アビジン(avidin)とストレプトアビジン(streptavidin)は、ビオチンと結合する特性を持つ4量体タンパク質として知られています。これらのタンパク質は、各モノマーが1個のビオチン分子を結合し、合計4個のビオチンと相互作用することができます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3029397/
アビジンは鶏の卵白から得られるタンパク質で、1940年代に発見されました。一方、ストレプトアビジンは細菌Streptomyces avidiniiによって産生される細菌由来のタンパク質で、1964年に初めて単離されました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8033661/
両者の結合親和性は極めて高く、ビオチンとの解離定数(Kd)は約10⁻¹⁵mol/Lという値を示します。これは非共有結合の中では最も強力な相互作用の一つであり、この特性が医療診断分野での応用を可能にしています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%97%E3%83%88%E3%82%A2%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%B3
アビジンは分子量約66,000ダルトンの糖タンパク質で、4個のサブユニットから構成されています。その構造的特徴として、糖鎖修飾を受けており、これが水溶性を向上させています。また、等電点が塩基性(pH 10.5程度)であることから、生理的条件下では正電荷を帯びています。
最新の研究では、アビジンファミリーに関連する遺伝子(AVR遺伝子)が鶏ゲノム中に複数存在することが明らかになっています。これらのAVRタンパク質(AVR1-7)は、アビジンと異なるビオチン結合親和性や生化学的特性を示すことが確認されており、新たな診断技術への応用の可能性が期待されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1222514/
さらに、化学的修飾によってアビジンの特性を改変する研究も進んでいます。例えば、S16C変異を導入することで化学的に活性なチオール基を導入し、共有結合可能なアビジンを作製することが可能です。
ストレプトアビジンは分子量約53,000ダルトン(52-55 kDa)の非糖化タンパク質で、アビジンよりもわずかに小さい構造を持っています。細菌由来であることから糖鎖修飾を受けていないため、非特異的結合が少ないという重要な利点があります。
参考)https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1006252
等電点は弱酸性から中性(pH 5-7)であり、アビジンの塩基性と対照的です。この特性により、生理的pH条件下での安定性が向上し、医療診断における偽陽性反応のリスクを低減できます。
ストレプトアビジンの熱安定性もアビジンより優れており、変性に対する抵抗性が高いことが知られています。この特性は、厳しい実験条件や長期保存が必要な診断キットにおいて重要な利点となります。
最近の研究では、特定のサブユニットを遺伝学的に改変し、二価性ストレプトアビジン(cis型およびtrans型)を作製する技術も開発されています。これにより、従来の4価性による結合の複雑さを回避し、より精密な分子間相互作用の制御が可能になっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4047826/
近年のゲノム解析研究により、ストレプトアビジン様タンパク質が放線菌門、プロテオバクテリア門、バクテロイデス門に広く分布していることが明らかになりました。これらの細菌由来アビジンは、宿主細菌の生態学的ニッチに応じて異なる特性を示します。
特に注目すべきは、抗生物質産生菌であるStreptomyces属細菌においてストレプトアビジン産生能力が高いことです。これは、ビオチン代謝の阻害による抗菌効果と関連している可能性が示唆されています。
さらに、海洋環境や土壌環境に生息する細菌からも新規のアビジン様タンパク質が発見されており、これらは従来のストレプトアビジンとは異なるpH耐性や塩濃度耐性を示すことが報告されています。
現代のタンパク質工学技術を用いて、アビジンとストレプトアビジンの特性を改良する取り組みが活発に行われています。代表的な改良型としてNeutrAvidinがあり、これはアビジンから糖鎖を化学的に除去した製品です。
酸化アビジンの開発も注目されており、リガンド補助過ヨウ素酸ナトリウム酸化法により、ビオチン結合部位を保護しながら組織結合特性を向上させた修飾アビジンが作製されています。この酸化アビジンは、投与組織からのクリアランスが遅延し、より長期間の治療効果が期待できます。
参考)http://www.jbc.org/article/S0021925820873050/pdf
最小ビオチン結合フラグメントの研究も進んでおり、ヒドロキシルアミン処理によってアビジンのプロ認識部位を同定する試みが行われています。これにより、より小型で特異性の高い結合分子の開発が可能になる可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1151383/
アビジンストレプトアビジンシステムは、現代の医療診断技術においてELISA、免疫組織化学、フローサイトメトリーなどの基盤技術として広く活用されています。特にABC法(Avidin-Biotin Complex法)やLSAB法(Labeled Streptavidin-Biotin法)は、シグナル増幅による高感度検出を実現しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5222781/
ナノ医学分野では、アビジン基盤ナノ粒子の開発が進んでいます。これらのナノ粒子は、ドラッグデリバリーシステムや分子イメージング技術において、標的特異性と生体適合性を両立させる革新的な技術として期待されています。
また、Avi-tag技術により均一にビオチン化されたリコンビナントタンパク質を用いることで、ストレプトアビジンコーティング表面での配向制御が可能になり、より精密な診断システムの構築が実現されています。
参考)https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/category/01865.html
興味深いことに、エストラジオール(E2)を標識分子として用いる新しい検出系も開発されており、従来のビオチン-アビジン系よりも高特異性かつ高感度なタンパク質検出が可能になっています。この技術は、生体試料中のバックグラウンド低減により、S/N比の大幅な改善を実現しています。
参考)https://biosciencedbc.jp/dbsearch/Patent/page/ipdl2_JPP_an_2009281331.html