ルパフィン(一般名:ルパタジン)は、2017年に発売された第2世代抗ヒスタミン薬です。花粉症(アレルギー性鼻炎)や蕁麻疹、湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症などのアレルギー症状を緩和するために処方される医療用医薬品です。
アレルギー反応は、体内に侵入したアレルゲン(花粉、ハウスダストなど)に対して、免疫細胞が反応し、ヒスタミンという物質を放出することで引き起こされます。このヒスタミンが、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ、皮膚の発疹などの様々なアレルギー症状を引き起こす原因となります。
ルパフィンは、このヒスタミンが体内で作用する部位であるヒスタミン受容体の機能を阻害することで、アレルギー症状を緩和します。特に、ルパフィンは単なる抗ヒスタミン作用だけでなく、炎症反応に関与する血小板活性化因子(PAF)の働きも弱める作用を持っています。この二重の作用メカニズムにより、より効果的にアレルギー症状を抑制できるという特徴があります。
ルパフィンは錠剤タイプで、通常成人には1日1回10mgを経口服用します。症状が重い場合には、医師の判断により1日1回20mgまで増量されることもあります。1日1回の服用で済むため、服薬コンプライアンスが高いという利点もあります。
ちなみに、ルパフィンは先発医薬品であり、現時点ではジェネリック医薬品(後発医薬品)は発売されていません。一般的に、後発医薬品が発売されるまでには先発医薬品の発売から5~10年かかるとされています。
ルパフィンの最大の特徴は、ヒスタミンH1受容体阻害作用に加えて、血小板活性化因子(PAF)拮抗作用も併せ持つ点です。これにより、単なる抗ヒスタミン薬以上の効果が期待できます。
花粉症に対する抗ヒスタミン薬の治療効果を比較した研究によれば、鼻水や鼻づまり、くしゃみなどの症状を緩和する効果は、エバスチン、フェキソフェナジン、レボセチリジン、セチリジン、デスロラタジン、ロラタジンといった代表的な第2世代抗ヒスタミン薬と比べて、ルパフィンで優れているという結果が報告されています。
ルパフィンの効果発現時間は比較的早く、服用から約1~2時間程度で症状改善効果を実感できると考えられています。ただし、食後に服用すると、血中濃度が最大になるまでの時間が1時間程度延長することが報告されているため、症状が強い時は食前または食間に服用するとより早く効果が現れる可能性があります。
また、1日1回の服用で24時間効果が持続するため、朝のどの時間帯に服用しても夜まで効果が続きます。これは、ルパフィンが体内で代謝されて生成される活性代謝物も抗ヒスタミン作用を持ち、その代謝物の半減期が長いことが関係しています。
ルパフィンの効果は、服用を開始してすぐに現れますが、アレルギー症状が完全に抑制されるまでには、継続的な服用が必要です。特に花粉症の場合、花粉飛散期間中は毎日服用することで、より安定した効果が得られます。
臨床試験では、ルパフィンの湿疹・皮膚炎に対する効果として、52週間の長期投与後に症状スコアが約2.6ポイント改善したことが報告されています。また、皮膚そう痒症に対しても同様に約2.5ポイントの改善が見られており、長期的な使用においても効果が持続することが示されています。
日本アレルギー学会誌に掲載されたルパフィンの臨床試験結果について詳しく解説した論文
ルパフィンを服用する際に注意すべき主な副作用について、発現頻度とともに解説します。
最も一般的な副作用は「眠気(傾眠)」で、その発現頻度は添付文書上で9.3%と報告されています。つまり、約10人に1人の割合で眠気を感じる可能性があるということです。この眠気の副作用は、第2世代抗ヒスタミン薬の中では比較的高い頻度となっています。
次に多い副作用としては以下のものが報告されています。
さらに頻度は低いものの(0.1%未満)、頭痛、しびれ感、めまい、下痢、腹部不快感、口内乾燥などが報告されています。
これらの副作用のうち、特に注意が必要なのは眠気です。ルパフィンは効果持続時間が長い薬剤であるため、眠気の副作用が翌日まで続く可能性もあります。そのため、ルパフィンを服用している間は、自動車の運転や機械操作など危険を伴う作業は避けるよう添付文書で指示されています。
臨床試験の結果からも、ルパフィンの副作用発現頻度は用量依存的であり、10mg投与群では13.2%(91例中12例)、20mg投与群では9.8%(92例中9例)と報告されています。主な副作用は、10mg投与群では傾眠11.0%(91例中10例)、20mg投与群でも傾眠9.8%(92例中9例)となっています。
