後発品に切り替えれば、デキサメタゾンの用量もそのままでOKだと思っていませんか?

イメンドカプセル(一般名:アプレピタント)は、小野薬品工業が販売する選択的NK1受容体拮抗型制吐剤です。抗悪性腫瘍剤投与に伴う悪心・嘔吐(CINV)の予防に広く用いられてきましたが、2024年7月に「製造元による製造中止」を理由とした販売中止予定の公式通知が医療機関・卸向けに発出されました。
販売中止の直接の原因は、製造工場の製造中止という製造元側の事情であり、薬剤自体に安全性や有効性の問題が生じたわけではありません。つまり効果への疑義ではないということですね。
具体的なスケジュールを整理すると、下表のようになります。
| 製品名 | 統一商品コード | 最終出荷(見込み) | 経過措置期限 |
|---|---|---|---|
| イメンドカプセル125mg(6カプセル) | 039-44113-3 | 2025年6月頃 | 2026年3月31日 |
| イメンドカプセル80mg(6カプセル) | 039-44105-8 | 2025年6月頃 | 2026年3月31日 |
| イメンドカプセルセット | 039-44121-8 | 2025年6月頃 | 2026年3月31日 |
2025年3月7日に正式な販売中止の告知が行われ、大包装(PTP30カプセル)については2025年7月1日、小包装(PTP6カプセル)については2025年5月1日が実施日となっています。経過措置期限は2026年3月31日であり、今日(2026年3月24日)の時点では実質的に経過措置の終了直前です。
この情報に気づかず院内採用品リストを更新していなかった施設では、算定上の問題が生じるリスクがあります。今すぐ薬事委員会への報告と院内電子カルテ上のマスタ更新を確認することが必要です。
注目すべき点として、同じ小野薬品が販売するプロイメンド点滴静注用150mg(ホスアプレピタントメグルミン)も同時期に販売中止となりました。こちらの最終出荷見込みは2025年12月頃で、代替品は日本化薬の「ホスアプレピタント点滴静注用150mg「NK」」です。経口剤・注射剤の両方が同時期に切替えを求められている、という状況です。
参考リンク:小野薬品工業による販売中止公式通知(岐阜薬科大学病院DI室掲載)
イメンドカプセルの販売中止に伴い、現在流通している同一成分の代替品は以下の2社から提供されています。
どちらも先発品イメンドカプセルとの生物学的同等性試験(BA試験)を実施済みであり、健康成人男子を対象としたクロスオーバー試験でAUCおよびCmaxが先発品と同等であることが確認されています。成分・用法・用量は先発品と同一です。
薬価については、アプレピタントカプセル125mg「サワイ」が1カプセルあたり1,032.10円(参考値)となっており、先発品と比較して薬剤コストが変わる点も院内採用の観点から確認が必要です。
切替え時に実務上で確認すべきポイントをまとめると次の通りです。
DSJPのデータベースによると、沢井製薬品については2025年12月時点で「通常出荷」ステータスに戻っており、安定供給が確認されています。ただし後発品全般で供給不安が続いている昨今の状況を踏まえると、複数社の採用を検討しておくことが現実的な対応といえます。
参考リンク:DSJP 医療用医薬品供給状況データベース(イメンドカプセル代替品一覧)
後発品へ切り替えるにあたって、薬剤師・医師が最も注意すべきポイントがCYP3A4を介した薬物相互作用です。意外と見落とされがちなのが、この点がイメンドの先発品・後発品を問わず共通のリスクだという事実です。
アプレピタントはCYP3A4の基質であると同時に、用量依存的にCYP3A4を阻害する作用も持っています。これにより、同じCYP3A4で代謝されるデキサメタゾンを併用すると、デキサメタゾンの血中濃度(AUC)が約2倍に上昇することが臨床薬理試験で明らかになっています。
結論はシンプルです。NK1受容体拮抗薬を使うなら、デキサメタゾンを50%減量が原則です。
日本癌治療学会の制吐療法ガイドラインでは「NK1受容体拮抗薬を投与する場合にはデキサメタゾンの用量を50%減量する」と明示されており、愛媛大学医学部附属病院の院内プロトコルでも「デキサメタゾンはアプレピタント併用時に相互作用で2倍に上昇するため、半量に減量する」と注記されています。
実臨床では先発品使用時にすでにこの調整を行っていたはずですが、切替え時の処方見直し作業の中でレジメンを新規登録し直した際に、うっかりデキサメタゾンを通常量のまま入力してしまうミスが起こりえます。厳しいところですね。
