スプリセルジェネリック適応違いと後発品特許問題

スプリセルのジェネリック医薬品における適応違いの背景と、特許延長による製造販売制限の実情を詳しく解説。適応追加の経緯と医療現場への影響は?

スプリセルジェネリック適応違いと後発品の課題

スプリセルジェネリックの適応違い解消への道のり
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先発品との適応不一致

当初、スプリセルの後発品は急性リンパ性白血病のみの適応で、慢性骨髄性白血病への適応がありませんでした

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特許権存続期間延長

慢性骨髄性白血病に対するBMS特許の延長により、後発品の適応追加が制限されていました

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適応追加承認の獲得

2023年10月以降、複数の後発品メーカーが慢性骨髄性白血病の適応を追加取得し、適応違いが解消されました

スプリセル後発品の適応違いの背景と現状

スプリセル(ダサチニブ)の後発医薬品において、適応違いは深刻な問題となっていました。先発品のスプリセルは、慢性骨髄性白血病および再発または難治性のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病という2つの適応症を持つ抗悪性腫瘍剤です。
参考)https://www.towayakuhin.co.jp/company/press/2024/01/20mg50mg.php

 

しかし、後発品の多くは当初、急性リンパ性白血病の適応のみで承認されており、慢性骨髄性白血病に対する適応が欠けていました。この適応違いにより、医療現場では処方の際に制約が生じ、患者や医師にとって不便な状況が続いていました。
特に東和薬品のダサチニブ錠20mg/50mg「トーワ」は、2024年1月に慢性骨髄性白血病の適応追加承認を取得し、「先発医薬品(スプリセル錠20mg/50mg)との適応不一致が解消されます」と発表しました。

スプリセル特許権延長と後発品製造販売の法的制約

スプリセルの後発品開発において重要な問題となったのが、特許権の存続期間延長です。ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMS)が保有する特許第3989175号は、本来2020年4月12日に満了予定でしたが、存続期間延長登録により、慢性骨髄性白血病の効能については2024年1月27日まで延長されていました。
参考)https://kubota-law.com/nlr060402j1.html

 

この延長期間中、沢井製薬が2023年10月4日に慢性骨髄性白血病の適応追加承認を取得して販売を開始したところ、BMSが特許権侵害として仮処分を申し立てました。東京地方裁判所は2023年11月28日、沢井製薬に対し、2024年1月27日まで慢性骨髄性白血病の適応を含む後発品の製造販売を禁止する仮処分命令を下しました。
この事件では、先発品の有効成分が「ダサチニブ水和物」であるのに対し、後発品が「ダサチニブ」(無水物)である点が争点の一つとなりました。特許法第68条の2における延長登録の効力が、水和物から無水物にも及ぶかという技術的な問題も含んでいます。

 

スプリセルオーソライズドジェネリックの適応状況

2023年8月、BMSの100%子会社であるブリストル・マイヤーズ スクイブ販売株式会社は、スプリセルのオーソライズド・ジェネリック(AG)の製造販売承認を取得しました。ダサチニブ錠20mg「BMSH」、同錠50mg「BMSH」として、慢性骨髄性白血病および再発または難治性のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病の両方の適応症で承認されています。
参考)https://www.bms.com/jp/media/press-release-listing/press-release-listing-20221/20230816.html

 

オーソライズド・ジェネリックは、先発医薬品メーカーの特許使用許諾を受けて製造販売されるジェネリック医薬品です。BMSとしては初めてのオーソライズド・ジェネリック製品の発売となり、「高い品質と安定した製品供給で患者さんのニーズに応える」としています。
参考)https://www.bms.com/jp/media/press-release-listing/press-release-listing-20221/20231208.html

 

同年12月には薬価収載を受けて実際の販売が開始され、適応違いの問題がない状態で市場に投入されました。これにより、医療現場では先発品と同等の適応範囲を持つジェネリック医薬品の選択肢が確保されています。

スプリセル適応追加承認を取得した後発品各社の状況

沢井製薬以外の後発品メーカーも、段階的に適応追加の承認を取得しています。沢井製薬のダサチニブ錠20mg/50mg「サワイ」は2023年10月4日に慢性骨髄性白血病の適応追加が承認されました。この承認により、「先発品との不一致解消」が実現されています。
参考)https://nk.jiho.jp/article/184406

 

日本ジェネリック製薬協会の調査によると、効能効果や用法用量に違いのある後発医薬品リストにおいて、ダサチニブを含む複数の薬剤で適応違いが確認されています。これらのリストは定期的に更新されており、適応追加承認の進捗状況を把握することができます。
参考)https://www.jga.gr.jp/2023/03/23/230323_effectiveness.pdf

 

適応追加承認の取得により、医療現場での処方制約が解消され、患者にとってより多くの治療選択肢が提供されるようになりました。特に慢性骨髄性白血病の患者では、経済的負担の軽減と治療継続性の向上が期待されています。

 

スプリセル後発品市場への影響と医療経済効果

スプリセルの後発品における適応違いの解消は、医療経済に大きな影響をもたらしています。抗がん剤は高額な医療費の代表例であり、ジェネリック医薬品への切り替えによる薬剤費削減効果は非常に大きくなります。

 

日本における後発医薬品の普及促進は、医療費抑制の重要な政策の一つです。ジェネリック医薬品は先発品と同等の品質、有効性、安全性を持ちながら、開発費用が低いため薬価も抑えられています。スプリセルのような高額な抗がん剤では、この価格差による経済効果は特に顕著に現れます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4540728/

 

医療現場では、適応違いが解消されたことにより、処方時の混乱や制約がなくなり、円滑な薬物療法が実現できるようになりました。また、患者にとっても治療継続における経済的負担が軽減され、長期間にわたる治療が必要な慢性骨髄性白血病において大きなメリットとなっています。

 

さらに、複数の後発品メーカーが市場に参入することで競争が促進され、価格面でのさらなる改善も期待できます。医療保険制度の持続可能性確保の観点からも、適応違いの解消は重要な意義を持っています。