ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)は、1986年に谷口克らによって発見された特殊なリンパ球で、NK細胞とT細胞の両方の特徴を併せ持つことからその名が付けられています。この細胞は、T細胞、B細胞、NK細胞に続く「第4のリンパ球」として位置づけられており、免疫システムにおいて極めて重要な役割を果たしています。
NKT細胞の最も特徴的な点は、通常のT細胞とは異なる抗原認識システムを持つことです。従来のT細胞がMHC分子に提示されたペプチドを認識するのに対し、NKT細胞はCD1d分子に提示された糖脂質を抗原として認識します。この独特な認識システムにより、T細胞が認識できない範囲の抗原に対しても免疫応答を誘導することが可能となっています。
NKT細胞の分布と存在量
NKT細胞は、その受容体(NKT-TCR)の違いによってI型とII型に分類されます。大部分を占めるI型NKT細胞は、Vα24Jα18という均一な可変部位を持つTCRを発現しており、「invariant(不変な)NKT細胞(iNKT細胞)」とも呼ばれています。
NKT細胞は免疫システムにおいて「司令塔」としての機能を発揮します。活性化されたNKT細胞は、多量のサイトカインを産生し、他の免疫細胞を活性化させるアジュバント作用を示します。このアジュバント作用こそが、NKT細胞の最も重要な生体内での役割と考えられています。
主要なサイトカイン産生とその効果
NKT細胞のユニークな特徴は、クローン増殖を必要とせず、抗原認識と同時に即座に大量のサイトカインを産生できることです。この迅速な応答性により、感染初期の防御において重要な役割を果たしています。
さらに、NKT細胞は自然免疫と獲得免疫の橋渡し役として機能します。NK細胞やマクロファージなどの自然免疫細胞、そしてT細胞やB細胞などの獲得免疫細胞の両方を活性化することで、包括的な免疫応答を誘導します。
NKT細胞の抗腫瘍効果は、6つの主要なメカニズムによって発揮されます。これらのメカニズムは相互に連携し、がん細胞に対する強力な攻撃システムを構築します。
1. 樹状細胞の成熟化促進
がん環境下では、がん細胞が産生する免疫抑制因子により樹状細胞の成熟が阻害されます。活性化NKT細胞は、この免疫抑制を解除し、樹状細胞の成熟を促進することで、適切な抗原提示を可能にします。
2. 直接的細胞傷害活性
NKT細胞は、NK細胞とキラーT細胞の両方の性質を持つため、MHC分子の発現有無に関わらず、がん細胞を直接攻撃することができます。この特性により、免疫回避機構を獲得したがん細胞に対しても効果を発揮します。
3. 血管新生阻害作用
活性化NKT細胞は、血管内皮増殖因子(VEGF)などの血管新生因子の産生を抑制し、がん組織への栄養供給を断つことで、がんの増殖・転移を阻害します。
4. 免疫抑制解除機能
がん患者の体内に存在する免疫抑制細胞(制御性T細胞、骨髄由来抑制細胞など)を除去し、免疫系の機能回復を図ります。NKT細胞は免疫抑制物質の受容体を持たないため、免疫抑制環境下でも機能を維持できます。
NKT細胞を標的とした免疫治療は、すでに臨床応用が進んでおり、優れた治療成績を示しています。千葉大学などでの臨床研究の結果に基づき、厚生労働省の先進医療Bとして以下の適応が承認されています:
承認された適応症
治療プロセスは以下の4段階で構成されます:
この治療法の特徴は、患者自身の免疫細胞を活用するため副作用が少なく、長期間の免疫記憶を形成することです。実際に、肺がん治療において9ヶ月以上の免疫記憶持続が確認されています。
近年の研究により、NKT細胞が従来考えられていた以上に複雑で高度な機能を持つことが明らかになってきました。特に注目されているのは、NKT細胞の記憶免疫機能です。
2014年の理化学研究所の研究では、NKT細胞が記憶免疫機能を持つことが発見されました。この記憶機能により、一度遭遇した抗原に対してより迅速かつ強力な免疫応答を示すことが可能となります。
記憶NKT細胞の特徴
iPS細胞技術を用いたNKT細胞の大量増殖技術も開発が進んでいます。この技術により、患者由来のNKT細胞を体外で大量に増殖させ、より効果的ながん免疫治療を実現することが期待されています。
さらに、NKT細胞のエピジェネティックな制御機構に関する研究も進展しており、CD8陽性T細胞と同様に、ヒストン修飾などのエピジェネティクス機構によってその機能が精密に制御されていることが示されています。
将来展望
これらの研究成果により、NKT細胞を用いた免疫治療は、従来の治療法では効果が限定的であった難治性がんに対する新たな治療選択肢として、その重要性がますます高まっています。