さらにアプレピタントはCYP2C9の誘導作用も持つため、ワルファリン(抗凝固薬)との併用にも注意が必要です。ワルファリン服用中の患者に切替えを行う場合、PT-INRの変動が生じる可能性があるため、投与開始後7〜10日目を目安に凝固能のフォローを行うことが推奨されています。
CINVのリスク分類に応じた制吐レジメン内でのデキサメタゾン用量確認は、後発品移行後も毎サイクル確認すべき事項です。これが条件です。
参考リンク:日本癌治療学会 制吐薬適正使用ガイドライン(CINVのリスク分類と推奨制吐レジメンを詳細に解説)
イメンドカプセルの販売中止と並行して、静注製剤であるプロイメンド点滴静注用150mg(ホスアプレピタントメグルミン)も同時に製造中止・販売中止が決定しています。これは多くの施設にとって、経口剤と注射剤の両方を同時期に切り替えなければならないという、二重の負担を意味します。
経口剤と注射剤の役割を整理すると次の通りです。
プロイメンドの代替品は日本化薬の「ホスアプレピタント点滴静注用150mg「NK」」のみであり、沢井製薬からの供給は現時点でない状態です。つまり注射剤については選択肢が1社に限られているということですね。
さらに外来化学療法と入院化学療法が混在する施設では、経口剤の後発品採用と注射剤の後発品採用を同時進行で薬事委員会に諮る必要があります。現場薬剤師にとって、レジメン管理上の照合作業が倍増するリスクがあります。
独自視点として注目したいのが、このタイミングが後発医薬品安定供給問題が社会的課題となっている時期と重なっている点です。厚生労働省の2025年1月調査では、後発医薬品の約25.9%が「通常出荷以外」の状態(出荷調整・出荷停止等)にあるとされています。日本の後発品市場全体が品質問題・製造能力問題を抱える中で、先発品の撤退と後発品への移行が同時に求められる状況は、医療現場に慢性的な採用管理の負担を与え続けています。
切替え作業の優先度が高い施設は、①消化器がんや肺がんなどシスプラチン系の高度催吐性レジメンを多用している施設、②外来化学療法センターで day1〜3 のアプレピタント内服処方が多数組まれている施設、③ワルファリン服用患者が化学療法を受けているケースが多い施設の3類型です。
アプレピタントがなぜCINV(化学療法誘発性悪心・嘔吐)の制吐療法において重要な位置を占めるのか、改めて整理しておくことは後発品採用後の適正使用につながります。
アプレピタントはニューロキニン1(NK1)受容体拮抗薬であり、嘔吐を誘発するサブスタンスPのNK1受容体への結合を競合的に阻害します。5-HT3受容体拮抗薬やデキサメタゾンが主に急性期のCINVを抑制するのに対し、NK1受容体拮抗薬は急性期に加えて「遅発性CINV(化学療法後24時間以降に発現する悪心・嘔吐)」の抑制に特に優れた効果を持つとされています。
つまり遅発性嘔吐の鍵を握るのがこの薬です。
標準的な用法は1日目に125mgを投与し、2日目・3日目に80mgを投与する3日間レジメンです。日本癌治療学会のガイドラインでは、シスプラチンなどの高度催吐性薬剤(HEC)を使用する際には、NK1受容体拮抗薬+5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾンの3剤併用が標準制吐療法として推奨されています。カルボプラチンを含む一部の中等度催吐性薬剤(MEC)においても同様の3剤併用が推奨されており、アプレピタントの使用機会は非常に広範にわたります。
投与期間については、添付文書上「3日間を目安とする」と記載されており、1処方あたりの投与期間は原則5日間まで保険算定が認められています。6日以上の処方は審査上問題となるケースがあるため注意が必要です。
また12歳以上の小児にも適応があり、成人と同じ用量・用法で投与可能です。これは意外なポイントのひとつです。小児がん治療において催吐性の高いレジメンを用いる場合にも、後発品への切替えが適切に行われているかどうかを確認することが求められます。
副作用として代表的なものはしゃっくり(吃逆)、頭痛、便秘、下痢、食欲不振などです。特に吃逆は男性患者に多く報告されており、アプレピタント併用によるデキサメタゾンのAUC増大との関連が示唆されています。これは使えそうな情報です。処方開始後に吃逆が増えたと感じる患者がいた場合、デキサメタゾンの用量調整が適切に行われているかを再確認するきっかけとなります。
参考リンク:薬剤師のためのBasic Evidence(制吐療法)日医工株式会社(CINVの発現機序・リスク分類・制吐療法のエビデンスを詳しく解説)
薬剤師のためのBasic Evidence(制吐療法)|日医工