリボースは、細胞の複製において重要な骨格をなす五炭糖として、臨床的にも重要な意義を持っています。DNAの合成にはデオキシリボースが必要不可欠であり、細胞分裂や組織修復などの過程で重要な役割を果たします。​
デオキシリボースは、ペントースリン酸経路を経由して生成されます。この代謝経路では、グルコース-6-リン酸から出発し、脱炭酸反応により五炭糖が生成されます。酸化的過程で生成されるリブロース5-リン酸を基点として、リボース5-リン酸が生成され、さらにリボヌクレオチド還元酵素の作用により、デオキシリボースへと変換されます。​
💊 臨床応用の観点:
デオキシリボース類縁体であるデオキシヌクレオシド類似体は、抗がん剤、抗ウイルス薬、抗菌薬として成功裏に使用されています。これらの化合物は、天然のDNA複製や修復を妨害することができるため、がん細胞やウイルス感染細胞の増殖を抑制する効果があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10913048/

また、一方でD-リボースは糖代謝障害や糖尿病との関連も研究されており、過剰なD-リボースはミトコンドリア機能障害を引き起こし、アルツハイマー病の病態に関与する可能性も示唆されています。このように、リボースとデオキシリボースの代謝バランスは、健康維持において重要な意味を持っています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10822815/

細胞内のエネルギー収支とATP代謝の詳細
ATP合成とエネルギー代謝における核酸の重要性について解説されています。

 

 


デオDR(医薬部外品)