初期段階のアルコール性肝炎では、37.2~37.5度程度の微熱が特徴的に観察されます。この段階における体温変化は、起床時に通常よりも0.3~0.5度ほど高くなる傾向があります。血液検査では、AST(GOT)が正常値(10~40 U/L)の2倍程度まで上昇し、γ-GTPも150 U/L前後まで上昇することが確認されます。
参考)https://maruoka.or.jp/gastroenterology/gastroenterology-disease/alcoholic-hepatitis/
この初期の微熱は、肝細胞の軽度な炎症反応によって生じるサイトカインの放出に起因します。炎症性メディエーターが視床下部の体温調節中枢に作用することで、設定体温が上昇し、微熱として現れます。
初期症状の特徴的な数値データは以下の通りです。
項目 | 数値範囲 | 臨床的意義 |
---|---|---|
体温 | 37.2~37.5度 | 微熱の持続 |
AST(GOT) | 80~100 U/L | 軽度の肝細胞障害 |
体重変化 | -2~3kg/週 | 食欲不振による緩やかな減少 |
朝方の違和感や全身倦怠感は特に顕著で、多くの患者が風邪の初期症状と勘違いしやすい特徴があります。
中期症状では、体温が37.5~38.0度まで上昇し、AST(GOT)は正常値の3~4倍(120~160 U/L)に達します。この段階での発熱は、より明確な肝細胞障害の進行を示す重要な指標となります。
右上腹部の張りや痛みが出現し、腹囲が通常より3~5cm増加します。黄疸の指標となる総ビリルビン値は2.0~3.0 mg/dLまで上昇し、目の白い部分や皮膚に黄染が現れるようになります。
中期段階の特徴的な変化。
血清アルブミン値は2.5~3.0 g/dLまで低下し、肝臓のタンパク合成能の低下が明確となります。プロトロンビン時間も40~60%まで低下し、凝固機能の障害が顕在化してきます。
この段階では、肝細胞の変性や壊死が広範囲に観察され、組織学的変化も明確となります。体温の持続的上昇は、炎症の拡大と免疫反応の活性化を反映しています。
進行期になると、38度以上の発熱が持続し、AST(GOT)は200 U/L以上に上昇します。この段階では、感染合併例において体温が38.4±0.9度まで上昇することが研究で明らかになっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3298076/
腹水貯留により腹囲が通常より10cm以上増加し、体重も1週間で5kg以上増加するケースが多くみられます。血小板数は10万/μL未満まで低下し、出血傾向が顕著となります。
進行期の重要な指標。
項目 | 測定値 | 臨床的意義 |
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体温 | 38度以上 | 持続的発熱 |
腹囲増加 | 10cm以上 | 腹水貯留 |
血小板数 | <10万/μL | 出血傾向 |
重症アルコール性肝炎では、38度台の発熱を伴うことが特徴的であり、救命率が低い重篤な状態となります。多臓器不全の兆候として、意識障害や呼吸困難なども併発する可能性があります。
参考)https://3int.naramed-u.ac.jp/kan_itiran1.html
この段階での発熱は、単純な肝炎による炎症だけでなく、二次的な細菌感染や多臓器機能障害による全身炎症反応症候群(SIRS)の一症状として現れることが多くなります。
アルコール性肝炎患者において細菌感染を合併した場合、体温は平均38.4±0.9度まで上昇することが臨床研究で確認されています。これは感染を合併していない患者の平均体温37.9±0.7度と比較して、統計学的に有意な差があります。
参考)https://downloads.hindawi.com/journals/cjidmm/1992/904256.pdf
感染合併例では、白血球数も16.4±7.9×10⁹/Lと大幅に増加し、非感染例の11.2±6.4×10⁹/Lよりも明らかに高値を示します。興味深いことに、血清ビリルビン値は感染合併例で39±42と、非感染例の115±152よりも低値となる傾向があります。
感染合併時の特徴的な検査所見。
この現象は、感染による急性期反応が肝細胞からのビリルビン産生を一時的に抑制する可能性や、感染による代謝変化が関与していると考えられています。
臨床現場では、アルコール性肝炎患者で38.4度前後の発熱を認めた場合、積極的に感染源の検索を行い、血液培養や画像検査による精査が推奨されます。早期の抗生物質投与が予後改善に繋がる可能性があります。
アルコール性肝炎の発熱パターンは、病態の進行度や予後を予測する重要な臨床指標となります。体温変化を継続的にモニタリングすることで、治療効果の判定や合併症の早期発見が可能となります。
発熱パターンによる予後分類では、持続的な38度以上の高熱は重症アルコール性肝炎を示唆し、死亡率20~50%という高いリスクを伴います。一方、37.5度未満の微熱レベルであれば、適切な治療により改善が期待できます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10442237/
予後予測における体温の臨床的意義。
🔴 高リスク群(38度以上)
🟡 中等度リスク群(37.5-38度)
🟢 低リスク群(37.5度未満)
体温推移と併せて、AST/ALT比、ビリルビン値、プロトロンビン時間などの総合的な評価により、より精密な予後予測が可能となります。特に、発熱が3日以上持続する場合は、重症化の兆候として緊急性の高い対応が求められます。