ベクルリー(レムデシビル)は、COVID-19治療薬として広く使用されていますが、その副作用プロファイルについて医療従事者は詳細に把握しておく必要があります。
重大な副作用の発現状況
臨床試験における副作用発現率は、5日間投与群で19%(36/191例)、10日間投与群で13%(25/193例)でした。本剤投与群では8%(41/532例)の患者に副作用が認められており、主な副作用としてプロトロンビン時間延長が2%(9/532例)で最も頻度が高く報告されています。
頻度別副作用一覧
特に注目すべきは、肝機能検査値の異常が高頻度で発現することです。実際の医療現場では、全日本民医連に報告されたレムデシビルの副作用11例のうち、9例が肝機能障害であったとの報告もあります。
添付文書に記載されている重大な副作用は、医療従事者が最も注意深く監視すべき項目です。
肝機能障害
ALT上昇に加えて、肝機能障害の徴候または検査値異常(抱合型ビリルビン、ALP、INRの異常)が認められた場合には、直ちに投与を中止する必要があります。投与前および投与開始後は定期的な肝機能検査の実施が必須とされています。
実際の症例では、投与開始2日後にAST270、ALT310まで上昇し、レムデシビル投与による肝障害を疑い投与中止となったケースも報告されています。投与中止5日後にはAST61、ALT197まで改善しており、薬剤による肝障害であることが強く示唆されました。
過敏症(インフュージョンリアクション、アナフィラキシーを含む)
低血圧、血圧上昇、頻脈、徐脈、低酸素症、発熱、呼吸困難、喘鳴、血管性浮腫、発疹、悪心、嘔吐、発汗、悪寒等が現れることがあります。これらの症状は投与開始から1時間以内に発現することが多く、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には直ちに投与を中止し適切な処置を行う必要があります。
添付文書において、ベクルリーの投与が禁忌とされる患者および重要な注意事項が明記されています。
禁忌事項
本剤の成分に対し過敏症の既往歴がある患者には投与禁忌です。特に、ベクルリー製剤またはそのいずれかの成分に対して臨床上問題となる過敏症の既往歴のある患者では、重篤なアナフィラキシー反応のリスクが高まるため、絶対的な禁忌となります。
重要な基本的注意
投与前および投与開始後の定期的な検査項目として、以下が推奨されています:
腎機能障害や肝機能障害の出現に備え、医師が必要と判断した場合には腎機能検査や肝機能検査を実施します。また、過敏症の発現を監視するため、患者の状態を十分に観察し、適切な処置を行えるよう準備しておくことが重要です。
ベクルリーと他の薬剤との相互作用は、副作用のリスクを高める可能性があります。
OATP1B1/3阻害薬との相互作用
シクロスポリンなどの強力なOATP1B1/3阻害作用を持つ薬剤と併用すると、レムデシビル及び中間代謝物(GS-704277)の血漿中濃度が上昇するおそれがあります。これにより、肝機能障害などの副作用リスクが増大する可能性があります。
抗ウイルス活性への影響
クロロキン・ヒドロキシクロロキンとの併用については、細胞培養で拮抗作用が認められ、ベクルリーの抗ウイルス活性が低下する可能性があることから、併用は推奨されません。これは治療効果の減弱につながる重要な相互作用です。
実臨床での注意点
ワーファリンとの併用時には、INR値の上昇が報告されており、凝固系検査値の慎重な監視が必要です。実際の症例では、ベクルリー投与中止後にINRが高値となったため、ワーファリンを一時中止しビタミンK製剤を使用した事例もあります。
医療現場において、ベクルリーの副作用を適切に管理するためには、体系的なアプローチが必要です。
投与前評価の重要性
投与前の肝機能検査値の評価が極めて重要です。ある症例では、投与1日前のAST57、ALT28という軽度高値の状態から、投与開始2日後にはAST270、ALT310まで急激に上昇しました。これは、基礎値が軽度異常であっても、重篤な肝機能障害に進展する可能性を示しています。
モニタリング間隔の設定
投与速度の調整
過敏症反応を予防するため、点滴速度を下げることが推奨されています(点滴時間は最長で120分)。特に初回投与時や過敏症のリスクが高い患者では、緩徐な投与を積極的に考慮すべきです。
副作用発現時の対応プロトコル
肝機能障害では、ALTが施設基準値上限(ULN)の10倍を超える場合にはベクルリーの投与中止を検討し、ALT上昇に伴い肝臓の炎症を示す症状・徴候が認められた場合は直ちに投与を中止します。過敏症反応では、投与に伴う重度の過敏症が発現した場合、直ちにベクルリーの投与を中止し、適切な治療を開始することが生命予後の改善につながります。
ベクルリーは有効なCOVID-19治療薬である一方、重篤な副作用のリスクを伴います。医療従事者は添付文書の内容を十分に理解し、適切な患者選択、投与前評価、継続的なモニタリング、副作用発現時の迅速な対応を心がけることで、患者の安全を確保しながら治療効果を最大化できるでしょう。