「副作用が少ない咳止め薬を飲んでいるから、他の薬と一緒に飲んでも大丈夫」と思っていると、命に関わる状態を引き起こすことがあります。
デキストロメトルファン臭化水素酸塩(以下DXM)は、メジコンをはじめとする咳止め薬の有効成分として広く使われている非麻薬性中枢性鎮咳薬です。延髄の咳中枢に直接作用して咳反射を抑える薬で、「副作用が少なく安全」というイメージが強いのが現状です。
しかし、副作用が「ゼロ」というわけではありません。2703例を対象とした調査では、77例(約2.85%)で副作用の発現が確認されています。パーセンテージだけ見ると「低い」と感じるかもしれませんが、100人中3人程度は何らかの不快症状を経験するということです。
頻度別に副作用をまとめると、以下のようになります。
| 頻度 | 症状の種類 |
|---|---|
| 0.1〜5%未満 | 眠気、頭痛、めまい、悪心・嘔吐、便秘 |
| 0.1%未満 | 不眠、食欲不振、口渇、おくび |
| 頻度不明 | 発疹(過敏症)、不快感 |
| 重大副作用(まれ) | 呼吸抑制(0.1%未満)、ショック・アナフィラキシー |
眠気・悪心・めまいの3つが主要な副作用です。これらは軽症と思われがちですが、実際の生活への影響は無視できません。
特に注意が必要なのは「眠気」です。添付文書には「眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること」と明記されています。風邪の咳を止めるために服用した薬で、車の運転中に事故を起こすリスクが生じることは、多くの人が意識していない落とし穴です。
悪心(吐き気の前段階の不快感)についても同様で、みぞおちから喉にかけて「吐きそう」という不快感が強まり、実際の嘔吐に発展することがあります。服用後に気分が悪くなった場合は、すぐに服用を中止して医師・薬剤師に相談するのが基本です。
重大副作用の「呼吸抑制」は頻度こそ低いものの、起きた場合は命に関わります。呼吸が浅くなる・息苦しいと感じるなど、通常と異なる呼吸状態になった場合は直ちに医療機関を受診してください。
参考:デキストロメトルファン臭化水素酸塩の副作用情報(くすりのしおり)
https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=38577
DXMの副作用の中で、最も重大な健康リスクをもたらすのが「飲み合わせ」による相互作用です。特に見落とされやすいのが、MAO阻害薬(モノアミン酸化酵素阻害薬)との組み合わせです。
MAO阻害薬には、パーキンソン病治療薬の「セレギリン(商品名:エフピー)」「ラサギリン(商品名:アジレクト)」「サフィナミド(商品名:エクフィナ)」などが含まれます。一見すると「咳止め薬」と「パーキンソン病の薬」はまったく関係がないように思えます。これが盲点です。
DXMは脳内のセロトニン濃度を上昇させる働きを持っています。一方、MAO阻害薬はセロトニンを分解する酵素(MAO)を阻害するため、セロトニン濃度がさらに高まります。この2つの薬を同時に使うと、脳内のセロトニンが過剰に蓄積した状態「セロトニン症候群」が引き起こされる危険があります。
セロトニン症候群の主な症状は以下の通りです。
これらは「風邪薬を飲んだだけ」では普通起きないような症状です。意外ですね。DXMとMAO阻害薬の添付文書では「並行投与は禁忌」と記載されており、投与中は少なくとも14日間の間隔を空けることが必要とされています。
さらに見落としやすいのが、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)など抗うつ薬との組み合わせです。うつ病の治療でパロキセチン(パキシル)やフルボキサミン(ルボックス)などを服用中の場合も、DXMとの併用でセロトニン症候群のリスクが高まることが報告されています。
つまり「咳止め薬だから市販薬と組み合わせても平気」という発想は危険です。飲んでいる薬が複数ある場合は、必ず薬剤師か医師にDXMとの飲み合わせを確認することが条件です。
参考:セロトニン症候群 重篤副作用疾患別対応マニュアル(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1j15.pdf
DXMは「依存性のない安全な咳止め薬」として認識されている方も多いでしょう。ところが、通常用量を大幅に超えて服用した場合、まったく別の危険な顔を持つ薬に変わります。これが知られていないデメリットです。
DXMは通常用量(1回15〜30mg)では中枢の咳中枢に穏やかに作用する薬です。しかし高用量では、NMDA受容体(興奮性神経伝達に関わる受容体)を阻害する働きが強くなります。この仕組みはケタミン(麻酔薬・解離性幻覚剤として知られる)とほぼ同じです。
過量投与時の具体的な症状には以下のものが含まれます。
厚生労働省の研究によると、35.6〜61.1 mg/kgの投与では眼球振盪・失神が起き、さらに高用量では呼吸抑制・昏睡に至るとされています。体重60kgの成人であれば、2,136mg以上(錠剤15mgで換算すると約142錠以上)で重篤なリスクが生じる計算になります。
問題なのは、DXMを含む市販薬が薬局やドラッグストアで比較的容易に入手できる点です。若者を中心とした「市販薬オーバードーズ(OD)」問題の中で、DXMは近年乱用が急増した成分の一つとして報告されています。連用により薬物依存が生じる可能性も指摘されており、「依存性がない」という認識は正確ではなくなっています。
