酸化亜鉛は医療用医薬品として、軽度の皮膚病変に対する収れん・消炎・保護・緩和な防腐作用を有しています。この効果は酸化亜鉛の物理的・化学的特性に基づいており、皮膚表面に薄い保護膜を形成することで外部刺激から皮膚を守ります。
収れん作用については、酸化亜鉛が皮脂を吸着して固める性質があり、これにより皮脂崩れ防止効果が期待できます。この作用機序は、酸化亜鉛の多孔質構造が皮脂分子を物理的に捕捉することによるものです。
医療現場では、以下の症状に対して使用されています。
外用散剤として15~100%の濃度で使用され、軟膏剤や液剤としても調製されます。濃度の選択は患部の状態や症状の程度により決定されるため、適切な診断と処方が重要です。
酸化亜鉛は無機系紫外線散乱剤として、UVA(320~400nm)とUVB(280~320nm)の両方に対して効果を発揮します。その作用機序は、酸化亜鉛粒子が紫外線を物理的に反射・散乱させることにより、皮膚への紫外線到達を阻害することです。
酸化亜鉛の屈折率は約2.0と高く、これにより表面反射が大きくなり隠蔽力が高くなります。ただし、同じ無機系紫外線散乱剤である酸化チタン(屈折率約2.7)と比較すると、紫外線散乱効果はやや劣りますが、白浮きやきしみ感は酸化チタンほど顕著ではありません。
近年では、微粒子化(ナノ化)された酸化亜鉛が開発されており、以下の利点があります。
微粒子化により、可視光は透過するが紫外線は散乱するという選択的な光学特性を実現しています。
酸化亜鉛の使用に伴う副作用は頻度不明とされていますが、以下の症状が報告されています。
過敏症状
皮膚症状
これらの副作用が現れた場合は、直ちに使用を中止し適切な処置を行う必要があります。特に、初回使用時には患者の反応を注意深く観察することが重要です。
動物実験では、眼に対する刺激性が確認されており、適用24時間後に角膜剥離が認められましたが、14日後には消失しています。結膜の発赤、浮腫、分泌物も観察されましたが、7日後には回復しました。一方、皮膚刺激性は認められませんでした。
皮膚感作性試験(Buehler法)では陰性結果が得られており、通常の使用条件下では感作性は低いと考えられます。
酸化亜鉛の使用において、以下の場合は禁忌とされています。
絶対禁忌
これらの禁忌の理由は、酸化亜鉛が創傷部位に付着し、組織修復を遷延させる可能性があるためです。湿潤環境では酸化亜鉛が創面に強固に付着し、除去が困難となり、治癒過程を阻害する恐れがあります。
適用上の注意事項
吸入による呼吸器への影響を避けるため、散布時には適切な換気と保護具の使用が推奨されます。眼への使用は角膜損傷のリスクがあるため避けるべきです。
保管に関しては、湿気や高温を避け、室温での保存が適切です。品質保持のため、開封後は密閉容器での保管が重要です。
酸化亜鉛の体内での動態について、経口摂取時の吸収特性が詳細に研究されています。成人10名を対象とした比較試験では、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛(各50mg/日相当)を経口摂取させた結果、酸化亜鉛の血漿中濃度は他の亜鉛化合物と比較して低値を示しました。
薬物動態の特徴
この結果は、酸化亜鉛が胃において溶解し、腸管内で亜鉛として体内に吸収されるものの、その吸収効率が他の亜鉛化合物より低いことを示しています。
外用時の経皮吸収については、健常皮膚からの吸収は限定的ですが、炎症や損傷のある皮膚では吸収が増加する可能性があります。長期間の広範囲使用時には、血中亜鉛濃度のモニタリングが推奨される場合があります。
亜鉛過剰症の症状として以下が報告されています。
特に注目すべきは、1日100mgを超える亜鉛摂取により進行性前立腺がんのリスクが2.29倍に上昇するという報告です。10年以上のサプリメント服用では発生リスクが2倍に及ぶため、長期使用患者への注意喚起が重要です。
厚生労働省による酸化亜鉛の安全性評価資料
医療従事者は、酸化亜鉛の外用使用においても、患者の全身状態や併用薬剤を考慮し、適切な使用期間と範囲を設定することが求められます。特に、腎機能障害患者や高齢者では、亜鉛の蓄積リスクを考慮した慎重な投与が必要です。