胎盤絨毛分解物注射液(商品名:メルスモン)は、ヒト胎盤由来成分を有効成分とする特定生物由来製品です。1アンプル(2mL)中に胎盤絨毛分解物の水溶性物質100mgを含有し、添加剤としてベンジルアルコール0.03mLが配合されています。
本剤の効能・効果は更年期障害と乳汁分泌不全に限定されており、通常1日1回2mLを毎日または隔日に皮下注射する用法・用量が定められています。薬価は200.00円(2mL1管)となっており、保険適用の対象となる疾患では3割負担で治療を受けることができます。
製剤の性状は微黄色澄明の水溶性注射液で、pH6.8~7.0、浸透圧比0.9~1.3(生理食塩液に対する比)という特徴を持ちます。室温保存で有効期間は3年間と設定されています。
胎盤絨毛分解物の薬理作用は多岐にわたり、自律神経調整作用、免疫賦活作用、抗アレルギー作用、基礎代謝向上作用、抗疲労作用、血行促進作用などが確認されています。これらの作用により、更年期障害に伴う様々な症状の改善が期待されます。
更年期障害に対する効果として、ほてり、発汗、頭痛、めまい、吐き気、食欲不振、疲労感などの不定愁訴の改善が報告されています。特に注目すべきは、エストロゲンと同様の効果を示しながら、乳腺や子宮を刺激するといったエストロゲンの副作用がないことです。
このため、ホルモン補充療法(HRT)が適用できない乳がん術後の患者においても、安全に投与できる治療選択肢として位置づけられています。タモキシフェンやアリミデックスなどのホルモン治療を受けている患者の不定愁訴に対しても有効性が認められています。
胎盤絨毛分解物注射液の副作用は比較的軽微で、重篤な副作用の報告例はありません。最も一般的な副作用は注射部位の疼痛、発赤、腫れなどの局所反応です。
アレルギー反応が起こる可能性があるため、本剤または他の薬物に対し過敏症の既往歴のある患者は禁忌とされています。アレルギー体質の患者に対しては、原材料の確認とともに医師の慎重な指導が必要です。
女性患者において、閉経後の生理再開や生理周期の変化、経血量の増減などが稀に報告されています。これらは副作用というよりも、生理周期の正常化作用として理解されることが多く、体調不良を示すものではありません。
毎週継続して投与しても依存性は認められず、長期投与による重篤な副作用の蓄積も報告されていません。
ヒト胎盤を原料とする胎盤絨毛分解物注射液では、感染症伝播のリスクが最も重要な安全性の懸念事項です。製造過程では、原料となる胎盤を採取する際に問診と感染症関連の検査を実施し、製造工程において加熱処理などの安全対策を講じています。
具体的には、日本国内の産婦人科で健康な母親から正常分娩で生まれた胎盤のみを使用し、肝炎やエイズなどの感染のない健康なヒトの胎盤を厳選しています。さらに、ウイルスや細菌は高圧蒸気滅菌により不活化されており、これまでの使用実績において感染症の報告例はありません。
ただし、ヒト胎盤を原料としていることによる感染症伝播のリスクを完全に排除することはできないため、疾病の治療上の必要性を十分に検討の上、必要最小限の使用にとどめることが求められています。
プラセンタ注射を受けた患者は、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の感染予防対策として、検査方法が確立されるまでは献血制限の対象となります。2024年8月現在、プラセンタによる感染報告はありませんが、この制限は継続されています。
胎盤絨毛分解物注射液の使用にあたっては、患者に対する十分な説明と同意取得が重要な要素となります。医療従事者は、疾病の治療における本剤の必要性とともに、ヒトの胎盤を原料としていることに由来する感染症伝播のリスクについて患者に説明し、理解を得るよう努めなければなりません。
説明すべき内容には以下の項目が含まれます。
患者の理解を深めるため、プラセンタ注射には2種類(メルスモンとラエンネック)があり、それぞれ特徴が異なることも説明に含めることが推奨されます。メルスモンはよりホルモン作用が強いとされ、更年期障害の保険適用があることも重要な情報です。
また、経口タイプのプラセンタサプリメントとの違いについても説明できるよう準備しておくことが望ましいでしょう。注射と同等の効果を得るには経口薬で約6倍の量が必要とされ、コストパフォーマンスの観点からも注射が優位であることを伝えることができます。
治療開始前には、患者の既往歴、アレルギー歴、現在服用中の薬剤について詳細に聴取し、禁忌事項に該当しないことを確認することが必要です。特に過敏症の既往歴がある患者では、慎重な検討が求められます。
厚生労働省の医薬品医療機器総合機構(PMDA)では、メルスモンの最新の添付文書情報を提供しており、医療従事者はこれらの情報を定期的に確認することが重要です。
PMDA添付文書情報 - メルスモンの最新の安全性情報と使用上の注意
医療従事者向けの薬剤情報検索サイトでは、メルスモンの詳細な薬理作用と臨床データを確認できます。