IgA血管炎は、以前はヘノッホ・シェーンライン紫斑病やアレルギー性紫斑病などと呼ばれていましたが、IgA抗体が血管内に沈着することから、現在ではIgA血管炎という名称が国際的に使用されています。この疾患は、毛細血管の壁に炎症が生じることで発症し、特徴的な紫斑や関節痛、腹痛、腎障害などの症状を引き起こします。小児に好発する全身性の血管炎で、小児の血管炎の中では最も頻度が高いものです。
IgA血管炎の最も特徴的な症状は、皮膚に現れる紫斑です。この紫斑は発症率100%と言われており、診断において非常に重要な所見となります。典型的には下肢、特に足関節周囲や臀部に、触れることができる隆起した紫斑(触知可能紫斑)が両側性・対称性に出現します。
紫斑の特徴。
紫斑は通常3〜10日程度続きますが、1年間程度出たり消えたりを繰り返すこともあります。紫斑のみの場合は、日常生活に大きな制限は必要ありませんが、炎症が急性期に強い場合は安静が必要です。
診断においては、この特徴的な紫斑の存在に加えて、他の症状(関節炎、腹痛、腎炎)の有無を総合的に評価します。また、血液検査では他の原因による紫斑や血液の悪性腫瘍でないことを確認するために、炎症反応、貧血の有無、白血球の異常、血小板や凝固因子の異常などをチェックします。
IgA血管炎では、皮膚症状に次いで関節痛と腹痛が重要な症状として現れます。適切な管理が症状の緩和と合併症予防に不可欠です。
関節症状(発症率約80%)。
関節痛の管理には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が有効です。痛みが強い場合は安静にし、過度な運動は避けるべきです。関節症状は一般的に数週間以内に軽快することが多いです。
腹部症状(発症率約60%)。
腹部症状の管理。
腹部症状は多くの場合、適切な治療により数週間で改善しますが、時に重篤化することもあるため、強い腹痛や血便がある場合は速やかに医療機関を受診することが重要です。
IgA血管炎における腎合併症(IgA血管炎性腎炎)は、長期的な予後を左右する重要な問題です。約50%の患者に何らかの腎症状が現れ、特に成人では腎障害のリスクが高いことが知られています。
腎合併症の特徴:
腎合併症の発症時期と監視期間:
重要なポイントとして、腎症状は紫斑や関節痛、腹痛などの初期症状が治まった後に発症することもあります。そのため、IgA血管炎を発症した患者は、初期症状が軽快した後も最低6ヶ月間は定期的な尿検査によるモニタリングが必要です。
腎合併症の予防と管理:
腎合併症は、適切な治療で多くの場合改善しますが、重症例では慢性腎臓病に進展し、最終的に慢性腎不全に至ることもあります。特に成人例では腎予後に注意が必要で、早期発見と適切な治療介入が予後改善の鍵となります。
IgA血管炎の治療において、症状の重症度に応じた適切な治療選択と安静の確保が重要です。日本循環器学会の「血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版)」や日本皮膚科学会の「血管炎・血管障害診療ガイドライン 2016年改訂版」に基づいた治療アプローチが推奨されています。
安静の重要性:
IgA血管炎の治療において、安静は基本的かつ重要な要素です。特に急性期に活動すると紫斑が悪化することがあるため、症状が強い時期には安静を保つことが推奨されています。紫斑のみの軽症例では厳しい安静は必要ありませんが、関節痛や腹痛がある場合は症状に合わせた安静が必要です。
症状別の治療法:
治療アルゴリズム:
日本皮膚科学会のガイドラインでは、腎症の有無、消化器症状の有無、関節症状の有無によって治療方法が分かれています。基本的には症状に合わせた対症療法が中心であり、食物や薬剤などの原因が明らかな場合はその原因物質を避けるようにします。
ステロイド治療のポイント:
中等度から重度の症状(特に腹痛や腎症状)にはステロイド治療が有効です。一般的には初期に多めの投与量から開始し、症状の改善に伴って徐々に減量していきます。IgA血管炎の治療では通常、長期間の大量ステロイド投与は少なく、副作用が出ることは比較的まれですが、高血圧、緑内障、白内障、気分障害などの副作用に注意が必要です。
治療に対する反応は個人差がありますが、多くの場合、適切な治療により症状は4週間程度で軽快し、80〜90%は寛解します。ただし、紫斑は1年間程度出たり消えたりを繰り返すことがあり、長期的なフォローアップが必要な場合もあります。
IgA血管炎は主に小児に好発する疾患ですが、成人例も全体の約5%程度存在します。成人と小児ではその臨床像に重要な差異があり、診断や治療方針に影響を与えます。
疫学的差異:
臨床症状の差異:
治療反応性の差異:
予後の差異:
治療上の留意点:
成人のIgA血管炎では、特に腎症状に注意した治療計画と長期的なフォローアップが必要です。腎機能障害や持続するタンパク尿がある場合は、積極的な免疫抑制療法や腎保護療法を考慮する必要があります。
また、成人例では他の全身性血管炎との鑑別も重要です。IgA血管炎と類似した臨床像を示す他の血管炎(ANCA関連血管炎など)との鑑別が必要となることがあり、確定診断のために組織生検が必要となる場合もあります。
この成人と小児の臨床的差異を理解することは、適切な診断と治療方針の決定に不可欠であり、特に成人発症例では注意深い経過観察と積極的な治療介入が必要となることがあります。
IgA血管炎は一般的に予後良好な疾患とされていますが、再発を繰り返すケースや長期間にわたって症状が持続するケースもあります。特に紫斑は1年程度出たり消えたりすることがあり、適切な長期管理が重要です。
再発率と再発リスク:
再発予防のための生活指導:
長期管理のポイント:
以下の症状や所見があれば医療機関への早期受診を勧めます。
専門医による管理が必要なケース:
長期管理における課題として、IgA血管炎に特化した予防法は確立されていません。しかし、上記のような生活管理と定期的な健康チェックにより、再発や合併症のリスクを軽減することが可能です。特に腎症状を伴うケースでは、長期的な腎保護療法(ACE阻害薬やARBの使用など)が考慮されることもあります。
また、長期的な視点では、小児期に発症したIgA血管炎が成人期の腎機能にどのような影響を与えるかについても注目すべき点であり、小児期発症例でも成人移行期の腎機能評価が重要となることがあります。