IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)の症状と治療法

IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)の主な症状や治療法について最新の医学的知見をまとめました。紫斑、関節痛、腹痛、腎障害の特徴と対応方法を解説しています。あなたの臨床現場でこの知識をどう活かしますか?

IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)症状と治療方法

IgA血管炎の基本情報
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疾患概念

IgAが関与する全身性の小型血管炎で、紫斑・関節炎・腹痛・腎炎を主症状とします

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好発年齢

3〜10歳の小児に多く、成人例は全体の約5%程度です

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予後

多くは4週間程度で症状が軽快し、80〜90%は適切な治療で寛解します

IgA血管炎は、以前はヘノッホ・シェーンライン紫斑病やアレルギー性紫斑病などと呼ばれていましたが、IgA抗体が血管内に沈着することから、現在ではIgA血管炎という名称が国際的に使用されています。この疾患は、毛細血管の壁に炎症が生じることで発症し、特徴的な紫斑や関節痛、腹痛、腎障害などの症状を引き起こします。小児に好発する全身性の血管炎で、小児の血管炎の中では最も頻度が高いものです。

 

IgA血管炎の特徴的な紫斑と診断ポイント

IgA血管炎の最も特徴的な症状は、皮膚に現れる紫斑です。この紫斑は発症率100%と言われており、診断において非常に重要な所見となります。典型的には下肢、特に足関節周囲や臀部に、触れることができる隆起した紫斑(触知可能紫斑)が両側性・対称性に出現します。

 

紫斑の特徴。

  • 初期は麻疹のような小さな発疹として現れる場合がある
  • 次第に紫斑、点状出血斑に変化していく
  • 紫斑以外にも丘疹・膨疹・紅斑・血管性浮腫などが見られることもある
  • 基本的には下肢に集中するが、体幹や上肢、全身に及ぶこともある
  • 成人の場合は壊死性や出血性の紫斑になることが多い

紫斑は通常3〜10日程度続きますが、1年間程度出たり消えたりを繰り返すこともあります。紫斑のみの場合は、日常生活に大きな制限は必要ありませんが、炎症が急性期に強い場合は安静が必要です。

 

診断においては、この特徴的な紫斑の存在に加えて、他の症状(関節炎、腹痛、腎炎)の有無を総合的に評価します。また、血液検査では他の原因による紫斑や血液の悪性腫瘍でないことを確認するために、炎症反応、貧血の有無、白血球の異常、血小板や凝固因子の異常などをチェックします。

 

IgA血管炎における関節痛と腹痛の管理

IgA血管炎では、皮膚症状に次いで関節痛と腹痛が重要な症状として現れます。適切な管理が症状の緩和と合併症予防に不可欠です。

 

関節症状(発症率約80%)

  • 足関節や膝関節など主に下肢の大関節に痛みが生じる
  • 基本的には両側性の疼痛
  • 関節の腫れを伴うこともある
  • 痛みのために歩行困難になることもある
  • 通常、安静にしていれば痛みは軽減する
  • 関節の赤みはあまり見られない特徴がある

関節痛の管理には、非ステロイド性抗炎症薬NSAIDs)が有効です。痛みが強い場合は安静にし、過度な運動は避けるべきです。関節症状は一般的に数週間以内に軽快することが多いです。

 

腹部症状(発症率約60%)

  • 血管炎による消化管壁の出血と浮腫によって腹痛が生じる
  • 筋けいれんを伴う腹痛や腹部圧痛が特徴的
  • 吐き気、嘔吐、血便、下血などを伴うことがある
  • 深刻な場合は食欲低下や脱水状態に至ることも
  • 重篤な合併症として腸重積、腸管穿孔、イレウス、壊死性腸炎などを引き起こすことがある

腹部症状の管理。

  1. 軽度の腹部症状:安静と絶食(水分のみ摂取)で経過観察
  2. 中等度〜重度の腹痛:ステロイド療法(プレドニゾロン 1mg/kg経口または静脈投与)
  3. 腹痛が強い場合:第XIII因子製剤(フィブロガミンP)が有効な場合もある
  4. 腸重積などの合併症を疑う場合:緊急手術が必要になることもある

腹部症状は多くの場合、適切な治療により数週間で改善しますが、時に重篤化することもあるため、強い腹痛や血便がある場合は速やかに医療機関を受診することが重要です。

 

IgA血管炎の腎合併症とその予防対策

IgA血管炎における腎合併症(IgA血管炎性腎炎)は、長期的な予後を左右する重要な問題です。約50%の患者に何らかの腎症状が現れ、特に成人では腎障害のリスクが高いことが知られています。

 

腎合併症の特徴:

