デオキシリボ核酸(DNA)は、生物の遺伝情報を保存・伝達する重要な生体分子です 。DNAは塩基、五炭糖(デオキシリボース)、リン酸の3つの成分から構成されるヌクレオチドが基本単位となり、このヌクレオチドが多数連結したポリヌクレオチド構造を形成しています 。
参考)https://www.yamasa-biochem.com/about/nucleic.html
DNA分子は二重らせん構造を取り、2本の鎖状分子がらせん状に組み合わさった形態を維持しています 。この構造により、遺伝情報を長期間安定して保存することが可能になっています 。DNAの塩基配列によってタンパク質のアミノ酸配列情報や遺伝子発現の制御情報が決定されます 。
参考)https://kou.benesse.co.jp/nigate/science/a13r04bb02.html
デオキシリボースは正式名称を2-デオキシ-D-リボースといい、アルドース、ペントース、デオキシ糖の分類に属する単糖です 。化学式はC₅H₁₀O₄で、炭素原子5個、水素原子10個、酸素原子4個から構成されています 。
参考)https://minerva-clinic.or.jp/academic/terminololgyofmedicalgenetics/tagyou/deoxylibose/
この糖の最も重要な特徴は、リボースの2位のヒドロキシル基(-OH)が水素原子(-H)に置換されている点です 。「デオキシ」という名前は、「de-」(除去)と「oxy-」(酸素)を組み合わせた語で、文字通り「酸素が取り除かれた」状態を表しています 。
参考)https://heart-one.net/approach/rna/
デオキシリボースは弱い甘味を持つ白色の結晶で、水やエタノールによく溶解しますが、プロピルアルコールには難溶性を示します 。また、リボースと比較してより不安定で、酸と加熱するとレブリン酸に分解する特性があります 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%AA%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%B9
DNAを構成するヌクレオチドは、ホスホジエステル結合(リン酸ジエステル結合)によって連結されています 。この結合は、一つのヌクレオチドのデオキシリボースの5'位炭素に結合したリン酸基と、隣接するヌクレオチドのデオキシリボースの3'位炭素に結合した水酸基の間で形成されます 。
参考)http://nsgene-lab.jp/dna_structure/basic_structure/
この結合様式により、DNA鎖には明確な方向性が生まれます 。リン酸基が結合した5'位炭素側を5'末端、水酸基が残る3'位炭素側を3'末端と呼び、DNAの複製や転写は常に5'から3'方向に進行します。ホスホジエステル結合は非常に強固で、100度近い高温でも切断されないため、DNA分子に高い安定性を与えています 。
参考)https://www.try-it.jp/chapters-15090/sections-15091/lessons-15092/practice-3/
デオキシリボースとリボースの違いは、糖部2位の水酸基の有無という1点に集約されます 。リボースは2位炭素に水酸基(-OH)を持つのに対し、デオキシリボースでは同位置に水素原子(-H)のみが結合しています 。
参考)https://www.syero-chem.com/entry/2019/06/13/DNA%E3%83%BB%E3%81%AE%E7%B3%96%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%83%B3%E9%85%B8%E3%83%BB%E5%A1%A9%E5%9F%BA%E3%81%AE%E6%A7%8B%E6%88%90%E3%81%A8%E6%A7%8B%E9%80%A0
この構造的差異は、それぞれの糖を含む核酸の性質に大きな影響を与えています 。デオキシリボースを含むDNAは二重らせん構造を取りやすく、安定した構造を維持できるため、遺伝情報の長期保存に適しています。一方、リボースを含むRNAは、2位の水酸基により反応性に富み、必要に応じて素早く合成・分解される性質を持ち、遺伝情報の一時的利用に適した構造となっています 。
水溶液中では、両糖ともフラノース形とピラノース形の平衡混合物として存在しますが、核酸中ではβ-フラノース形を取ります 。また、デオキシリボースはリボースよりもグリコシド結合を形成しやすい特性を示します 。
デオキシリボースの特殊な構造は、現代医療におけるDNA技術の基盤となっています。デオキシリボースの2位に水酸基が存在しないことで、DNA分子はRNA分子よりも化学的に安定であり、長期間の遺伝情報保存が可能になっています 。
この安定性は、PCR法による遺伝子増幅やDNAシーケンシング技術の発展を支えています。医療分野では、がん遺伝子の解析、遺伝的疾患の診断、薬剤感受性遺伝子の同定など、様々な臨床応用が実現されています。
さらに、デオキシリボースの構造的特性を理解することは、核酸医薬品の開発にも重要です 。ホスホロアミダイト法による人工DNA合成では、デオキシリボースの3'位と5'位の反応性を利用して、特定の塩基配列を持つオリゴヌクレオチドが合成されています。
参考)https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/siyaku-blog/011021.html
また、DNAの二重らせん構造における塩基対形成(アデニンとチミン、グアニンとシトシン)は、デオキシリボースの空間的配置により最適化されており、この相補性を利用したハイブリダイゼーション技術は、遺伝子診断や治療標的の同定に広く応用されています 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/01-%E7%9F%A5%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%8A%E3%81%8D%E3%81%9F%E3%81%84%E5%9F%BA%E7%A4%8E%E7%9F%A5%E8%AD%98/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%A6/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E3%81%A8%E6%9F%93%E8%89%B2%E4%BD%93
近年注目されているエピジェネティクス研究においても、デオキシリボースの化学修飾やメチル化パターンの解析が重要な役割を果たしており、疾患発症機序の解明や新たな治療法開発につながっています。
核酸の構造と機能に関する詳細な解説(ヤマサ醤油医薬・化成品事業部)
デオキシリボ核酸の薬学的定義と特性(日本薬学会)