長期投与(52週間)での副作用発現頻度は18.0%(206例中37例)で、主な副作用は傾眠14.1%(206例中29例)、口渇2.4%(206例中5例)、肝機能検査値上昇1.0%(206例中2例)と報告されています。
ルパフィンは一般的に安全性の高い薬剤ですが、まれに重大な副作用が現れることがあります。これらの副作用は頻度こそ低いものの(多くは「頻度不明」と報告されています)、発現した場合は迅速な対応が必要です。
ルパフィンで報告されている重大な副作用には以下のものがあります。
ルパフィンの成分に対するアレルギー反応として、顔面蒼白、呼吸困難、血圧低下、チアノーゼ、血管浮腫などの症状が現れることがあります。このような症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、救急医療を求める必要があります。
てんかんの既往歴がある患者や、てんかんの治療中の患者では、ルパフィンがけいれん発作を誘発または増悪させる可能性があります。そのため、てんかん患者へのルパフィン投与は、医師が安全に使用できると判断した場合にのみ行われます。
てんかんとは別に、痙攣が報告されています。特に中枢神経系の疾患や薬剤を併用している場合は注意が必要です。
著しいAST上昇、ALT上昇、γ-GTP上昇、Al-P上昇、LDH上昇、ビリルビン上昇などを伴う肝機能障害や黄疸が現れることがあります。定期的に肝機能検査を行うことが推奨されます。
これらの重大な副作用に加えて、ルパフィンを服用する際には以下の点にも注意が必要です。
また、ルパフィンは他の薬剤との相互作用にも注意が必要です。特に中枢神経抑制剤(睡眠薬、抗不安薬など)との併用では、相互に作用を増強し、眠気などの副作用が強まる可能性があります。また、MAO阻害剤との併用は、抗コリン作用が増強される可能性があるため注意が必要です。
ルパフィンの副作用プロファイルを理解するためには、他の抗ヒスタミン薬と比較することが有用です。ここでは、特に眠気の副作用に焦点を当てて比較してみましょう。
抗ヒスタミン薬は、第1世代(古典的)と第2世代(新世代)に大別されます。第1世代抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンなど)は、血液脳関門を容易に通過するため、中枢神経系への作用が強く、著しい眠気を引き起こすことで知られています。一方、ルパフィンを含む第2世代抗ヒスタミン薬は、血液脳関門を通過しにくいよう改良されており、一般的に眠気の副作用は軽減されています。
しかし、第2世代抗ヒスタミン薬の中でも、薬剤によって眠気の発現頻度にはかなりの差があります。以下に主な第2世代抗ヒスタミン薬の眠気の発現頻度を比較します。
この比較から、ルパフィンの眠気の副作用発現頻度(9.3%)は、第2世代抗ヒスタミン薬の中では比較的高いことがわかります。特にアレグラ(フェキソフェナジン)と比較すると、その差は顕著です。
ただし、眠気以外の副作用を考慮すると、ルパフィンは心血管系への影響が少ないという利点があります。健康被験者を対象とした臨床薬理試験(海外試験)では、ルパタジン10mg、100mgを1日1回5日間反復経口投与したときの心電図への影響を検討しましたが、臨床上問題となるQT間隔の延長は認められませんでした。これは、一部の抗ヒスタミン薬で報告されている心臓への副作用リスクが低いことを示しています。
また、肝機能への影響についても、ルパフィンでは比較的軽度であると報告されています。肝機能検査値の上昇は0.1~5%未満の頻度で報告されていますが、重篤な肝障害の報告は少ないです。
さらに、ルパフィンは口渇(ドライマウス)の副作用も他の抗ヒスタミン薬と同様に報告されていますが、臨床試験での発現頻度は2.4%程度と比較的低い値となっています。
このように、ルパフィンは眠気の副作用がやや高い傾向にありますが、心血管系への影響が少なく、他の副作用も比較的軽度であるという特徴を持っています。したがって、運転や機械操作を必要としない患者や、夜間のみ服用する患者にとっては、有用な選択肢となる可能性があります。
一方、日中の活動に支障をきたしたくない患者や、職業上運転が必要な患者には、フェキソフェナジン(アレグラ)などの眠気の副作用が少ない抗ヒスタミン薬の方が適している場合があります。
日本アレルギー学会が発行している雑誌「アレルギー」での抗ヒスタミン薬の比較研究
治療薬の選択は、効果だけでなく副作用プロファイルも考慮して、個々の患者の生活スタイルや既往歴に合わせて行うことが重要です。ルパフィンが最適な選択肢となるかどうかは、医師との十分な相談の上で判断すべきでしょう。