もし家族や知人がDXMを含む薬を大量に服用したと思われる場合は、本人の意識状態・呼吸状態を確認しながら、ためらわずに救急(119番)または中毒110番(公益財団法人日本中毒情報センター:0990-950-2499)に相談してください。早期対応が重要です。
参考:わが国における市販薬乱用の実態と課題(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001062521.pdf
DXMに関して、あまり知られていない重要な事実があります。それは「同じ量を飲んでも、人によって薬の作用が大きく違う」という点です。
DXMは主に肝臓の代謝酵素「CYP2D6」によって分解されます。このCYP2D6の活性には個人差が非常に大きく、大きく分けると「代謝が速い人(Extensive Metabolizer)」と「代謝が遅い人(Poor Metabolizer)」に分類されます。
日本人の場合、約1〜5%前後がCYP2D6の活性が低い「Poor Metabolizer(低代謝者)」に該当するとされています。低代謝者では、DXMが体内でなかなか分解されないため、血中に長時間・高濃度で残留します。その結果、通常の用量でも副作用が強く出やすくなります。
具体的には、同じ15mg錠を1錠飲んだとしても、低代謝者では眠気やめまいが強く現れ、場合によっては精神神経系への影響がより顕著になる可能性があります。鎮咳効果は10〜45mgで奏効し個人差があると研究データでも示されており、「正しい用量なのに副作用が強い」と感じた場合は、この代謝の個人差が関係しているかもしれません。
さらに、抗精神病薬のハロペリドールや抗不整脈薬のキニジンなどはCYP2D6を強力に阻害します。これらを服用中にDXMを飲むと、DXMの代謝が遅くなって血中濃度が上昇し、副作用が出やすくなります。つまり「薬の飲み合わせ」によって代謝が変わり、思わぬ副作用が起きることがある、ということですね。
副作用が気になる場合や、複数の薬を服用している場合は、薬剤師への相談が必須です。お薬手帳を持ち歩き、処方された薬と市販薬の両方を記録しておくと、相互作用のチェックがスムーズに行えます。
参考:デキストロメトルファン臭化水素酸塩錠のCYP2D6代謝に関する添付文書(ニプロ)
https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=01510000001QB74AAG
DXMの副作用は、すべての人に均等にリスクがあるわけではありません。特定の状態・背景を持つ人は、より慎重に使う必要があります。ここでは「副作用のリスクが高い人の条件」を整理します。
まず「高齢者」は特別な注意が必要です。加齢に伴って肝臓・腎臓の機能が低下すると、薬が体内で分解・排泄されるスピードが落ちます。その結果、薬が体に長時間とどまりやすくなり、通常量でも副作用が強く出る可能性があります。添付文書にも「高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意」と記載されています。高齢者に処方する際は、状態に合わせて減量を検討するのが原則です。
次に「妊婦・授乳中の女性」です。DXMが胎盤を通じて胎児に影響する可能性を完全には否定できないため、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用する」という条件付きの扱いになっています。妊娠中・授乳中に咳が続く場合は、自己判断で市販の咳止めを服用せず、産婦人科や内科に相談するのがベストです。
「小児(特に2歳未満)」にも使用上の制限があります。幼児では体内の薬の代謝能力が未発達なため、過量になりやすいリスクがあります。使用量は年齢と体重に応じて厳格に設定されており、自己判断での増量は副作用リスクを跳ね上げます。これは大きなデメリットにつながるポイントです。
また、「気管支喘息の患者」にDXMを使う場合は注意が必要です。DXMは咳反射を抑える薬ですが、喘息の咳は気道の炎症・狭窄が根本原因であり、咳を抑えるだけでは根本治療になりません。むしろ咳が抑制されることで喘息の悪化を見落とすリスクがある点に注意が必要です。喘息に伴う咳には、吸入ステロイドや気管支拡張薬など喘息治療薬の使用が基本です。
| 注意が必要な対象 | 主なリスク・対応 |
|---|---|
| 高齢者 | 肝・腎機能低下による薬の蓄積→減量を検討 |
| 妊婦・授乳中の女性 | 胎児・乳児への影響→医師の判断のもとで使用 |
| 小児(特に2歳未満) | 代謝能力未発達→年齢・体重に応じた厳格な用量管理 |
| 気管支喘息の患者 | 咳の根本原因に対処できず悪化を見逃すリスク |
| 複数薬服用者 | 飲み合わせによるセロトニン症候群・CYP2D6阻害リスク |
「副作用が少ない薬」であることは確かですが、副作用が「ない」わけではありません。特にリスクの高い条件に当てはまる場合は、薬局で市販品を購入する前に薬剤師に相談することを強くおすすめします。お薬手帳を活用して服用歴を管理しておくと、医師・薬剤師が飲み合わせをチェックしやすくなり、リスクの早期発見につながります。
参考:メジコンの副作用と使用上の注意(東京御嶽山呼吸器内科・内科クリニック)
https://kokyukinaika-tokyo.jp/1967
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