アデムパス薬価と難病助成制度の正しい知識

アデムパス(リオシグアト)の薬価はなぜ高額なのか、難病助成制度を使うと実際の患者負担はどう変わるのか。医療従事者が押さえるべき薬価算定の仕組みと処方時の注意点を解説します。

アデムパスの薬価と保険・助成制度を正しく理解する

アデムパスを最大用量で処方すると、薬剤費だけで月30万円を超えることがあります。


この記事の3ポイント要約
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アデムパスの薬価は3規格

0.5mg錠685.9円・1.0mg錠1,371.7円・2.5mg錠3,429.3円(先発品のみ・後発品なし)。最大用量2.5mg×1日3回で月額約30.9万円にのぼる高額薬剤です。

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難病助成で患者負担は大きく変わる

CTEPHおよびPAHは指定難病のため、医療費助成制度が適用可能。所得区分によっては月額自己負担が数千円〜数万円程度に軽減されます。

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PDE5阻害薬との併用は絶対禁忌

シルデナフィル(レバチオ)などのPDE5阻害薬は同じ肺高血圧症治療薬でも、アデムパスとの併用は禁忌です。重篤な低血圧を招くリスクがあります。


アデムパスの薬価一覧と月額薬剤費の試算



アデムパス(一般名:リオシグアト)は、バイエル薬品が製造販売する肺高血圧症治療薬で、2014年4月17日に薬価収載されました。現時点で後発品(ジェネリック)は存在せず、すべて先発品のみです。


薬価は規格ごとに以下のとおりです。


| 規格 | 薬価(1錠) |
|------|------------|
| アデムパス錠0.5mg | 685.9円 |
| アデムパス錠1.0mg | 1,371.7円 |
| アデムパス錠2.5mg | 3,429.3円 |


用法・用量は「1回1.0mgから開始し、1日3回経口投与。最高用量は1回2.5mg、1日3回まで」と定められています。最大用量2.5mg錠を1日3回、30日分処方した場合の薬剤費は以下の計算になります。


$$\text{最大用量の月額薬剤費} = 3{,}429.3 \times 3 \times 30 = 308{,}637 \text{ 円}$$


約30.9万円という数字は、実感しにくいかもしれません。東京23区の平均家賃(ワンルーム)とほぼ同額と考えると、その重さが伝わるでしょう。これが毎月かかる薬剤費だという認識を、処方する医師・薬剤師ともに共有しておくことが重要です。


開始用量の1.0mg錠で試算すると、1日3回×30日で約12.3万円。維持期で用量が安定している患者でも、決して安価な薬剤ではありません。


つまり薬価の規格間で患者負担は2〜4倍以上変わります。


参考情報:アデムパスの基本的な薬価・規格情報


医療用医薬品 : アデムパス(KEGG MEDICUS)


アデムパス薬価の算定方式とオーファンドラッグ指定の意味

アデムパスの薬価は、2014年の収載時に類似薬効比較方式(Ⅰ)で算定されました。比較薬として選ばれたのは、同じ肺高血圧症治療薬の「ヴォリブリス錠2.5mg(アンブリセンタン)」です。ヴォリブリスの1日薬価10,100.60円をベースに、リオシグアトの最高用量(2.5mg×1日3回)の1日薬価が同額になるよう算定されました。


$$\text{収載時の算定薬価(2.5mg)} = 3{,}366.9 \text{ 円(1日薬価: }10{,}100.6\text{ 円)}$$


注目すべき点は、収載時の算定に画期性加算・有用性加算・市場性加算などの補正加算が一切適用されなかったことです。アデムパスはCTEPHに対して世界初承認を受けたsGC刺激薬ですが、オーファンドラッグ指定を受けつつも補正加算の対象外とされました。


これは意外な事実ですね。


希少疾病用医薬品に指定されると一般的に市場性加算(Ⅰ)が10〜20%上乗せされますが、アデムパスは当初この恩恵を受けていません。ピーク時の販売金額予測が61.5億円と比較的大きく算定されたことなどが影響したと考えられます。その後の薬価改定で現在の薬価(0.5mg:685.9円、1.0mg:1,371.7円、2.5mg:3,429.3円)は収載時よりもわずかに上昇しています。これは薬価改定による引き下げと外国平均価格調整などが複合的に作用した結果です。


薬価算定の背景を理解することは、患者への説明や費用対効果の評価においても重要な視点になります。


参考情報:アデムパス収載時の薬価算定経緯(厚生労働省資料)


新医薬品一覧表(平成26年4月17日収載予定)- 厚生労働省


難病助成制度でアデムパスの患者負担はどう変わるか

アデムパスが用いられるCTEPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)とPAH(肺動脈性肺高血圧症)は、「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」に基づく指定難病の対象疾患です。これが大前提です。


