ストロマは葉緑体の内部を満たす無色の液体で、チラコイド膜に囲まれた水性領域として存在します。この領域には光合成の暗反応(カルビン-ベンソン回路)に必要な酵素群が豊富に含まれており、二酸化炭素固定反応の中心的な場所となっています。
参考)https://www.wdb.com/kenq/dictionary/chloroplast
ストロマの主要な構成成分は以下の通りです。
興味深いことに、ストロマ内のpHは約8.0と弱アルカリ性を示し、これは酵素活性の最適化に重要な役割を果たしています。また、ストロマには葉緑体独自の遺伝システムが存在し、一部のタンパク質合成を行っていますが、現在では遺伝子の約90%が核に移行しており、進化的な変遷を物語っています。
参考)https://www.toho-u.ac.jp/sci/biomol/glossary/bio/chloroplast.html
チラコイドは厚さ6-7nmの生体膜で構成された扁平な袋状構造で、葉緑体内に数十から数百個存在します。これらの膜構造は単独で存在するものと、積み重なってグラナを形成するものに分けられ、それぞれ異なる機能を担っています。
チラコイド膜の特徴的な構成は以下のとおりです。
特に注目すべきは、グラナラメラとストロマラメラでの膜タンパク質分布の違いです。グラナラメラには主にPSIIが集中し、ストロマラメラにはPSIとATP合成酵素が豊富に存在します。この空間的な分離は、効率的な電子伝達と光リン酸化を可能にする精巧な設計となっています。
チラコイド内腔(ルーメン)は幅10-30nmの狭い空間で、光反応によって生成されたプロトンが蓄積し、ATP合成の駆動力となるプロトン勾配を形成します。
ストロマで行われる暗反応(カルビン-ベンソン回路)は、チラコイドで生成されたATPとNADPHを利用して二酸化炭素を糖に固定する重要な代謝経路です。この反応系の中心となるのがRuBisCO酵素で、地球上で最も豊富なタンパク質として知られています。
参考)https://toumaswitch.com/n67e4p7kf2/
暗反応の主要な段階は以下の3つに分けられます。
この反応系では、CO₂ 3分子を固定するために、ATP 9分子とNADPH 6分子が消費されます。ストロマ内の酵素群は光照射によって還元活性化され、暗時には酸化的に不活性化される巧妙な調節機構を持っています。
また、ストロマでは光合成以外にも脂肪酸合成、アミノ酸合成、亜硝酸還元などの重要な代謝反応が進行しており、植物細胞の代謝中枢としての機能を果たしています。
チラコイド膜で行われる光反応は、光エネルギーを化学エネルギー(ATPとNADPH)に変換する極めて効率的なシステムです。この反応は光化学反応、電子伝達反応、光リン酸化の3つの過程に分けられます。
参考)https://www.try-it.jp/chapters-15009/sections-15010/lessons-15026/
光反応の詳細なメカニズム。
この過程で最も特筆すべきは、PSIIにおける水分解反応です。酸素発生複合体(OEC)では、マンガンクラスターが4段階の酸化状態を経て水分子から電子を奪い、副産物として酸素を放出します。この反応は地球大気の酸素の起源となった画期的な生化学反応です。
チラコイド膜の流動性とタンパク質複合体の側方移動も、光反応の調節において重要な役割を果たしています。光強度の変化に応じてPSIIがグラナからストロマラメラへ移動する現象が観察されており、これは光阻害を防ぐ適応機構と考えられています。
ストロマとチラコイドの間には、単純な物理的分離を超えた複雑な分子間相互作用が存在します。両構造間でのエネルギーの流れと物質交換は、光合成効率の最適化において決定的な役割を果たしています。
分子間相互作用の主要なポイント。
特に興味深いのは、光照射時におけるストロマ内Mg²⁺濃度の上昇現象です。チラコイド内腔からストロマへのMg²⁺放出により、ストロマ内のRuBisCO酵素が活性化されます。この現象は光-暗反応の連携機構の一例として、植物生理学において重要な発見とされています。
参考)https://photosyn.jp/pwiki/?%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%9E%E3%83%81%E3%83%A9%E3%82%B3%E3%82%A4%E3%83%89
また、フェレドキシン-チオレドキシン系は、光反応で生成された還元力をストロマ内酵素の活性調節に利用する精巧なシステムです。この系により、カルビン回路の酵素群は光照射時に活性化され、暗時には不活性化されることで、エネルギーの無駄な消費を防いでいます。
現代の分子生物学的研究により、ストロマとチラコイド間の相互作用は従来考えられていたよりもはるかに複雑で動的なものであることが明らかになっており、この知見は植物の環境適応機構や光合成効率の改善研究において重要な基盤となっています。