タゼメトスタット類上皮肉腫治療への分子標的阻害薬

タゼメトスタットは類上皮肉腫治療において期待される分子標的薬です。EZH2阻害により細胞増殖を抑制する新しい治療法の可能性とは?

タゼメトスタット類上皮肉腫治療

タゼメトスタットによる類上皮肉腫治療の現状
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EZH2阻害メカニズム

分子標的薬として類上皮肉腫の細胞増殖を抑制

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臨床試験結果

客観的奏効率15%、全生存期間19.0ヶ月を達成

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日本国内での展開

全国4施設でのTAZETTA試験が進行中

タゼメトスタット類上皮肉腫における分子標的機序

タゼメトスタットは、エピジェネティック関連酵素EZH2(enhancer of zeste homolog 2)を標的とする選択的阻害薬として、類上皮肉腫の治療に革新的なアプローチを提供します。
参考)https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2023/0622/index.html

 

🔬 分子レベルでの作用機序

  • SMARCB1遺伝子欠失により生じるINI1蛋白の機能不全を標的
  • EZH2の異常活性化を抑制することで細胞増殖を制御
  • S-アデノシルメチオニン(SAM)との競合によりメチル化を阻害

    参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11559081/

     

類上皮肉腫患者の90%以上でSMARCB1遺伝子が不活化されており、これがINI1蛋白の欠損を引き起こします。INI1蛋白の欠損により、通常は抑制されているEZH2が過剰に活性化され、異常な細胞増殖と腫瘍形成を促進することが判明しています。
参考)https://cancer.qlife.jp/news/article20818.html

 

タゼメトスタットは、このEZH2の活性を選択的に阻害することで、類上皮肉腫の進行を抑制する新しい治療戦略を提供します。特に、トリメチル化ヒストンH3K27の生成を阻害し、がん遺伝子の発現調節を正常化させる効果が期待されています。

 

タゼメトスタット類上皮肉腫臨床試験での治療効果

海外で実施された国際多施設共同第2相試験では、SMARCB1/INI1遺伝子欠失を有する進行性類上皮肉腫患者62名を対象にタゼメトスタットの有効性が検証されました。
参考)https://oncolo.jp/news/201019y01

 

📈 臨床試験成績の詳細

  • 客観的奏効率(ORR):15%(95%信頼区間:7-26%)
  • 治療開始32週時点の病勢コントロール率:26%
  • 全生存期間中央値:19.0ヶ月
  • 奏効持続期間中央値:未到達

試験では1日2回、800mgのタゼメトスタットを28日サイクルで投与し、病勢進行または忍容できない毒性が認められるまで継続されました。主要評価項目である客観的奏効率は15%を達成し、従来の治療選択肢が限られていた類上皮肉腫において、新たな治療の可能性を示しました。
特筆すべきは、奏効を示した患者では持続的な効果が認められており、一部の患者では2年以上にわたって病勢コントロールが維持されています。これは、類上皮肉腫の治療において画期的な進歩を意味します。

 

タゼメトスタット類上皮肉腫副作用と安全性プロファイル

タゼメトスタット投与時に観察される副作用は、多くが軽度から中等度であり、適切な管理により治療継続が可能です。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20210708001/170033000_30300AMX00278_B100_1.pdf

 

⚠️ 主要な副作用(発現率20%以上)

  • 疼痛(痛み)
  • 疲労・倦怠感
  • 悪心(吐き気)
  • 食欲減退
  • 嘔吐
  • 便秘

安全性評価では、重篤な副作用の発現頻度は比較的低く、多くの患者で治療継続が可能でした。しかし、定期的な血液検査による肝機能や腎機能のモニタリングが重要とされています。

 

また、タゼメトスタットは経口薬であることから、入院を必要とせず外来治療が可能である点も、患者のQOL向上に寄与しています。副作用の多くは対症療法により管理可能であり、重篤な副作用による治療中止例は限定的でした。

 

医療従事者は、患者の状態を継続的にモニタリングし、副作用の早期発見と適切な対応を行うことで、安全にタゼメトスタット治療を実施することができます。

 

タゼメトスタット類上皮肉腫日本国内での治験展開

日本では2023年より、国立がん研究センター中央病院を中心とした全国4施設において、日本人患者を対象としたタゼメトスタットの第2相医師主導治験(TAZETTA試験)が開始されています。
参考)https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2031220523

 

🏥 TAZETTA試験の概要

  • 対象:16歳以上の切除不能類上皮肉腫患者
  • 条件:ドキソルビシンを含む化学療法後増悪例
  • 主要評価項目:無増悪生存割合(中央判定)
  • 登録期間:2022年10月~2024年9月

この試験は、希少がんの研究開発・ゲノム医療を産学共同で推進する「MASTER KEYプロジェクト」の枠組みで実施されており、超希少がんでの治療開発モデル構築を目指しています。
参考)https://oncolo.jp/news/230622ra

 

従来の治験では対象年齢を18歳または20歳以上とすることが多いですが、類上皮肉腫の特性を考慮し、16歳以上を対象とした点が特徴的です。これにより、若年患者への治療機会拡大が期待されています。

 

エーザイ株式会社は2024年12月にタゼメトスタットについて、INI1陰性の切除不能な類上皮肉腫を対象として厚生労働省より希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)の指定を受けており、将来的な保険適用への道筋が整備されつつあります。
参考)https://www.eisai.co.jp/news/2025/news202558.html

 

タゼメトスタット類上皮肉腫治療における個別化医療の展望

タゼメトスタットによる類上皮肉腫治療は、個別化医療の新たなパラダイムを示しています。特に、バイオマーカーに基づく治療選択の重要性が注目されています。

 

🧬 個別化治療のアプローチ

  • INI1発現状態による患者選別
  • SMARCB1遺伝子変異解析の標準化
  • 治療効果予測因子の同定
  • 耐性機序の解明と対応策

現在の研究では、INI1免疫組織化学染色による発現評価が治療選択の重要な指標となっています。INI1陰性を示す患者において、タゼメトスタットの治療効果がより期待できることが示されており、今後は更なる精密化が求められます。

 

また、治療効果をモニタリングするための画像診断技術の進歩により、早期の治療効果判定が可能となっています。RECISTクライテリアに加え、免疫関連効果判定基準(iRECIST)の適用も検討されており、より正確な治療効果評価が期待されています。

 

さらに、液体生検(リキッドバイオプシー)技術の発展により、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)の解析による治療効果モニタリングや耐性機序の早期発見が可能になることが期待されています。これらの技術進歩により、タゼメトスタット治療の最適化がさらに進むと予想されます。

 

将来的には、他の分子標的薬との併用療法や、免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせ治療の開発も進められており、類上皮肉腫患者の治療選択肢のさらなる拡大が期待されています。