指定難病の医療費助成を受けると、医療費の自己負担割合が通常の3割から2割に軽減され、さらに所得区分に応じた月額上限が設定されます。たとえば一般所得Ⅱ(市町村民税23.5万円以上)に区分される患者では月額上限が3万円、一般所得Ⅰ(市町村民税7.1万円以上)では月額2万円などが設定されます。


助成を受けるためには、都道府県・指定都市が交付する「医療受給者証」が必要です。患者が確定診断を受けたあと、難病指定医に診断書(臨床調査個人票)を作成してもらい、居住地の保健所等に申請する流れになります。ここで医療従事者側の役割が非常に大きくなります。


診断と同時に助成申請の導線を作ることが原則です。


申請が遅れると、高額な薬剤費の全額または3割を患者が一時的に負担し続けることになります。月30万円の薬剤費の3割は9万円。これが数ヶ月続くと経済的負担は相当なものになります。医療受給者証を取得した後は、都道府県・指定都市が指定する指定医療機関でのみ助成が適用される点にも注意が必要です。


また、「月ごとの医療費総額が5万円を超える月が年間6回以上」という条件を満たす場合には高額かつ長期の特例が適用され、上限額がさらに半分(たとえば2万円→1万円)になるケースもあります。これは使える知識です。


参考情報:アデムパス公式サイトによる医療費助成制度の解説


医療費の助成について - Adempas JP(バイエル薬品)


PDE5阻害薬との併用禁忌:薬価以上に重要な処方時の確認事項

アデムパスを処方する際、薬価や助成制度と並んで絶対に確認しなければならないのが併用禁忌薬の存在です。中でも特に注意が必要なのがPDE5阻害薬(ホスホジエステラーゼ5阻害薬)との組み合わせです。


シルデナフィル(レバチオ、レバチオOD)やタダラフィル(アドシルカ)は、同じ肺高血圧症治療薬として使われていますが、アデムパスとの同時使用は禁忌とされています。


これは重要な点ですね。


理由は作用機序の重複にあります。アデムパスはsGCを刺激してcGMPを増やすことで血管拡張を引き起こします。一方、PDE5阻害薬はcGMPの分解を抑制するためcGMPを増やします。この2経路が同時に働くと、cGMP濃度が過剰に上昇し、重篤な血圧低下(低血圧)を引き起こす危険性があります。


❌ 絶対に避けるべき組み合わせ(代表例)


- シルデナフィル(レバチオ、バイアグラ等)との併用
- タダラフィル(アドシルカ、シアリス等)との併用
- 硝酸薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビド等)との併用
- 一酸化窒素(NO)供与剤との併用


患者がED治療で他院にかかっていたり、心疾患で硝酸薬を服用していたりするケースでは、薬歴の確認が特に重要です。服薬管理ツールや電子カルテのアラート設定を活用し、処方前に必ずチェックする仕組みを設けることを推奨します。


また、妊婦または妊娠している可能性のある女性も禁忌です。妊娠可能年齢の女性患者には、アデムパス投与期間中および投与終了後の適切な期間にわたって確実な避妊を指導することが添付文書でも求められています。


参考情報:アデムパスのRMP(医薬品リスク管理計画書)


アデムパス錠 医薬品リスク管理計画書 - バイエルファーマナビ


アデムパス薬価から考える、医療従事者が患者に伝えるべき経済的サポートの全体像

アデムパスを継続的に使用する患者の経済的負担を軽減するためには、難病助成制度だけでなく、複数の支援制度を組み合わせて活用することが求められます。これは医療従事者が積極的に情報提供すべき領域です。


まず基本となるのが、前述の指定難病の医療費助成制度です。都道府県・指定都市の保健所等が窓口になります。この制度の申請は確定診断後に速やかに行うことが患者の利益に直結します。


次に活用できるのが高額療養費制度との組み合わせです。難病助成と高額療養費は併用可能です。まず健康保険の高額療養費制度が適用され、1ヶ月の医療費の自己負担が所得区分に応じた上限額に抑えられます。そのうえで難病助成が適用される仕組みです。


さらに複数の医療機関や薬局にかかっている場合、同じ月内の費用を合算する「合算制度」も活用できます。CTEPHやPAHの患者は複数の専門科に通院するケースも多く、合算によって高額療養費の上限に早く到達し、実質的な自己負担を抑えられることがあります。これは使えますね。


処方箋を発行する医師、調剤する薬剤師、そして患者をサポートするソーシャルワーカーや看護師が連携し、患者が申請できる制度を漏れなく案内できる体制が理想的です。


アデムパスは月額30万円を超えることもある薬剤ですが、適切な助成制度を利用すれば患者の実質的な月額負担は数千円〜数万円に収まるケースも少なくありません。薬価の高さに着目するだけでなく、「実際にいくら払うことになるか」を患者と一緒に確認する姿勢が、現場での信頼につながります。


参考情報:難病医療費助成と高額療養費制度の関係について


難病の医療費助成は高額療養費と併用できますか? - ユビー






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