A型肝炎の症状と治療方法および肝機能への影響と予防

A型肝炎の主要症状、診断方法、最新の治療アプローチと予防法について医療従事者向けに解説します。A型肝炎の症例に遭遇した際、あなたはどのように対応しますか?

A型肝炎の症状と治療方法

A型肝炎の基本情報
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病原体

A型肝炎ウイルス(HAV)による急性感染症で、糞口感染で伝播します

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潜伏期間

2〜6週間(平均28日)で、発症前から糞便中にウイルスが排出されます

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予後

通常1〜2ヶ月で回復し、慢性化せず予後良好。約1%が劇症化の可能性あり

A型肝炎の潜伏期間と初期症状の特徴

A型肝炎は、A型肝炎ウイルス(HAV)による急性感染症であり、糞口経路で感染します。ウイルスに感染した後、症状が現れるまでの潜伏期間は2〜7週間(平均28日)とされています。この期間中、感染者は自覚症状がないにもかかわらず、感染後約2週間から糞便中にウイルスを排出し始め、他者への感染源となる可能性があります。

 

初期症状としては、突然の発熱が見られ、全身倦怠感が強く現れます。多くの患者は「体がだるい」「力が入らない」といった訴えを主症状とします。これに加えて、食欲不振、吐き気、嘔吐などの消化器症状が現れることが特徴的です。この段階では一般的な感冒(風邪)や胃腸炎と区別がつきにくく、診断が遅れることがあります。

 

初期症状の発現頻度は以下のとおりです。

  • 発熱:約80%
  • 全身倦怠感:約90%
  • 食欲不振:約85%
  • 吐き気・嘔吐:約70%
  • 右上腹部痛:約60%
  • 頭痛:約50%
  • 筋肉痛:約40%

初期症状が現れてから数日後(通常3〜5日後)に、特徴的な黄疸症状が出現します。黄疸は皮膚や目の白い部分(強膜)が黄色く変色する症状で、A型肝炎の成人患者の約70%に見られます。黄疸の出現と同時期に、尿の色が濃くなる(濃色尿)、便の色が白っぽくなる(灰白色便)などの症状も現れることが多いです。

 

注目すべき点として、年齢によって症状の出現率や重症度に差があります。6歳未満の小児では約70%が無症状であり、症状があっても軽度で黄疸を呈することは稀です。一方、成人では症状が顕著に現れ、特に高齢者では重症化するリスクが高まります。

 

また、妊婦がA型肝炎に感染した場合、重症化リスクが高まることが報告されており、特に妊娠第3期では注意が必要です。

 

A型肝炎における黄疸と肝機能検査の重要性

A型肝炎の診断において、黄疸の出現と肝機能検査の結果は極めて重要な指標となります。黄疸は、肝臓での胆汁排泄障害によって血中ビリルビン値が上昇した結果として現れる症状です。目視できる黄疸が出現するのは、多くの場合、血清ビリルビン値が2.5mg/dL以上になったときです。

 

A型肝炎における黄疸の特徴として、急激な出現と比較的早期の改善が挙げられます。一般的に黄疸は発症後1〜2週間でピークに達し、その後2〜4週間かけて徐々に改善します。しかし、黄疸の持続期間は患者の年齢や基礎疾患によって異なり、高齢者や既存の肝疾患を持つ患者では長期化する傾向があります。

 

肝機能検査では、以下の項目が重要な診断指標となります。

  1. トランスアミナーゼ(AST/GOT、ALT/GPT)

    A型肝炎では、他の急性肝炎よりも著しく上昇する傾向があります。通常、AST・ALTともに高値を示します。

     

  2. アルカリホスファターゼ(ALP)とLDH

    これらの酵素も上昇しますが、トランスアミナーゼほど顕著ではありません。

     

  3. γ-GTP(ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ)

    胆道系の障害を示す指標として上昇します。

     

  4. 血清ビリルビン値

    直接ビリルビン(抱合型)が主に上昇し、総ビリルビン値は通常変動します。

     

  5. プロトロンビン時間(PT)

    肝予備能を反映する指標として重要で、延長がある場合は重症化の可能性を示唆します。

     

A型肝炎の特徴的な検査結果として、他の急性ウイルス性肝炎と比較して、肝機能障害の程度は強いものの、回復が早い点が挙げられます。検査値の正常化までの期間は他の肝炎ウイルス(B型、C型など)よりも短期間です。

 

さらに、血清学的検査では免疫グロブリンM(IgM)の増加が特徴的で、特にHAV特異的IgM抗体の検出はA型肝炎の確定診断において最も信頼性の高い方法です。発症後早期に陽性となり、その後数ヶ月間持続します。

 

チモール混濁反応(TTT値)の上昇も特徴的な所見で、これは膠質反応と呼ばれるものの一つです。TTT値の上昇はA型肝炎で特に顕著であることが知られています。

 

医療従事者として留意すべき点は、A型肝炎の診断においては、臨床症状と肝機能検査の結果だけでなく、疫学的情報(海外渡航歴、食事歴、周囲の感染状況など)も重要な判断材料となることです。また、同様の症状を呈する他の肝疾患(薬剤性肝障害、アルコール性肝炎など)との鑑別も必要です。

 

A型肝炎の治療アプローチと患者ケア

A型肝炎に対する特異的な治療法は現在のところ確立されておらず、基本的には対症療法と適切な患者ケアが治療の中心となります。A型肝炎は自然経過で完治する疾患であるため、治療の主眼は合併症の予防と症状の軽減に置かれます。

 

治療の基本方針としては、以下のポイントが重要です。

  1. 安静と適切な栄養管理

    急性期(特にトランスアミナーゼが高値を示す期間)は身体的安静を保ち、肝臓への負担を軽減することが推奨されます。完全な臥床は必要ありませんが、過度の運動は避けるべきです。栄養面では、消化吸収の良い食事が基本となります。

     

  2. 禁酒

    A型肝炎患者は、肝機能が正常化するまでの期間は完全な禁酒が必須です。アルコールは肝細胞障害をさらに悪化させるリスクがあります。

     

  3. 薬物療法
    • 制吐剤:悪心・嘔吐が強い場合に使用
    • かゆみが生じた場合の対症療法
    • 補液:脱水予防と栄養補給のために必要に応じて実施

重症例における追加治療。

  • プロトロンビン時間の延長を認める場合の対応
  • 劇症化傾向がある場合は、より集中的な治療の検討
  • 急性腎不全を合併した場合の対応

入院管理の基準としては、以下のケースが挙げられます。

  • 高齢者
  • 基礎疾患(特に慢性肝疾患)を有する患者
  • 黄疸が強く、肝機能検査値の著しい上昇を認める患者
  • 脱水や全身状態不良の患者
  • 妊婦

患者ケアにおける重要なポイントとして、感染拡大防止のための衛生管理があります。A型肝炎ウイルスは糞口感染するため、患者の排泄物の取り扱いには十分な注意が必要です。医療従事者は標準予防策を徹底し、患者には手洗いの重要性を指導します。

 

また、回復期においても定期的な肝機能検査によるフォローアップが必要です。通常、発症後数カ月間のフォローが推奨されます。肝機能が正常化した後も、一部の患者で再び肝機能検査値が上昇することがあるため、症状が再燃した場合は再評価が必要です。

 

A型肝炎は通常1〜2カ月で回復しますが、症状が最長6カ月にわたって持続したり再発したりすることがあります。ただし、A型肝炎では肝臓の重度の瘢痕化(肝硬変)は生じず、B型肝炎よりも劇症化することは稀です。

 

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