多剤併用を続けても死亡リスクは下がらず、むしろ78%の死亡例で抗精神病薬の多剤併用が確認されています。
ゼプリオン水懸筋注(パリペリドンパルミチン酸エステル)は、2013年11月19日に国内で販売が開始された統合失調症の持効性注射剤(LAI)です。 販売開始からわずか約5ヶ月後の2014年4月16日、厚生労働省は安全性速報(ブルーレター)を発出しました。mhlw+1
この安全性速報の発出理由は、推定使用患者約10,900人のうち21例の死亡症例が報告されたことです。 死因は不明例も多く、本剤との直接的な因果関係は確定していませんでした。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000148904.pdf
結論は「因果関係不明でもブルーレター発出」です。
安全性速報の発出と同時に、薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会が開催されました。 その審議結果を踏まえ、添付文書の改訂も合わせて行われ、医療関係者への注意喚起が徹底されています。
参考)統合失調症治療薬「ゼプリオン水懸筋注」に関する安全性速報(ブ…
ブルーレターは、添付文書の「警告」欄に記載するほど重大ではないが、重篤な副作用等が発生した場合に緊急で発出されるものです。 「安全性速報」と「緊急安全性情報(イエローレター)」は異なります。この違いを知っておくことは、院内での情報共有において非常に重要です。
| 区分 | 通称 | 緊急度 | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| 緊急安全性情報 | イエローレター | 非常に高い | 使用禁止・回収等を伴う最重大情報 |
| 安全性速報 | ブルーレター | 高い | 重篤な副作用発生時の注意喚起・適正使用徹底 |
国内のEPPV(市販直後調査)期間中に報告された死亡32例のうち、78.1%にあたる25例で抗精神病薬の多剤併用が行われていました。 これは見逃しがちな重要なデータです。
参考)パリペリドン持効性注射剤、国内市販後の死亡例分析結果|医師向…
また、死亡32例中23例が心血管リスク因子を有し、19例(59.4%)が50歳以上でした。 高齢・心血管リスクを持つ患者への投与には特段の注意が求められます。
厳しいところですね。
日本でのEPPV期間中の死亡報告率は5.84/1,000人・年であり、これは米国(0.43/1,000人・年)やグローバルデータ(0.38/1,000人・年)を大幅に上回る数値です。 ただし、研究者らはこの死亡率が「日本の臨床試験や患者コホート研究の観察死亡率(10.2/1,000人・年)と一致している」とも指摘しています。
つまり、死亡率の高さは必ずしも本剤固有のリスクではなく、統合失調症患者そのものが持つ背景リスクを反映している可能性が大きいということです。
この点の理解が不足していると、過度な投薬忌避につながり、本来必要な患者への治療機会を奪う恐れもあります。患者の心血管リスクファクターや多剤併用状況を投与前に必ず棚卸しするのが原則です。
参考:ケアネット「パリペリドン持効性注射剤、国内市販後の死亡例分析結果」(2016年)
パリペリドン持効性注射剤、国内市販後の死亡例分析結果|医師向…
安全性速報では、急激な精神興奮等の治療を必要とする不安定な患者、および複数の抗精神病薬の併用が必要な状態にある患者への使用を避けるよう明確に注意喚起しています。 これが実臨床で最も守られにくいポイントです。
参考)エラー
添付文書上の禁忌としては、昏睡状態の患者、クロザピン(クロザリル)との併用、アドレナリン(ボスミン)との併用、中等度から重度の腎機能障害(クレアチニン・クリアランス50mL/分未満)が明記されています。
参考)ゼプリオン筋注[パリペリドンパルミチン酸エステル]作用機序、…
禁忌は4項目が条件です。
腎機能障害患者への投与が禁忌であることは、見落とされやすい点です。パリペリドンはほぼ腎排泄であるため、腎機能低下時には血中濃度が想定外に上昇します。 投与前のクレアチニン・クリアランス確認は必須の手順といえます。
参考)医療用医薬品 : ゼプリオン (ゼプリオン水懸筋注25mgシ…
クレアチニン・クリアランスの簡易計算には、病院の薬剤師との連携が有効です。eGFRだけでなくCCrを実際に算出する習慣を持つことで、腎機能障害患者への投与ミスを未然に防げます。
LAI製剤であるゼプリオンは、注射部位と患者体重によって使用する針の規格が細かく指定されています。 この点が経口剤にはない、注射剤特有のリスク要素です。
参考)ゼプリオンTRI水懸筋注175mgシリンジの効能・副作用|ケ…
具体的には以下の通りです。kegg+1
適切な針を使わないと有効な血中濃度が得られないリスクがある、と添付文書にも明記されています。 「針が刺さればよい」という認識は危険です。
また、静脈内への投与は絶対禁忌であり、皮下投与も禁止されています。 注射部位は毎回左右交互とし、同一部位への反復投与も避けなければなりません。
これは忘れがちですね。
初回負荷投与を行った場合には、投与3回目(day35)から定常状態の血中濃度に達します。 負荷投与なしに投与を開始した場合は、定常状態到達まで非常に長期間かかります。この点を知らずに効果判定を早まると、不適切な増量や変薬につながる恐れがあります。
参考)https://plaza.umin.ac.jp/~juku-PT/D/D015.pdf
参考:PMDA 医薬品・医療機器等安全性情報 No.313「ゼプリオン水懸筋注シリンジの使用中の死亡症例について」
https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/313_1.pdf
安全性速報の発出後も製剤開発は続き、2020年には12週間(3ヶ月)隔筋注製剤(ゼプリオンTRI)が国内で新発売されています。 これは月1回製剤(PP1M)での治療が安定した患者向けの製剤です。
参考)持効性抗精神病剤『ゼプリオンTRI®水懸筋注シリンジ』新発売…
PP3Mの特定使用成績調査(PMS)では、585例中36例(6.2%)に副作用が認められました。 主な副作用は統合失調症(1.7%)、高プロラクチン血症(1.2%)、眼球回転発作(0.5%)です。
参考)https://www.iyaku.info/archive/up_img/1715247111-128139.pdf
数字を確認しておくことが基本です。
PP3Mへの切り替えにあたっては、PP1Mにて十分な安定状態が確立されていることが条件です。 急激な精神興奮を有する患者への使用禁忌は、PP3Mにおいても引き続き適用されます。pref+1
高プロラクチン血症は持効性注射剤で生じやすく、女性では無月経・乳汁漏出症、男性では性機能不全・勃起不全として現れることがあります。 患者への事前説明が不十分なまま投与を開始すると、患者の自己判断での治療中断につながるリスクがあります。投与前に副作用の可能性を丁寧に説明しておくことが、治療継続率の向上と医療安全の両立につながります。
参考:厚生労働省「パリペリドンパルミチン酸エステル持効性懸濁注射液(12週間隔筋注製剤)の使用上の注意の改訂について」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc5366&dataType=1&pageNo=1