制吐剤の種類と一覧:作用機序別分類と適応

がん化学療法や術後の悪心・嘔吐に使用される制吐剤について、D2受容体拮抗薬や5-HT3受容体拮抗薬など作用機序別に詳しく解説。適切な制吐剤選択の指針とは?

制吐剤の種類と一覧

制吐剤の主要分類と特徴
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D2受容体拮抗薬

ドンペリドン、メトクロプラミドなど消化器運動改善効果も併せ持つ基本的制吐剤

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5-HT3受容体拮抗薬

グラニセトロン、オンダンセトロンなど化学療法による悪心・嘔吐の強力な抑制薬

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NK1受容体拮抗薬

アプレピタントなど遅発性嘔吐に特に有効な最新の制吐剤

制吐剤は作用機序の違いにより複数の分類に分けられ、それぞれ異なる臨床場面で使用されています。がん化学療法に伴う悪心・嘔吐(CINV)の治療において、催吐性リスクに応じた適切な制吐剤の選択が治療成功の鍵となります。

 

制吐剤のD2受容体拮抗薬の特徴と一覧

D2受容体拮抗薬は最後野に存在するD2受容体の反応をブロックすることで悪心・嘔吐を抑制する制吐剤です。この分類には消化器運動改善薬に分類される薬剤も含まれ、制吐作用と併せて消化管運動促進効果を発揮します。

 

主要なD2受容体拮抗薬の一覧。

  • ドンペリドン(ナウゼリン)
  • 先発品:ナウゼリン錠5mg(6.1円/錠)、ナウゼリン錠10mg(8.8円/錠)
  • 後発品:ドンペリドン錠5mg「日医工」(6.1円/錠)、ドンペリドン錠10mg「日医工」(6.1円/錠)
  • 坐剤:ナウゼリン坐剤10mg(33.4円/個)、30mg(52.8円/個)、60mg(76.5円/個)
  • メトクロプラミド(プリンペラン)
  • 犬では嘔吐中枢に対する効果がありますが、猫では効果が乏しいとされています
  • 消化管運動改善作用により機能的イレウスに対しても効果を示す可能性があります
  • 抗精神病薬
  • ハロペリドール、クロルプロマジン、ドロペリドール
  • 副作用として錐体外路症状、特にアカシジアに注意が必要です

D2受容体拮抗薬の特徴として、血液脳関門を通過しやすく中枢性の制吐作用を発揮する一方で、錐体外路症状のリスクがあることが挙げられます。特に高齢者や長期使用時には注意深い観察が必要です。

 

制吐剤の5-HT3受容体拮抗薬の臨床応用

5-HT3受容体拮抗薬は腸管の迷走神経終末に分布する5-HT3受容体の反応をブロックすることで制吐作用を発揮します。化学療法による早期嘔吐に対して特に有効であり、現在の制吐療法の中核を担っています。

 

主要な5-HT3受容体拮抗薬の詳細一覧。

  • グラニセトロン(カイトリル)
  • 先発品:カイトリル錠1mg(297.1円/錠)、カイトリル錠2mg(632.5円/錠)
  • 注射薬:カイトリル注1mg(575円/管)、カイトリル注3mg(1289円/管)
  • 後発品:グラニセトロン静注液1mg「トーワ」(594円/管)
  • オンダンセトロン
  • 後発品:オンダンセトロンODフィルム4mg「GFP」(341.3円/錠)
  • 注射薬:オンダンセトロン注射液4mg「サンド」(1289円/管)
  • 悪心もしっかり止める作用があり、マロピタントで効果が弱い場合に使用されます
  • パロノセトロン(アロキシ)
  • アロキシ静注0.75mg、アロキシ点滴静注バッグ0.75mg
  • 半減期が長く、1回投与で24時間以上の効果を持続します
  • その他の薬剤
  • アザセトロン、ラモセトロン(ナゼア)
  • それぞれ注射薬とOD錠の剤形があります

5-HT3受容体拮抗薬は催吐性リスクが中度から高度の化学療法レジメンにおいて、デキサメタゾンとの併用により高い制吐効果を示します。副作用として便秘や頭痛が報告されていますが、概して忍容性は良好です。

 

動物医療における5-HT3受容体拮抗薬の応用について、獣医師による判断のもと人薬も使用されており、抗がん剤による嘔吐の治療や予防に効果的です。

 

制吐剤のNK1受容体拮抗薬と最新治療

NK1受容体拮抗薬は比較的新しい分類の制吐剤で、遅発性嘔吐に対して特に優れた効果を発揮します。サブスタンスPというニューロペプチドの受容体を阻害することで制吐作用を示します。