  • 血尿や蛋白尿が主な所見
  • 腎炎やネフローゼ症候群に進展することもある
  • 高血圧、浮腫、頭痛などの症状を伴うことがある
  • 成人の糸球体腎炎のうち、IgA血管炎が原因のものは0.6〜2%とされている
  • 小児より成人の方が腎合併症を残すリスクが高い

腎合併症の発症時期と監視期間:
重要なポイントとして、腎症状は紫斑や関節痛、腹痛などの初期症状が治まった後に発症することもあります。そのため、IgA血管炎を発症した患者は、初期症状が軽快した後も最低6ヶ月間は定期的な尿検査によるモニタリングが必要です。

 

腎合併症の予防と管理:

  1. 定期的な尿検査による早期発見
    • 発症から6ヶ月間は定期的な尿検査が推奨される
    • 蛋白尿や血尿の有無、程度をチェック
  2. 早期治療介入
    • 持続性のタンパク尿や高血圧を認める場合は専門医による管理が必要
    • 尿蛋白が多い場合は腎生検を行い、障害の程度を評価することがある
  3. 腎症状に対する治療法
    • 重症度に応じた薬物療法
    • ステロイド療法
    • 免疫抑制薬
    • 抗血小板薬
    • 降圧薬
  4. 長期フォローアップ
    • 腎機能の定期的な評価
    • 血圧管理
    • 蛋白制限食などの食事療法(重症例)

腎合併症は、適切な治療で多くの場合改善しますが、重症例では慢性腎臓病に進展し、最終的に慢性腎不全に至ることもあります。特に成人例では腎予後に注意が必要で、早期発見と適切な治療介入が予後改善の鍵となります。

 

IgA血管炎の治療法選択と安静の重要性

IgA血管炎の治療において、症状の重症度に応じた適切な治療選択と安静の確保が重要です。日本循環器学会の「血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版)」や日本皮膚科学会の「血管炎・血管障害診療ガイドライン 2016年改訂版」に基づいた治療アプローチが推奨されています。

 

安静の重要性:
IgA血管炎の治療において、安静は基本的かつ重要な要素です。特に急性期に活動すると紫斑が悪化することがあるため、症状が強い時期には安静を保つことが推奨されています。紫斑のみの軽症例では厳しい安静は必要ありませんが、関節痛や腹痛がある場合は症状に合わせた安静が必要です。

 

症状別の治療法:

  1. 紫斑に対する治療
    • 軽症例:経過観察
    • 比較的重症の紫斑(血疱/潰瘍を伴う、遷延する、広範囲):DDS(diaminodiphenyl sulfone)やコルヒチンを考慮
    • 重症紫斑:短期間のステロイド投与(PSL 1mg/kg、2週間投与後2週間かけて漸減)
    • 皮膚のかゆみ:抗ヒスタミン薬
  2. 関節痛に対する治療
    • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
    • 安静、患部の挙上
  3. 腹部症状に対する治療
    • 軽度の症状:安静と対症療法、絶食(水分のみ摂取)
    • 強い腹痛や消化管出血:ステロイド経口(1mg/kg)または静脈投与
    • 腸重積などの合併症:必要に応じて手術
  4. 腎症状に対する治療
    • 尿蛋白量や腎機能障害の程度に応じた治療
    • ステロイド療法
    • 免疫抑制薬
    • 抗血小板薬
    • 降圧薬

治療アルゴリズム:
日本皮膚科学会のガイドラインでは、腎症の有無、消化器症状の有無、関節症状の有無によって治療方法が分かれています。基本的には症状に合わせた対症療法が中心であり、食物や薬剤などの原因が明らかな場合はその原因物質を避けるようにします。

 

ステロイド治療のポイント:
中等度から重度の症状(特に腹痛や腎症状)にはステロイド治療が有効です。一般的には初期に多めの投与量から開始し、症状の改善に伴って徐々に減量していきます。IgA血管炎の治療では通常、長期間の大量ステロイド投与は少なく、副作用が出ることは比較的まれですが、高血圧、緑内障、白内障、気分障害などの副作用に注意が必要です。

 

治療に対する反応は個人差がありますが、多くの場合、適切な治療により症状は4週間程度で軽快し、80〜90%は寛解します。ただし、紫斑は1年間程度出たり消えたりを繰り返すことがあり、長期的なフォローアップが必要な場合もあります。

 

IgA血管炎の成人例と小児例の臨床的差異

IgA血管炎は主に小児に好発する疾患ですが、成人例も全体の約5%程度存在します。成人と小児ではその臨床像に重要な差異があり、診断や治療方針に影響を与えます。

 

疫学的差異:

