デキストロメトルファンは非麻薬性の鎮咳去痰薬として広く使用されており、主な効果は延髄にある咳中枢への直接的な抑制作用にあります 。この薬剤は商品名メジコンとして知られ、1969年より日本で使用されている信頼性の高い鎮咳薬です 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00052400.pdf
作用機序は単一ではなく、非選択的セロトニン再取り込み阻害薬かつσ₁受容体作働薬として機能します 。延髄の咳中枢に直接作用することで咳反射を抑制し、気道内に侵入した細菌やウイルス、異物による刺激反応を効果的に制御します 。
参考)https://www.taisho-kenko.com/ingredient/7/
デキストロメトルファンの効果は比較的穏やかで、便秘や依存性などの副作用が少ないという特徴があります 。麻薬性鎮咳薬と比較して鎮咳効果は劣るものの、耐性や依存性がないという大きな利点を持っています 。
参考)https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=01510000001QB74AAG
デキストロメトルファンは肝臓で大部分が代謝され、主にO-脱メチル体(デキストルファン)、N-脱メチル体およびN,O-脱メチル体に変換されます 。肝代謝における主要な酵素系として、O-脱メチル化にはCYP2D6、N-脱メチル化にはCYP3Aが関与しています 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00057119.pdf
投与後24時間以内の排泄パターンでは、尿中回収率が総投与放射活性の42.71%、糞中回収率が0.12%と報告されており、主に腎排泄によって体外に排出されます 。この薬物動態プロファイルは、デキストロメトルファンの効果持続時間や投与間隔の設定に重要な情報を提供しています。
参考)https://med.towayakuhin.co.jp/medical/product/fileloader.php?id=63579amp;t=0
代謝産物であるデキストルファン(DXO)の更なる代謝産物である3-メトキシモルヒナンは、ラットにおいてDXO以上DXM以下の局所麻酔作用を示すことが確認されており、デキストロメトルファンの効果の多様性を示しています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%A1%E3%83%88%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3
日本の医療用医薬品として承認されているデキストロメトルファンの効能・効果は、感冒、急性気管支炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺炎、肺結核、上気道炎、気管支造影術、気管支鏡検査に伴う咳嗽と幅広い範囲をカバーしています 。
臨床データによると、総症例1289例中1048例で効果が確認され、全体の有効率は81.3%と高い治療成績を示しています 。特に急性上気道炎では97.3%、肺炎では81.0%の有効率を記録しており、様々な呼吸器疾患における咳嗽症状の改善に優れた効果を発揮します 。
クレゾールスルホン酸カリウムとの配合剤では、肺結核や百日咳の咳嗽および喀痰喀出困難にも適応が拡大されており、より重篤な呼吸器疾患への治療選択肢としても活用されています 。
デキストロメトルファンの主な副作用として、眠気(0.1~5%)、めまい、吐き気が報告されており、服用後は自動車の運転や危険を伴う機械操作を避ける必要があります 。臨床調査では2703例中77例(2.85%)で副作用が確認されており、比較的安全性の高い薬剤です 。
参考)https://kokyukinaika-tokyo.jp/1967
重大な副作用として稀にショック、アナフィラキシー、呼吸抑制が発現する可能性があります 。アナフィラキシーは薬剤投与後数時間以内に多く見られ、息苦しさ、蕁麻疹、眼や口唇周囲の腫れなどの症状が現れます 。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/symptom/trrf_tzhhvs8
呼吸抑制はモルヒネ製剤でみられる副作用と類似しており、呼吸が浅くなったり回数が減少したりする症状として現れます 。これらの副作用が疑われる場合は、直ちに投与を中止し適切な医療処置を実施することが重要です 。
2015年の研究では、デキストロメトルファンが膵臓β細胞のN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDA受容体)を阻害し、インスリン分泌を増加させることが明らかになりました 。この発見により、糖尿病患者における食後血糖値の低下効果が確認され、鎮咳薬としての枠を超えた新たな治療可能性が示唆されています。
2010年には米国FDAがデキストロメトルファン・キニジンの配合剤を情動調節障害(PBA)の治療に承認しており、神経精神科領域での応用も進んでいます 。これらの研究は、デキストロメトルファンの効果が単純な咳中枢抑制を超えた多面的な薬理作用を持つことを示しています。
現在も継続的な研究により、デキストロメトルファンの新たな効果メカニズムや臨床応用の可能性が探索されており、将来的には呼吸器疾患以外の治療領域での活用も期待されています 。医療従事者として、これらの最新知見を踏まえた包括的な薬物治療の提供が求められています。