 

主要なNK1受容体拮抗薬。

  • アプレピタント(イメンド)
  • イメンドカプセル80mg、125mg
  • イメンドカプセルセット(125mg×1カプセル、80mg×2カプセル)
  • 高度催吐性リスクの化学療法において3日間の経口投与で使用
  • ホスアプレピタントメグルミン(プロイメンド)
  • プロイメンド点滴静注
  • アプレピタントのプロドラッグで、静脈内投与により速やかにアプレピタントに変換
  • ネツピタント(アロカリス)
  • アロカリス点滴静注235mg
  • 2022年に承認された選択的NK1受容体拮抗型制吐剤

NK1受容体拮抗薬の特徴として、従来の制吐剤では十分に抑制できなかった遅発性嘔吐(化学療法後24時間以降に発現)に対して優れた効果を示すことが挙げられます。シスプラチンなどの高度催吐性リスクの薬剤を使用する際には、5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾンとの3剤併用療法が標準治療となっています。

 

最新の研究では、NK1受容体拮抗薬の使用により患者の生活の質(QOL)が有意に改善されることが報告されており、がん治療における支持療法の重要性が再認識されています。

 

制吐剤の催吐性リスク分類と選択基準

制吐剤の適切な選択には、使用する抗がん剤の催吐性リスクに応じた分類が重要です。この分類により、必要最小限で最大効果の制吐療法を実施できます。

 

催吐性リスク分類一覧

  • 高度リスク(HEC:>90%)
  • シスプラチン、シクロホスファミド(>1500mg/㎡)
  • イホスファミド(≧2g/㎡/回)、ダカルバジン
  • ドキソルビシン(≧60mg/㎡)、プロカルバジン
  • 中度リスク(MEC:30-90%)
  • カルボプラチン(HECに準じた扱い)、オキサリプラチン
  • イリノテカン、ドキソルビシン(<60mg/㎡)
  • メトトレキサート(≧250mg/㎡)、イマチニブ
  • 軽度リスク(LEC:10-30%)
  • パクリタキセル、ドセタキセル、エトポシド
  • ゲムシタビン、TAS-102

リスク別制吐剤選択指針
高度リスクでは5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+デキサメタゾンの3剤併用が推奨されます。中度リスクでは5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾンの2剤併用、軽度リスクではデキサメタゾン単独またはD2受容体拮抗薬の使用が一般的です。

 

催吐性リスク分類は定期的に見直されており、新規抗がん剤の登場に伴い更新されています。特にカルボプラチンは中度リスクに分類されていますが、高度リスクに準じた制吐療法が推奨されている点に注意が必要です。

 

制吐剤の動物医療での特殊な応用例

動物医療における制吐剤の使用は、人医療とは異なる特徴があり、犬と猫での効果や副作用の違いに注意が必要です。この分野は比較的研究が進んでおらず、独自の知見が蓄積されています。

 

動物種別の制吐剤効果

  • 犬での特徴
  • メトクロプラミドは嘔吐中枢に対する効果が認められます
  • 空腹時の嘔吐(胆汁酸嘔吐)が若い犬に多く見られ、食事間隔の調整が重要
  • マロピタント(セレニア)は乗り物酔いから抗がん剤の副作用まで広範囲に使用
  • 猫での特徴
  • メトクロプラミドの嘔吐抑制効果が乏しく、消化管運動促進作用のみ期待される
  • 慢性腎不全管理において、従来の胃酸抑制剤の継続投与は不要とする見解が増加
  • 2017年の研究では腎不全猫の胃pHは正常猫と差がないことが判明

注目すべき研究知見
最近の動物医療研究では、従来の常識が覆される発見が相次いでいます。2014年の論文では猫の腎不全における胃の変化として、胃潰瘍ではなく胃の石灰沈着(38%)や線維化(43%)が主体であることが明らかになりました。

 

この知見により、ファモチジン(ガスター)やオメプラゾールなどの胃酸分泌抑制剤を慢性腎不全の猫に継続投与する必要性が疑問視されています。代わりに、マロピタントのような作用機序の異なる制吐剤と食欲増進剤(ミルタザピン、カプロモレリン)の併用が推奨されています。

 

日本緩和医療学会の制吐剤ガイドライン
制吐剤の薬理学的分類と適応に関する詳細な解説
ネスレ栄養ネットの制吐療法解説
がん化学療法における制吐療法の実践的な使い分けについて