  • 好発年齢:小児は3〜10歳が最も多い
  • 性別:小児では男児にやや多い傾向
  • 発症頻度:成人例は全体の約5%と稀

臨床症状の差異:

  1. 皮膚症状
    • 小児:典型的な触知可能な紫斑が下肢中心に出現
    • 成人:壊死性や出血性の紫斑になることが多く、より重症な皮膚病変を呈することがある
  2. 腹部症状
    • 小児:腹痛は比較的頻度が高く、腸重積のリスクもある
    • 成人:腸重積はまれだが、消化管出血のリスクがある
    • 成人では稀に食道病変を呈することもある(食道びらんなど)
  3. 腎症状
    • 小児:腎障害は一過性で完全回復することが多い
    • 成人:慢性腎臓病への進展リスクが小児より高い
    • 成人では約30〜50%が持続的な腎障害を残すと報告されている
  4. 関節症状
    • 小児:一過性の関節痛が多い
    • 成人:関節炎が遷延することがある

治療反応性の差異:

  • 小児:多くの場合、適切な治療で完全回復
  • 成人:治療反応性が不良で、特に腎症状が遷延・進行するリスクが高い

予後の差異:

  • 小児:予後良好で、多くは自然寛解する
  • 成人:腎予後不良例が多く、約10%が末期腎不全に進行するリスクがある

治療上の留意点:
成人のIgA血管炎では、特に腎症状に注意した治療計画と長期的なフォローアップが必要です。腎機能障害や持続するタンパク尿がある場合は、積極的な免疫抑制療法や腎保護療法を考慮する必要があります。

 

また、成人例では他の全身性血管炎との鑑別も重要です。IgA血管炎と類似した臨床像を示す他の血管炎(ANCA関連血管炎など)との鑑別が必要となることがあり、確定診断のために組織生検が必要となる場合もあります。

 

この成人と小児の臨床的差異を理解することは、適切な診断と治療方針の決定に不可欠であり、特に成人発症例では注意深い経過観察と積極的な治療介入が必要となることがあります。

 

IgA血管炎の再発予防と長期管理のポイント

IgA血管炎は一般的に予後良好な疾患とされていますが、再発を繰り返すケースや長期間にわたって症状が持続するケースもあります。特に紫斑は1年程度出たり消えたりすることがあり、適切な長期管理が重要です。

 

再発率と再発リスク:

  • 小児例では約30%程度に再発がみられる
  • 初回発症時の症状が重い場合、再発リスクが高い傾向がある
  • 腎症状を伴う場合は特に注意深い経過観察が必要
  • 成人例では再発率がやや高く、長期化する傾向

再発予防のための生活指導:

  1. 感染予防
    • IgA血管炎の発症や再発のきっかけとなる感染症(特にA群β溶連菌感染)の予防
    • 手洗い・うがいの励行
    • 感染者との接触を避ける
  2. 食事管理
    • 食物アレルギーがIgA血管炎のトリガーとなる場合は、該当食品を避ける
    • 腎症状がある場合は、必要に応じて塩分制限や蛋白質制限
  3. 薬剤管理
    • 発症や再発のトリガーとなった可能性のある薬剤を避ける
    • 非ステロイド性抗炎症薬の長期使用は腎機能に影響を与える可能性があるため注意
  4. 定期的な健康チェック
    • 尿検査:少なくとも発症後6ヶ月間は定期的な尿検査が推奨される
    • 血圧測定:高血圧は腎障害の悪化因子となるため、定期的な血圧測定
    • 腎機能検査:腎症状がある場合は定期的な腎機能評価

長期管理のポイント:
以下の症状や所見があれば医療機関への早期受診を勧めます。

  • 紫斑の再出現や悪化
  • 関節痛の再発や悪化
  • 腹痛や消化器症状の再発
  • 尿の色や量の変化(暗赤色や減少)
  • むくみの出現
  • 高血圧

専門医による管理が必要なケース:

  • 持続性のタンパク尿や高血圧を認める場合は、小児腎臓専門医による管理が必要
  • 重症の消化器症状が続く場合
  • 頻回に再発を繰り返す場合
  • 腎機能障害が進行する場合

長期管理における課題として、IgA血管炎に特化した予防法は確立されていません。しかし、上記のような生活管理と定期的な健康チェックにより、再発や合併症のリスクを軽減することが可能です。特に腎症状を伴うケースでは、長期的な腎保護療法(ACE阻害薬やARBの使用など)が考慮されることもあります。

 

また、長期的な視点では、小児期に発症したIgA血管炎が成人期の腎機能にどのような影響を与えるかについても注目すべき点であり、小児期発症例でも成人移行期の腎機能評価が重要となることがあります。