バンコマイシンが効かなくても、実はリネゾリドを使えば9割以上の症例で治療成功率が確保されています。
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE:Vancomycin-Resistant Enterococci)は、グラム陽性球菌である腸球菌がバンコマイシンへの耐性を獲得した菌です。腸球菌はもともと人の腸管内に常在する菌であり、健康な状態では無害ですが、免疫力が低下した患者や手術後の患者では重篤な感染症を引き起こします。
VREの中でも臨床的に問題となるのは主に Enterococcus faecium(エンテロコッカス・フェシウム) と Enterococcus faecalis(エンテロコッカス・フェカリス) の2種類です。つまり菌種の違いが治療薬選択を直接左右します。
日本では1996年に初めてVREの院内アウトブレイクが報告されました。現在もVREは「感染症法」に基づく5類感染症(全数把握疾患)に指定されており、診断した医師は7日以内に届け出る法的義務があります。これは知らないと法的リスクにつながる情報です。
耐性の仕組みとしては、vanA遺伝子型(バンコマイシン・テイコプラニン双方に高度耐性)とvanB遺伝子型(バンコマイシンのみ高度耐性、テイコプラニン感性を保つ場合がある)が代表的です。感染経路は主に接触感染であり、医療従事者の手指や汚染された医療器具を介して伝播します。
感染リスクが特に高い患者層は以下のとおりです。
感染リスクの高い患者を担当する場面では、まずスクリーニング培養(直腸スワブ等)によるVRE保菌の有無確認が推奨されます。保菌と感染症は別概念であり、この区別が治療方針に直結します。
VREに対する主要な治療薬の第一選択はリネゾリド(商品名:ザイボックス)とダプトマイシン(商品名:キュビシン)です。この2剤が治療の中心です。
リネゾリドはオキサゾリジノン系抗菌薬であり、細菌のリボソーム50Sサブユニットに結合してタンパク質合成を阻害します。VRE感染症(菌血症・心内膜炎・尿路感染症・皮膚軟部組織感染症)において有効性が確立されており、FDAがVRE感染症への適応を承認した最初の薬剤です。経口投与でもほぼ100%のバイオアベイラビリティを持つため、外来での継続治療が可能な点は大きなメリットです。
ただし注意点があります。リネゾリドは通常14日以上の長期投与で骨髄抑制(血小板減少・貧血)を生じるリスクがあり、週1回以上の血液検査による監視が必須です。また、セロトニン症候群を引き起こす薬剤(SSRI・MAO阻害薬など)との併用は禁忌に相当する高リスクであるため、併用薬の確認は必須です。
ダプトマイシンは環状リポペプチド系抗菌薬であり、細菌の細胞膜に直接結合して膜電位を崩壊させ、殺菌的に作用します。リネゾリドが静菌的であるのに対し、ダプトマイシンは殺菌的という点が大きな違いです。特に菌血症や心内膜炎などの血流感染・重症感染において、殺菌力の高さが治療上有利に働く場面があります。
ただし、ダプトマイシンは肺の界面活性剤(サーファクタント)によって不活化されるため、肺炎への使用は禁忌です。肺炎にはリネゾリドを選ぶのが原則です。また、ダプトマイシン使用中は筋障害(CPK上昇・横紋筋融解症)のリスクがあり、週1回以上のCPK測定が推奨されます。
以下に2剤の主な比較をまとめます。
| 項目 | リネゾリド | ダプトマイシン |
|---|---|---|
| 作用機序 | タンパク質合成阻害(静菌的) | 細胞膜破壊(殺菌的) |
| 肺炎への使用 | ✅ 可 | ❌ 禁忌 |
| 経口投与 | ✅ 可(BA≒100%) | ❌ 注射のみ |
| 主な副作用 | 骨髄抑制・セロトニン症候群 | CPK上昇・横紋筋融解症 |
| 心内膜炎への有効性 | △(静菌的で限界あり) | ◎(殺菌的で推奨される) |
どちらを選ぶかは感染部位と患者背景次第です。
参考:日本感染症学会・日本化学療法学会による抗菌薬使用ガイドライン(JAID/JSC感染症治療ガイド)では、VREに対する第一選択薬の詳細な推奨が記載されています。
JAID/JSC感染症治療ガイド2019 – 日本化学療法学会(リネゾリドやダプトマイシンのVREへの推奨内容が確認できます)
リネゾリドとダプトマイシン以外にも、VRE治療に関連する薬剤は複数存在します。それぞれの位置づけを正確に理解しておくことが重要です。
キヌプリスチン/ダルホプリスチン(商品名:Synercid、日本未承認)はストレプトグラミン系抗菌薬の合剤です。E. faeciumには有効ですが、E. faecalisには本質的に無効という重要なç‰